皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「続・戯言艶語 ~ぞく・ざれごとつやがたり~」前編

六花書房」のゆゆきさんからの頂き物です♪


今回のこのお話は、ゆゆきさんのサイトで公開されているSS「戯言艶語」の続編にあたりますが、
そちらを読まないでもお話は通じるように書かれています。

そして筆の乗ったゆゆきさん、前後編に分ける程の長さに仕上げました^^
後編はおまけ絵が仕上がりましたらすぐにUPしますので、ちょっとお待ちを(^^ゞ


ではでは、
ちょっとお茶目な千鶴ちゃんと、乗りに乗った沖田さんと、残念なちー様wのお話www
続きからお楽しみ下さい♪



挿絵は感謝を込めてゆゆきさんに進呈します。
他の方は御遠慮下さいね。



続・戯言艶語 ~ぞく・ざれごとつやがたり~



突然だけど、私はまたまたあの人に襲われている。
新選組の皆さんに何度追っ払っていただいても、懲りずに私の前に現れる彼には、もはや呆れて言葉も出ない。
何度も言うけれど、私には彼の元へ行く気など全く!これっぽっちも!!爪の先程も!!!無いって言うのに、どうして彼はこんなにも私に固執するのかなぁ?
あの人はそれこそ、全く私の好みではないけれど黙っていればそこそこ男前ではあると思うし、性格には多大に難がある気はするけれどお金には不自由をしない身分らしい。
そんな男の人なら私以外の女の人なんかいくらでも寄ってきそうなものじゃない?
まあ、彼の本性を知ったら愛想をつかして逃げちゃう女の人もたくさんいそうだけど、ね。
そもそも彼が必要なのは、私という存在ではなく、女鬼という存在なんだもん。
彼は私が鬼だから『子を産ませるために必要だ』なんて言うけれど、そんな事を言われて『そうですか、喜んで』と彼の元に行く気になる女の人がいるのなら顔を拝んでみたいものだと思う。
つまりは、鬼だったら誰でもいいって事じゃない!
そんな人のところに、誰が好き好んで行くものですかっ!!
何よりも、私にはずっと傍にいたいと思っている人が他にいるのだから尚の事、そんな話はお断りです。
私の恋する相手は、いつも私をからかっては笑っているような人だけど、私はそんな彼の笑顔が好きだったりするのだから、恋と言うのは全く恐ろしいものだと思う。
『あばたもえくぼ』で、彼の悪い所も全部可愛らしくて愛おしく思えちゃう私って、相当彼に参ってるって事・・・なのかな?
でも彼もそっけない素振りをしているけれど、私の事を憎からず思ってくれてる・・・はず・・・そう、思いたい。
口では何だかんだと言いながら、私が危険に晒されている時はいつでも守ってくれるし、あながち思い込みじゃないと思うんだけど・・・な。
なかなか私の気持ちは伝わらないけれど、それでも、少しでも傍にいて彼の不思議な色を秘めた瞳にいつでも映っていたいの。
そう願う相手がいるのだから、他の男の人なんてどんなに条件が良くったってお呼びじゃないんですっ!
これは私が、またまた風間さんにちょっかいを出されている時に、沖田さんが守ってくれた時のお話。
風間さんはこっぴどい目に遭わされてたけど、それはいつまでもしつこいあの人が悪いよね?なんて思ったらちょっとかわいそうかな、うふふ。

【続・戯言艶語 ~ぞく・ざれごとつやがたり~ 】


というわけで・・・。
私は今、京の街中を全力疾走中だったりする。

「いやぁー、来ないでーっ!!!」

もはや後ろを振り返る余裕すらないが、背後にじわりじわりと近づいて来る気配で、敵が私の事を諦める事なく追いかけて来ている事はひしひしと感じ取れる。
ああ、どうしてこんな目に遭ってるんだろう・・・悔いてみても後の祭りで、とにもかくにも私は今、救いの手を求めて京の街をさ迷っている。

そもそもの発端は、私が例によって例のごとく迷子になってしまったのが失敗だったのだ。
一番組との巡察に同行して、今日も一生懸命父様の手がかりを街の人に聞いて回っていた。
しかし、どうも私は一生懸命になり過ぎると回りが見えなくなってしまうようで・・・街の人に次から次へと尋ねている間に、隊の皆さんとはぐれてしまったのだった。
今日も屯所を出る時に、沖田さんには口を酸っぱくして「今度迷子になったらその時は・・・わかるよね?僕の仕事は街の不逞浪士を取り締まることで、君のお守りじゃないんだよ。」と言われてきたばかりだと言うのに・・・。
いつも迷子になった私を、沖田さんは不満をたらたら言いつつも見つけてくれるけれど・・・今日釘を刺す時の彼の目は全く笑っていなかった事を思い返すと、今日こそはもはや捨て置かれるかもしれない、よしんば探しに来てくれたとして、その後にどんなに恐ろしいお仕置きが待っているかと思うと、私は目の前が真っ暗になった。
しかし、私は一人では到底屯所に戻れない。京の街は私には複雑すぎて、何度巡察に同行しても道を覚えることが出来なかった。
京の街はとにかくわかりづらくて、この碁盤の目になっているのが私にとってはくせ者だった。
沖田さんや他の隊士の皆さんは、碁盤の目だからこそわかりやすい、それでどうやって迷子になるの?と不思議そうな目で私を見るけれど、私からしてみれば、角をひとつ曲がってみても二つ曲がってみても、とにかく同じようなお店や民家が立ち並んでいて、そうして何度か角を曲がるだけで自分がどの方向を見ているのかわからなくなって、最終的にどっちに帰ればいいのかわからなくなってしまうのだ。
皆さんに言わせると、こんな私は方向音痴らしいけれど、私からしてみればこんな迷路みたいな構造の京の街が悪いのだと言ってやりたい。
だって、江戸の街にいた頃は、どんなに知らない路地に入ってもちゃんと家まで帰れたし、父様を探して江戸から京の街にだって私は一人で旅をしてきたんだもの。
私が方向音痴だったら、こんな長旅で京までたどり着けるはずがないと思わない?
だから、毎回迷子になっちゃうのは私が悪いんじゃなくて、このわかりづらい碁盤の目が悪いのよ!!・・・と、いくら一人で息巻いたところで、私は帰り道がわからない迷い子には相違なかった。
途方に暮れながらとぼとぼと角をひとつ曲がり、二つ曲がり・・・当てどもなく何度角を曲がった頃だろう・・・?
丁度曲がった先の立派な商家から人が出てくるのが見えた。
その人はえらく派手な出で立ちで、遠目に見てもただの人とは思えない。
黄金色の髪は短いながらもサラサラと風になびき、えらく仕立てのいい着物を身に纏っているが、その素材は上等の織物を使っている事が一目でわかるほどだ。
悠々とその軒先から出てきたその人に私はひどく見覚えがあった。私は彼の姿を見るなり、あっと思って踵を返した。
いきなり駆け出してはさすがに怪しまれるだろうと思って、駆け出さないまでも精一杯足を動かして足早にその場を去ろうとした。それなのに・・・。
その人は挙動不審な私に即座に気がつくと、全く急いだ風でもないのにあっという間に私に追い付いて、いつの間にか肩に手を乗せていた。

「おい、女。久しぶりに同胞に会ったと言うのに、挨拶もないとはあまりに無礼ではないのか。」

背後からかけられた言葉はまるで私を責めるような言い草だけど、その声色はまるで偶然の再会を喜ぶように嬉々としている。
ど、どうしよう・・・私は今、迷子なのだ。いつものように守ってくれる人は誰一人としていない。
でも、このまま彼に連れ去られて、無理やりに嫁にされるのなんて絶対に嫌ッ。この危機を脱するには、自分でどうにかするしかないのだ。
幸い、私はまだ彼に顔を見られてはいないはず・・・そう思って、ダメ元でしらばっくれることにした。

「ひ、人違いではないでしょうか?私、急いでますので・・・。」

一刻も早く逃げたい気持ちが声を甲高くさせて、まるで私ではない誰かが話しているようだったが、人違いを装うならその方が都合がよかった。
私の肩を掴んでいる彼の手を力任せに振り払うと、そのまま立ち去ろうとした・・・が、もちろん、そうは問屋が下ろさなかった。

「待て、雪村千鶴!このような広い京の中で偶然出会ったのも何かの縁。いや、むしろ俺とお前の切っても切れない縁の証だ。大人しく俺と共に来い。」

やっぱりそう来たか!と思いはするものの、それならばなおさら彼の声に耳を貸している場合ではなかった。
彼が一方的に話している声を振りきって、私は逃げる体制に入った。
屯所への帰り道も今はわからないけれど、とにかく今はあの人から逃げ切らないと・・・そう思うと、私の右足は地面を強く蹴った。

「き、貴様・・・俺を無視するとは何事だ。」

俺様気質の彼がこんな風に邪険にされて、黙っているはずがない。先程私を見つけて声をかけた時とは違って、重苦しい空気を纏って私を追いかけてきているのがひしひしとわかった。
私は逃げた。
右へ、左へ、小さな路地があればそっちへ飛び込んで、抜け出た先の大きな通りを横切って、また民家の脇の小さな路地に入って・・・。
あまりに闇雲に走り回ったせいで、もはや自分が京の街の中心にいるのか外れにいるのかさえもわからず、息も上がって胸が苦しい・・・それなのに、あの男はまだ私を諦めきれずに追いかけてくる・・・。

「もーーーーっっ、いい加減にしてくださいっっっ!!!!いやあああーーー。」

もはや自分が男の振りをしている事など忘れて、小娘の悲鳴をあげながら無我夢中で走り回った。
息も絶え絶えに何度目かの曲がり角を曲がると、視界の端にちらりと私が走りながら探し求めた浅黄色が見えた気がした。
勢いがつき過ぎて勝手に直進しようとする足を無理矢理に方向転換させ、私はその浅黄色に向かって手を伸ばした。

「助けて、沖田さんっっ!!!」

隊服を着たその人の顔を見なくても、私にはそれが沖田さんだとわかっていた。だって、いつも迷子になった私を彼は悪態をつきながらも探し出してくれるのだから。
『どうして君はいつもそうなの!もう知らないよ。』そんな風に叱りながら頭にコツンとお仕置きをされるけれど、彼の目だけは『心配したんだよ』と嘘のない本当の彼の気持ちを教えてくれる。
一緒に同行した一番組の他の誰でもない、沖田さんだけが私の事を探してくれていると知っていたから、私は迷わずその人の腕の中に飛び込んだ。

「・・・っと、千鶴ちゃん!?まったく君は、今日こそ迷子になったら知らないって・・・。」

いきなり自分に飛び付いてきた私に沖田さんはやれやれと苦笑いをして早速お小言を言おうとしたけれど、今はそれを素直に聞いている場合ではなかった。
もう私は息があがりすぎていて、まともに言葉を紡ぐことが出来ない。
沖田さんの襟首を強く引っ張って彼を見つめると、首を横にブンブン振って、それから慌てて自分の後ろを指差した。
沖田さんは私の慌てぶりに一瞬キョトンとしたものの、私の指差す方向、及びそちらから発せられるただ事ではない気配にすぐに状況をわかってくれた。

「全く、君って子は・・・迷子になっただけじゃ飽きたらず、鬼ごっこして遊んでたの?」

彼にとっては厄介事以外の何者でもないものを引き連れて戻った私に呆れたような顔をして見せた。が、彼の態度とは裏腹に、背後から感じる気配に彼の目にはキラリと好戦的な光が灯った。
私を追いかけてきた敵は、沖田さんからしても剣を交える相手としては不足がないはずだ。
そんな相手とやりあえることが嬉しいのか、私としてはこのまま逃げたい気持ちでいっぱいなのに、彼は嬉々とした笑みを浮かべている。
沖田さんは刀を抜いて、襲いかかってくる敵に備えた。
彼の懐の中にいる私の、肩を抱く手にグッと力が入る。自分の方へ強く引き寄せて「僕から離れちゃ駄目だよ。」そう耳元で囁かれる声に、私はとても安心した。
沖田さんのそばにいれば大丈夫、絶対絶対、彼は私の事を守ってくれるから。私は強い信頼と、そして密かに好意を寄せている熱いまなざしで彼を見上げた。
そしてとうとう二人は、京の街中のどこか細い路地裏で再び対峙し会うことになった。
カット526


私を追ってきたあの人は、私と同じ距離を走ったはずなのに息のひとつも乱れていない・・・全く恐ろしい人だと思う。
けれど、彼のもっとも恐ろしいところは、自分の存在が絶対であると疑わない不遜な態度だ。
一度私をめぐって沖田さんが彼の鼻っ柱をポキリと折ってくれた事があったけれど、そのときは気持ちが清々とした事を思い出した。
路地の先で待ち構えていた私たちを見つけると、彼は歩みを緩めてゆるりと話しかけてきた。

「千鶴、鬼ごっこはもう終いか。ならば諦めて、俺の元へ来い。西国を統べる俺に何の不満があるというのだ。お前には何不自由のない暮らしをさせてやろうと言うのに、全く手間をかけさせる。そんな非力な人間に頼るのはもうやめろ。」

彼は私を今守ってくれているのが、以前手痛い目に遭わされた沖田さんだと気づいていないのか、嘲笑を浮かべながらにじり寄ってくる。
こちらはすでに刀を抜いていると言うのに、抜刀する素振りもない。力のない人間など、刀がなくてもどうにでもなると、彼の態度が雄弁に語っている。
しかし、沖田さんはそんじゃそこらの剣客とは訳が違うんだからっ!!
私しか見えていない様子の彼に、沖田さんは相手が刀を抜いていないのも承知の上で迷わず喉元に切っ先を突きつけた。

「ねえ、僕のこと無視しないでくれる?」

その台詞とは裏腹に、沖田さんは特に苛立った様子もなくのんびりとした口調だ。
自分の剣技に絶対の自信がある沖田さんだからこそ、こんな時は恐ろしいほどに冷静だ・・・いや、冷静でなければ、勝ち続ける事などできないのだろう。
沖田さんの強さの秘密は、その剣の技もさる事ながら、いかなる時も慌てず騒がずに対処する冷静さなのかもしれない。
敵は沖田さんの呼びかけに仕方なしに視線をあげたものの、途端にその顔色が色めき立ったのを、私は見逃さなかった。

「き、貴様は・・・あの時のっっっ!!!」
「やあ、僕の事覚えててくれたんだ。」
「当たり前だっ!!あの時の屈辱は一刻たりとも忘れた事はなかった。いい機会だ、今こそあの時の恨み晴らしてくれよう、ククク。」
「屈辱?僕、君に何かしたっけ?覚えてないなぁ・・・えーっと、君の名前は確か・・・風間・・マヌケさんだったかな?」

!!
「・・・ぶふっ。」

以前やり込められた風間さんは、沖田さんに仕返しする気満々のようだけど・・・こういう『戦い』なら沖田さんの方が一枚も二枚も上手なんだよね。
早速に沖田さんの先制攻撃が決まってしまったようだ。
それにしても、風間さんの事をそんな風に言うなんて・・・お、おなか痛い・・・風間マヌケって・・・あの人にこれ以上の侮辱ってあるのかな。

「ちょ、千鶴ちゃん何笑ってるの!今、そんな場合じゃないんだよ。」
「だ、だって沖田さんが・・・彼の名前は風間千景さんですよ!」

そんな状況じゃないって十分わかっているのに、こんな状況に似つかわしくない沖田さんの間延びした言い方が妙にツボに入ってしまって、私は彼の腕の中で噴出してしまった。
もちろん、風間さんの怒りはいきなり頂点に達してしまったようだ。それにしても、前にもこんな事、あったような・・・?
沖田さんとの戦いは、先に熱くなった方が負けだってわかってないんですね・・・。

「貴様ァァァ、俺の事を言うに事欠いてマヌケだと!?この気高い純血の鬼である俺をそのようにコケにするなど・・・生かしてはおかんッッ!!」
「おおっと・・・いきなり斬りかかってくるとか、やめてくれる?千鶴ちゃんが怪我をしたら、君も困るんじゃないの?」

風間さんの目当ては私なのだ。私を斬ってしまったら元も子もないだろうと思うところだが、風間さんは私を多少傷つけても大したことではない思っているようだった。
彼の剣は私ごと沖田さんを斬り捨てようと襲い掛かってくる。

「ふん、その女は我らと同じ鬼だ。傷などすぐに治る。貴様らか弱い人間と違ってなァッッ!!」

もはや怒髪天の勢いの風間さんは、自分をコケにした沖田さんを討ち取ろうと鋭い斬撃を間髪入れずに繰り出してくる。
一方、沖田さんは私を片手に抱いているために風間さんの打ち込みをまともに受けることもできずに、相手の攻撃を受け流すことで精一杯のようだ。
ど、どうしよう・・・私がいたんじゃ、沖田さんはまともに戦えない・・・。
彼の腕の中にいると、私としては絶対守ってもらえる安心感はあるものの、自分がいることによって沖田さんを不利な状況にしている事がもどかしかった。
そんな状況でも沖田さんは私を庇ったまま風間さんの打ち込みを凌いで見せた。
こちらが防戦一方なのを見て取ると、風間さんは自分が圧倒的に有利だと確信したようだ。さっきまで憤怒に燃える顔をしていたのに、急に口許にこちらを嘲るような笑みを浮かべた。

「フン、貴様もその程度か。沖田と言えば剣の腕がたつと聞いていたがとんだ期待はずれよ。お前は剣よりも口が達者なただの詐欺師だ。」

そう言うと、風間さんは刀を持っていない左手で右の袂をごそごそと漁ると何かを取り出し、バサッとこちらに投げてよこした。
それは何かの本のようで・・・うん・・・??なんだか、これって見覚えが・・・??

「貴様はその女を抱いたと言っていたが、フン、なんの事はない。巷で流行っていたその本の中身をそらんじていただけではないか。とんだ茶番だったな。」

あーーーっ!!
私は風間さんが懐から取り出した本が何なのかわかった。
思わず沖田さんの方へ目を向けると、彼は盛大に苦笑いしていた。
私も呆れて言葉も出ない・・・。
風間さんが懐から出したのは、少し前に私達とご縁があった春本だ。
以前風間さんが屯所に私をさらいに来た時に、沖田さんはたまたま持っていた春本の中身を、いかにも・・・あの、その・・・えっと・・・わ、私とのじょ・・・じょ、情事だったかのように話して聞かせて、もう他の男のものになった私に興味はないだろうと風間さんを追い払ってくれたことがあった。
今目の前にあるこれは、その時に使った春本と同じもののようだった。

「ククク、いつ貴様に会ってもあの時の嘘を暴露してやれるように、ずっと持っていたのだ。フン、貴様の考える浅知恵など、俺はとうの昔に見抜いていた。」

風間さんは沖田さんにおちょくられた事を根に持って、いつか逆襲してやろうとこうしてずっと証拠の品を持ち歩いてたんだ・・・証拠の品を片時も離さずに。
そう・・・春本を。な、なんて変態っっっ!!!!
風間さんは勝ち誇ったような恍惚の笑みを浮かべているけど、私たちが冷ややかな目で見ている事に気がついていないのかな・・・この人もよっぽど鈍いよね・・・はっきり言わなきゃわかんないんだね、きっと。
私は軽蔑の眼差しで風間さんを思いっきり睨み付けてやった。

「そんな本を持ち歩いているなんて、風間さんの助平ッ!!絶対あなたの元になんか行きません、いーっだっ!」

あれは何ヵ月の前の事なのに、それをずーっと肌身離さず持ってるなんて何て陰湿、陰険、変態っっ!!
私が沖田さんの影に隠れつつもあっかんべーとやると、風間さんはなぜ自分だけが私に罵られなくてはいけないのか理解できない様子だった。

「なっ・・・そもそもその春本を持ち歩いていたのはその男の方ではないか。そのような自身を慰める本、下衆と罵るのならばその男の方が先であろうがっ!」
「ははっ、僕は春本になんて興味ないよ。」

食って掛かってくる風間さんを沖田さんはあっさりとかわした。
自分だけ私に蔑みの目で見られたのが風間さんは納得がいかない様子だけど、風間さんは知らないかもしれないけれど沖田さんは春本なんか読む人じゃないんだから!

「そうです、あれは土方さんのもので沖田さんのじゃありませんっ!!沖田さんは風間さんみたいな助平とは違いますっ!!」

私は力いっぱい沖田さんを擁護した。
風間さんとしては数ヶ月溜めに溜めた渾身の一手だったはずが不発に終わってしまい、あまつさえ私に罵られてワナワナと震えている。
その様子は、ちょっと冗談じゃなく危険を感じるもので、彼の額からニョキニョキと本物の角でも生えてきそうな勢いだった。

「ね、千鶴ちゃん。君はちょっと下がってて。危ないから。」

沖田さんも危険を感じたのか私の背を押して物陰に隠れるように促すので、私は彼から離れて近くの物陰に隠れた。
うん、これで沖田さんは思う存分風間さんと戦えるはず。
沖田さんは風間さんの次の攻撃に備えて腰を低く落とすと、剣先をわずかに下げて相手との間合いをはかっているようだ。
京の街を知り尽くしている彼らは、こんな風に刀を十分に振るえない細い路地での戦い方も心得ている。
特に沖田さんは狭い場所での迎撃手段として突きを得意としている。平青眼に構えつつ切先を低く垂らして、ゆらゆらと揺らしながら相手を誘うのだ。
その誘いに乗って相手が斬りかかって来たならば、まずは相手の剣撃をあしらう様に受け止めて、そのまま相手の刃をなぞるように自分の刃を滑らせると相手の剣先を下に下げさせる。
その隙をついて沖田さんは切っ先を跳ね上げると、がら空きになっている相手の懐を間髪入れずに突くのだ。しかも目にも止まらぬ速さで、何度も何度も。
こういう狭い路地や、家屋の中では彼の突きは天下無双と言っても過言ではないだろう。
頭に血が上って冷静さに欠けている風間さんでは、逆立ちしたって勝てるわけがない。

「沖田さん、頑張ってっ!!風間さんなんてけちょんけちょんにして追い返しちゃって下さいッ。」

私が物陰に隠れながらも沖田さんに精一杯の声援を送ると、彼はこちらを振り返りはしないものの、左手をひらひらと振って私の声援を受け取ってくれた。
もちろん、私たちのそんな様子が風間さんの火にますます油を注いだのは言うまでもない。

「雪村千鶴、貴様ッ。我が嫁になる身でありながら、他の男に声援を送るとは何事だ。貴様には主人に仕える躾というものをたっぷり教えてやらねばならんようだ。」

そんな自分勝手で身の毛のよだつようなことを言うもんだから、私は思わず隠れていた物陰から飛び出すと、もう一度あっかんべーとしてやった・・・のに、私のその行動が彼の目にはどれだけ歪んで写るのか、「とんだじゃじゃ馬よ。しかしそんなお前を俺好みの女に躾け直すのもまた一興、フフッ。」となぜか愉快そうにニタニタと笑った。
私は背筋にぞーっと寒いものが走ると、足元に転がっていた石ころを拾ってえいっえいっと投げつけた。
それが攻撃を仕掛けるきっかけになったらしく、風間さんは私の投げた石ころを剣ではね除けると、そのまま沖田さんに向かって襲いかかっていった。
まずは初撃、風間さんの切り込みは沖田さんの懐深くまで届いたが、その切っ先が彼の体に届くその一瞬前に後ろに飛び退くと、下段に構えていた沖田さんの剣先が風間さんの刃を空中へ跳ね上げた。
よしっ!風間さんが沖田さんの間合いに入っている。
彼の間合いに入ってしまえば、風間さんがどんなに強くったって彼の斬撃をかわせるはずがない。私はそう確信したのだけれど・・・相手が人間であれば私が確信したことも間違いではなかったはずだけれど、風間さんは尋常ならざる力を秘めた『鬼』という存在なのだ。
沖田さんの雷撃のような突きが風間さんを捉えた、私にはそう見えたのに、それはあまりの速さで後ろに飛び退いた風間さんの残像に過ぎなかった。
沖田さんは追撃の手を緩めずに風間さんが退いた分だけ踏み込むと、もう一打、さらにもう一打と攻撃を加えた。
一撃目を避けたとして、彼の二撃目をかわす、もしくは受け止められる者などそうはいない。それでも万が一にもそれを逃れた者を確実に仕留めるための三度目の突きなのだ。
手練れの多い新選組の中でも、沖田さんの三段突きを喰らって、それを受け止められたのは三番組の斎藤さんだけしかいないと聞いた事がある。
例え真剣でなくても彼の突きをくらってはよくて打撲、悪ければ内蔵を損傷して死に至る危険もあるのだ。組の中では沖田さんとまともにやりあおうなどと思う人はごく一部しかいない。
しかし、風間さんはその沖田さんの突きを二撃目まで避け、あまつさえ三撃目は刀の腹で受け止めて見せた。

「なかなかやるようだが、所詮は人間。我ら鬼の敵ではないっ。」

そう言うと、風間さんは力任せに沖田さんを押し返してきた。
二人はギリギリと刃を交じらせて鍔迫り合いに入った。
まさか沖田さんが競り負けるなんてあり得ないけど、風間さんも強い・・・認めたくないけど、沖田さんとこれだけの勝負をしているのだからそれは認めざるを得ない。
私はハラハラと二人の戦いの成り行きを見守るしかできなかった。
沖田さんの勝利を信じるしかできない私は、両の手のひらを組むと祈るような気持ちで勝負の行方を見守った。
沖田さん勝って、お願いっ!!!

→後編へ続く。
  1. 2014/10/22(水) 10:15:50|
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