皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「濡れ燕」

テール×テール」のドラキョンさんからの頂き物です^^


大分前に描いた雨宿りのイラストへのSS。
自分で描いておいて、あの後、この3人、どういう組み合わせで帰ったのかな~と、ちょっと興味がありましたが―――
成程、こういうオチになりましたかw

平ちゃんだけが泣きを見る事にならなくて良かったね^^
と、ドラキョンさんのあったかさにほっこりなったSSは、続きからどうぞご覧下さい♪



挿絵は感謝を込めてドラキョンさんに進呈します。
他の方は御遠慮下さいね。


濡れ燕


「なんで行かせたんだよっ。」
俺の声にびくりと肩を揺らした隊士は、
雨音にかき消されてしまいそうな小さな声で言い訳めいた言葉をつぶやいた。
そいつの言葉なんて聞かなくったって、俺にだってわかっている。
あいつが言い出したことを、誰も覆せやしないって…。
でも、だからって、黙って見送るのではなく、多少なりともあいつの方に
肩入れしてやってほしかったと思ってしまうのは、
この場合仕方のないことだと思う。

「くそっ…。」
俺は、話を聞くや否や、手近にあった傘を引っ掴み駆け出した。
急いた気持ちのせいか、なかなか開いてくれないそれに今度は苛ついた。
その間も容赦なく俺の身体を雨が濡らしていく。
いっその事このまま雨に濡れて走ってしまおうか、その方が速く走れるし…。
そんな横着な考えが頭をよぎるが、頭を振って思い直す。
そんな風に迎えに入ったりしたら、あいつに心配をかけちまう。
不思議なものでそう思ったとたん、なかなか開かなかった傘が
すんなりと開いた。
「よっしゃあ~っ。」
俺は、一人声をあげると、泥が跳ねあがるのも気にせず、一気に速度を上げる。

降りだしてから少し時がたったせいだろうか。
通りにいつものような人通りはない。
他人にぶつかることを心配せず、俺は通りの真ん中を
目的地周辺まで駆けて行った。
その間も、俺の頭ん中は、あいつの楽しそうな顔がちらつき
(まったく思い出したくもないのにこんなとこまで出張ってくるなんて、
あいつにはあり得ないまめさだと思う)千鶴が無茶を振られていないか、
困っているんじゃないかと、心配が渦巻いていた。


それより一刻ほど前、屯所玄関先で…
「沖田さん、今日はお休みのところ、お使いの付き添いを引き受けいただいて、
ありがとうございます。お世話になります。」
千鶴が風呂敷包みを抱え、総司に頭を下げていた。
「本当、面倒なんだけど。近藤さんから言われたんじゃなきゃ、
引き受けたりしなかったよ。」
こちらは部屋でのんびりしていたところを、大好きな近藤に呼ばれ、
喜々として部屋に行ってみれば、千鶴のお守を申し付けられ、少々お冠だった。
「せっかくのお休みに、本当に申し訳ありません。」
「そう何度も謝られるとさ、何だか僕が物凄く意地悪しているみたいに
聞こえるんだけど。まさか千鶴ちゃん、
僕のことそんな風に見ているわけじゃないよね」
腕組みしつつ、顔を覗き込む沖田さんの笑顔を前に、
「そうですね。」
なんて答える度胸は、私にはない。笑顔を絶やさず首を振るので精一杯だ。

そんな私の様子を面白そうに見つめ、沖田さんは
「そう。じゃあ行こうか。」
と先に歩き出した。歩き出した背中に、
「待ってください。沖田さん、傘を持たないと。」
と声を掛けた。すると、沖田さんはどんより雲った空を見上げ、
「そんなに遠くまでお使いに出る訳じゃないんだし、
降りだす前に戻れるんじゃない。」
とまた歩き出す。
「で、でも、もし万が一途中で降りだしたりしたら、
近藤さんに頼まれたものが濡れてしまいます。」
私が再度呼び止めれば、沖田さんは足を止め、ため息をついた。
「だからさ、千鶴ちゃんがそうやってぐずぐずしなきゃいいんじゃないの。
まっ、千鶴ちゃんがどうしても傘を持って行きたいっていうんなら、
荷物になっちゃうけど、好きなだけ傘を持って行けばいいんじゃない。
千鶴ちゃんは優しいから、自分の分だけ持って行くなんてしないだろうから、
当然僕の分も君が持って行ってくれるんだよね。
僕は手がふさがったら、君について行く意味ないしね。」
そう言い終わると、今度こそ沖田さんは、すたすたと歩いて行ってしまう。
私は、腕に持った荷物と、私たちに傘を用意してくれた隊士の方の手に
視線を巡らせた後、小さく息を吐いて、遠ざかる背中の後を追った。

そして、用事を済ませ急ぐ私たちの周りの空気の中に
雨の匂いを感じ始めた途端、空から大粒の雨が落ち始めた。
「ちっ。千鶴ちゃん、あそこの商家の軒を借りよう。急いで。」
「は、はいっ。」
私は手の中の荷物を濡らさぬよう身をかがめて走り出した。
沖田さんの速さに遅れがちな私の所に、
先を走っていたはずの沖田さんが戻ってきて、私の手を掴んで走り出した。

軒へ飛び込むや否や、盛大なため息とともに、
ふわりと頭に手拭いがかけられた。
「本当、千鶴ちゃんて、世話が焼けるよね。出かける準備は遅いし、
歩くのもゆっくりだし、雨が降ってきても走ることもできないなんてさ。
千鶴ちゃんのせいで、近藤さんの荷物が濡れちゃうところだったじゃない。」
私は、その言葉にはっとして、手元の荷物に目をやる。
風呂敷にいくつもの雨粒の跡が見える。
私は慌てて、頭にかけられた手拭いを取り、荷物を拭こうとした。
手拭いの端を引っ張っているのに、私の頭から手拭いは
滑り落ちてはこなかった。
代わりに落とされたのは、大きなため息と、
手拭いの上からでもわかる、大きな手。
「千鶴ちゃんってさ、ときどき本当に馬鹿じゃないかって思うよ。 
いくら荷物が大事でもさ、それくらい雨に濡れたせいで、
中身がどうこうなる訳じゃないって分かるでしょ。
普通頭に手拭いが掛けられたらさ、『髪を拭いたら』ってことじゃない。
全く君って…。」
そう言いながら、ワシャワシャと髪が拭かれる。
ちょっぴり乱暴なそのしぐさのせいで私の頭は大きく揺れた。
「わ、私の事より、沖…田・さんが、ふい・てく・ださい。」
舌を噛みそうになりながら、私は沖田さんの手をよけようとした。

「僕より、千鶴ちゃんの方が先だよ。大丈夫。僕は、この雨に濡れたせいで
風邪を引くだろうけど、そうなったら、優しい千鶴ちゃんが
つきっきりで看病してくれるはずだから。千鶴ちゃんが手拭いを換えて、
ご飯を食べさせてくれて、ずっと僕の傍についていてくれるからね。」
なんで風邪を引くこと前提で話が進んでいるんでしょう。
「そ、そんなことになったら大変じゃないですか。
私は風邪なんてひかないですから、沖田さんこそ、身体を拭いてください。」
私は懐から手拭いを出して、沖田さんに向き合った。
「千鶴ちゃんが拭いてくれるんだ。こんな往来で、
濡れた男を拭こうとするなんて、千鶴ちゃんて、結構大胆なんだね。」
沖田さんは、瞳をキラキラさせて、私の方へ顔を突き出してきた。
「千鶴ちゃんの勇気に敬意を表して、お願いしようかな。」

前方に目を凝らせば、背の高い男と、小柄な小姓が寄り添い、
軒で雨宿りをしている姿が見えてきた。
よかった、あんまり濡れなかったみたいだ。
俺は、あいつの姿を認めて、安堵する。もう一人の方は、どうでも…。
まあ、あいつは濡れて歩くような奴じゃないから、
心配するだけ無駄だって分かっていたし…。濡れてたって自業自得だ。
出掛けの千鶴の言葉を切り捨てたんだからな。

だけど俺の足は、はっきりと見えてきた総司の珍しい表情に止まりそうになる。
総司が笑っている……。なんだかものすごく久しぶりな気がする…。
総司のあの笑顔を引き出したのってやっぱり、千鶴なんだろうな。
長い付き合いの俺達にだってあんな風に笑わせること、
最近じゃ難しくなっているのに…。

って、そうじゃねぇって。今、気にするところはそこじゃねぇって、俺っ。
総司の方を向いていてよくわからねぇけど、千鶴の背中が縮こまってんじゃん。
絶対に、総司の奴になんか言われて困っている。
止まりそうになった足に、力を入れて、俺は手にした傘を大きく振り回す。
「おーい、千鶴―っ。迎えに来たぜーっ。」
その声に、総司の目がスッと細められる。
「あ~あっ、気が利くんだか、利かないんだか。」
総司の呟きが、雨音に溶けて行く。
俺の声を聞いた千鶴の肩からゆっくりと力が抜けて行くのが、わかった。
くるりと振り返った千鶴は、俺の姿を認めると笑顔で俺に手を振った。

カット450

「平助君。迎えに来てくれたの?ありがとう。
ごめんね、雨の中迎えに来てもらっちゃって。
私が出かける時にちゃんと傘を持って出れば…。」
弾んだ声が、俺の足元を見て湿っていく。
そんな風に千鶴に謝ってもらいたいわけじゃなくて、
「待った、待った。それって千鶴が謝るところじゃないじゃん千鶴は、
傘持って行こうとしてたって聞いたし。」
俺は、千鶴の言葉を遮りつつ、こうなった原因の方をちらりと見やる。
俺の視線を真っ向から受けて、原因は含みのある笑顔を返しつつ、
「僕も持って行けばって言ったんだけどさ、荷物になるのが嫌だったみたいで。
手間は惜しむもんじゃないよって、さっき僕も千鶴ちゃんに言ってたところ。
ねっ、千鶴ちゃん。」
千鶴の顔を覗き込む。

「えっ、あ、はい…。沖田さんにも、平助君にも
ご迷惑をおかけしてしまって…。」
千鶴は申し訳なさそうに俺達に頭を下げた。
くっそう、総司の奴。千鶴が言い返さないからって、勝手なこと言いやがって。
「何言ってんだよ、総司。総司が持って行かなくていいって
言ったって聞いたぞ。」
俺が言い返すと、総司の目がまたスッと細くなった。
「誰がそんなこと言ったの。僕にそんな言いがかりをつけるなんて、
随分と命知らずがいたもんだと思わない、千鶴ちゃん。」
千鶴の肩がびくりと揺れる。
「誰って、お前たちが出かける時に…。」
総司の言い分に、俺が腹立ちまぎれに声をあげたら、
それを遮るように千鶴が俺の名前を呼んだ。
「へ、平助君っ。」
千鶴が、瞳を揺らし、唇を噛んで、俺を見つめている。
俺は、グッと拳を握って、俯いた。
そうだ。ここでそれを言っちまったら、無理矢理聞き出したあいつらに
迷惑がかかっちまう…。そんなの、千鶴は望んだりしない…。
「…何でもない…。」
俺が黙り込むと、頭の上で総司がふっと、わらった気配がした。

「千鶴ちゃんも、平助にお礼を言うのは、まだ早いんじゃない?」
突然変わった話題と、総司の口調に、
俺たち二人が怪訝そうに総司を見あげると、あいつは口角をあげた。
そして、総司の言葉に戸惑っている俺の手から、傘を取り上げる。
あいつが何を言いたいのかさっぱりわからねぇ俺は、
取り上げた傘を手の上で弄びながら、俺達を見ている総司に、噛みついた。
「言いたいことがあるんなら、はっきり言えよっ。」
「あれっ?二人ともわかんないの?簡単な算術のお題なんだけどね?」
ニヤリと笑ってそう返した総司の言葉に、千鶴が小さく声を上げ、
困ったように俺を見てきた。
えっ、何?そんなに簡単な事なのか?えーっ、何だ?算術のお題?なんで算術?
二人は分かったのにと思えば思うほど、焦ってますます答えが分からない。

目を白黒させる俺に、総司はゆっくりと喋りだす。
「今、僕たち二人が雨宿りしているところに、
親切な平助君が傘を持ってきてくれました。って、ここまでは分かるよね。」
総司が厭味ったらしく、俺に確認をする。俺は、むすっとしながら頷く。
そんな俺に笑顔を向けると、続きを話し出す。
「さて、その親切な平助君が、ここに持ってきた傘はさて何本でしょう?」
「何本って、そんなの決まってんじゃん。
差してきたのと、手に持ってきたので二本じゃ…、って、ああっ!」
大声をあげた俺を満足そうに見つめる瞳は、面白そうに輝いた。
「よかった。こんな簡単な算術ができないような奴が、
新選組の組長だなんて、ありえないよね。」
俺は奥歯がすり減るんじゃないかって勢いで、歯を噛みしめた。
俺ってバカみたいじゃん…。千鶴が濡れているんじゃないかって、
居ても立ってもいられずに駆けてきたけど、
ちょっと考えればわかりそうなもんじゃん。
総司に指摘されるまで、全然気がつかなかった…。

「ってことで、この一本は、当然僕が使わせてもらうけど、
そっちは誰が使うのかな?」
俺達の選択を楽しそうに見ている総司は、本当に嫌な奴だ。
「千鶴が使えばいいよ。俺は濡れて帰るし。」
俺が手にした傘を千鶴に押し付けるように差し出すと、
千鶴は身体の前で、手を大きく振った。
「だ、駄目だよ、平助君。平助君が差してきた傘だもの。
これは平助君が使わないと。」
そう言って、千鶴は傘を受け取ろうとしなかった。
「でも、それじゃあ、千鶴が濡れちまうじゃん。
っていうか、お前を濡らして帰しちまったら、
俺が迎えに来た意味ないじゃん…。」
最後の呟きは、俺の口の中で萎んで行く。

「平気だよ。これくらいの雨、濡れたって大したことないから。」
千鶴がそう言うと、
「千鶴ちゃん。手の中のそれ、まさかと思うけど濡らす気じゃないよね。」
総司が千鶴を睨み付けた。千鶴は、手にしたものを見つめ、
それから困ったように俺達を見た。
「あのう、でしたら沖田さん…」
おずおずと総司に声を掛けた千鶴を、総司はバッサリと切り捨てる。
「千鶴ちゃんは、自分が引き受けた仕事をまさか僕に押し付けようって
いうんじゃないよね。嫌だからね。
第一、そんなことしたら両手が塞がるじゃない。
もしかして千鶴ちゃん、僕が斬り殺されてもいいとか思っていたりするの?」
千鶴は、首を振りつつ総司の言葉を否定した。
なんで総司、そんな風に言うのかな。千鶴がそんなこと考えるわけないって、
いい加減わかりそうなもんだろう。
千鶴もさぁ、意地悪ばっかり言う総司じゃなくって、俺に言えばいいのにさ、ちぇっ。
ってちょっとふて腐れた俺を見て、千鶴は申し訳なさそうな顔をした。
その視線は、何故か俺の手に注がれていて…。
自分の手を見れば、なんだーっ、これっ。泥が跳ねて、泥だらけじゃん。
そりゃあ、千鶴も頼めないよな…、はあっ。

千鶴は、少しだけ俯いた後、口を開いた。
「でしたら、私は、もう少し雨が止んでから戻りますので、
お二人だけ先にお帰り…。」
「却下。」
にべもなく総司の言葉が響く。
「何のために僕が、君についてきたと思っているのかな。
君が万が一にも、逃げ出さないように監視するためでしょう。
上手いこと言って、逃げ出そうとしても無駄だから。」
「わ、私、そんなこと考えていませんっ。」
流石の千鶴も、腹に据えかねたのかいつもより強い口調で言い返す。
総司も、流石に決まりが悪いのか、ふいっとそっぽを向きながら
早口で言い返す。
「君が逃げ出さないにしてもだよ、君が僕らと一緒にいたことを見た奴が、
君を捕まえて僕らの事を聞き出す危険もある訳だし。
君を一人残せるわけないでしょ。」
あれっ。なんだかんだ言っているけど、総司の奴も千鶴を危険に晒したいとは
思っていないんだな。俺は、ちょっぴり安心した。

けど、結局、問題は振り出しに戻っちまったわけで。どうしたらいいんだ?
俺は、目の前の二人を見つめて…。
二人…。
いいことを思いついた。
「だったらさ、一つは総司が使えばいいよ。
もう一つの傘を、俺と千鶴が一緒に使えばいいんじゃねぇ?
俺ら二人なら、なんとか傘に納まるだろうし。どうだ、千鶴?」
千鶴を見れば、戸惑いをのせた笑顔を浮かべている。
俺の提案を聞いた途端、総司の顔から笑顔が消えた。
「ふ~ん。それって、いま思いついた案なわけ?平助。」
「そうだけど?」
何を言い出すのかと総司を見返したら、
「すごくいい案だから、てっきり屯所からそれを狙ってきたのかと。」
って笑顔で言われたけど、怖え~っ。総司の奴、目が全然笑ってねぇ。
それに、総司に言われて、俺は自分の提案の大胆さに気がついた。
そう意識しちまったら、カッと、身体が熱くなってくる。
「そ、そんなこと考えてもなかったしっ。」
しどろもどろでそう返すのが精いっぱいだった。

「ふ~ん。だったらさ、千鶴ちゃん、僕の傘に入れてあげるよ。
千鶴ちゃんくらい小さければ、僕の傘の隅っこに入ることできるだろうしね。
ほら。よく考えたらさ、僕、千鶴ちゃんが逃げ出さないように
監視するとともに、護衛するって目的でついてきたわけだし。
それだったら、千鶴ちゃんは僕の傍にいた方がいい訳でしょう。」
おいおい。さっき邪魔になるから荷物は持たないとか言っていたくせに、
千鶴が同じ傘にいるのは邪魔じゃないって、おかしくないか。
俺は、急に趣旨替えした総司を睨み付けた。
総司は、俺に睨み付けられることなんてなんとも思っていないらしく、
ニヤリと笑い返してきた。ああそうですか。
千鶴と相合傘がしたいって、はっきり言えばいいだろう。
それを言いだしたのは、俺の方なんですけど。
いい所を取られてたまるかってんだ。

「それだったら、なおのこと総司はいつでも千鶴を守れるように、
手は開けておいた方がいいって。大体、総司はデカいから、
千鶴がはみ出ちまうし。
それだったら俺との方が、まとまりがいいって、なあ、千鶴。」
千鶴、頼むっ。頷いてくれ…。
「何言っているの。僕らの為にわざわざ傘を持ってきてくれた平助が
濡れちゃって、風邪でも引いたりしたら、後味が悪いよね、千鶴ちゃん。」
総司が千鶴に笑顔を向けているけど、
半分以上脅迫しているようにしか聞こえねぇし。
俺たち二人に返事を迫られ、千鶴は俺たち二人の間で視線を揺らす。

じっと見つめられて居た堪れなくなったのか、千鶴が俺らから視線を外した。
途端、千鶴が大声をあげた。
「ツバメが…。」

カット516濡れ燕

千鶴の視線を辿れば、確かにツバメが地面すれすれをすっと横切った。
どうやら総司は、千鶴がこの場を切り抜けるために
唐突に話題を換えようとしたと思ったらしく、みるみる不機嫌になっていく。
「あのさ、千鶴ちゃん、誤魔化そうって言ったってそうはいかないよ。」
ツバメに目を奪われていた千鶴は、総司の声から不機嫌さを感じ取ったらしく、
パッと総司を見上げた。
「違います。ツバメが飛びだしたってことは、
もうじき雨あがるんじゃないかと思うんです。
ほらっ、さっきよりなんだか小降りになってきていませんか?」
そう言われて、もう一度の気の外に目を向ければ。本当だ。
さっきまであんなに激しく降っていたのに、確かに小降りになってきている。
「全然気がつかなかった。」
俺がぽつりとつぶやけば、総司もこくんと頷いた。

さっきまで三人の間に漂っていた不穏な気配も気がつけば、薄れていた。
そんな俺達を見て、千鶴はにっこり笑った。
「雨宿りをしながら、お話をしている間に雨が収まってよかったですね。
沖田さんが、すぐに手拭いで拭いてくださったおかげで、
濡れたままにならずに済みました。ありがとうございます。」
千鶴が総司に頭を下げている。何だって?
あの総司が、千鶴を手拭いで拭いてやったって。
帰ってからみんなに聞かせても、嘘だって言われるに違いないぜ。
それに、そう言われた総司の頬が何だか赤くなっているってことも、
信じちゃもらえない、だろうな。

なんてことを思っていると、千鶴が俺の方を振り返った。
「平助君が傘を持ってきてくれたのに、無駄足を踏ませちゃうことになって、
ごめんね。でも、傘を持ってきてくれてとっても嬉しかった、ありがとう。」
そんな風に礼を言われるようなことじゃないって。
俺がしっかりしてなかったせいで、結局三人で雨宿りをする羽目に
なったわけだし。ああっ、でも。
もう少し雨が降り続けば、もしかしたら千鶴と相合傘なんて…。
って、邪魔者付きだけどさっ。

「さてと。雨も上がったみたいだから、傘返すね、平助。」
総司は俺から奪った傘をひょいっと投げてよこした。
「ほら、千鶴ちゃん。君のせいで帰りが遅くなっちゃったんだから、
さっさと帰るよ。もたもたしない。」
千鶴に声を掛ける総司は、すっかりいつもの調子を取り戻していて。
そんな総司の言葉に、千鶴が慌てて返事をして、総司の後を歩きだした。
置いてきぼりを食らいそうになっていることに気がついた俺は、
二人の背中を追いかけた。
よく見れば、先を行く総司は、さりげなくぬかるみや水たまりを
よけて歩いている。
そんなことに、きっと後ろをついて行く千鶴は気がついてはいない。
そんなことに気がついてしまう俺と総司は、
きっと同じ気持ちなんじゃないかって思う。

そんな中からちょっとでも抜け出したいって思った俺は、
前を行く小さな背中に追いつくと、そっと袖を引いた。
驚いて振り返った千鶴に、
「今度は、絶対に一緒に傘差して帰ろうな。」
って囁いた。
「平助、聞こえているよ。」
俺を睨み付けた後、総司は千鶴が追いつくのを待って、
「今度も、仕方ないからお使いに付き合ってあげてもいいけど。」
なんて呟いていた。
千鶴は、きょとんとした後、俺達を見て、頭を下げた。
「はいっ、よろしくお願いします。」
顔をあげれば、そこには屈託のない笑顔があって。
俺達は、顔を見合わせると、
「今日の所は、三人で帰りますか。」
そう言って、俺達三人は並んで帰ったのだった。



  1. 2014/09/24(水) 20:10:49|
  2. 頂きもの
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
<<低気圧なんて嫌いだいっ。・゚゚・(>_ | ホーム | やっと一息~( ̄∇ ̄;) >>

コメント

ありがとうございま~す(^^)/

ちょこ様、こんばんは。早速のUPありがとうございます。
ぼちぼちツバメも南へ帰るころ(まだ日本にいますよね?)なのに、
季節感まる無視で、ちょっとお恥ずかしいです。
折しもこちらは今日明日は、雨が降る予定。こんな天気の中、
だれか迎えに来てくれたらちょっぴり嬉しいかな。
今回、3人で帰るために、ちょっとだけ平ちゃんを、
察しの良い男の子に仕上げてしまったかしら?少しだけ、贔屓です。
大好きな総ちゃんと平ちゃんの組み合わせだから、
これは絶対書こう!って決めていたので(笑)
こちらの顛末の皆さんの予想は、やっぱり千鶴ちゃんとあの人の組み合わせで
帰る方が多かったんでしょうかね?
挿絵の方は、頂いていきますね。うちのサイトの方にも飾らせていただきます。
今回もありがとうございました。

  1. 2014/09/25(木) 00:03:39 |
  2. URL |
  3. ドラキョン #-
  4. [ 編集 ]

ドラキョン様♪

久しぶりのドラキョンさんの創作に、わくわくさせてもらいました♪
こちらこそ今回も、そして私の好きな三つ巴話を、ありがとうございましたー!
この二人の内、どちらも選べない千鶴ちゃんには、共感を覚えますw
しかし、総ちゃんと平ちゃん、お互いやりあう事に必死になってたら、次は燕じゃなくて、トンビが飛んできそうだよ~と、老婆心ながらつい言いたくなってしまいましたwww
次はどんなお話を読ませて頂けるのか、楽しみに待っておりますね^^
  1. 2014/09/25(木) 23:07:57 |
  2. URL |
  3. ちょこ #-
  4. [ 編集 ]

雨上がりに3人で。

こんにちは、ドラキョン様、小萩です。
サイトの方で一足先に読ませていただいて
いましたが、ちょこ様の素敵イラストが
加わって更に豪華になりましたね。

総司→千鶴←平助の三つ巴のお話。
すごく楽しかったです。総司のいじめっ子〜。
好きな子ほどいじめたい、でもさりげなく
優しい、総司ってば、素直じゃないなあ。
相合い傘争奪戦、平助の素直でストレートな
ところが可愛くて大好きです。千鶴ちゃんの
ために傘持って走って来てくれるカッコ良さ、
ますます愛してる!!(贔屓)

この顛末はいかに?千鶴ちゃんは総司と平助、
どちらを選ぶのかドキドキでしたが、今回は
3人でまっすぐ屯所へ。勝負の決着はまだまだ
これから。チャンスはいっぱいあるから、
平助、頑張ってね、応援しまくるから(贔屓)。

素敵なお話をありがとうございました。
またいつでもお話書いて下さいね。
楽しみにお待ちしてます。
  1. 2014/09/26(金) 14:34:00 |
  2. URL |
  3. 小萩 #-
  4. [ 編集 ]

小萩様へ

小萩様、お久しぶりです。
そうなんですよね。平ちゃんなら、この状況で絶対に傘を届けてくれるに違いないと思います。走ってね♪他のメンバーだと、ある程度の関係にならないと、走っては届けてくれなそう…。
土方さんだったら、舌打ちとかして、一君かザキさんに様子を見に行かせそう。
一君やザキさんだと、傘をちゃんと人数分持ってきてくれそうだけど、お小言もついてきそうだし。
左之さんや新八さんだと、総ちゃんと一緒ってところで、迎えに行くの嫌がりそうじゃありませんか。
あ、近藤さんは届けてくれそうだけど、土方さんが止めるでしょうし、ね。

平ちゃんと千鶴ちゃんは、最初から距離近いところが何とも好物です(笑) 
私が書くと、どうも三つ巴に決着をつけられなくて、読んでいただいた方にもやもやが残ってしまうかもしれませんね。なんだか選ばれなかった方が、気の毒になってしまって…。今回も、二人それぞれに千鶴ちゃんへのアピールタイムを用意してしまいました(笑)
千鶴ちゃんがどちらを選ぶのか、はたまた別の誰かに横取りされるのか。ゲーム序盤をイメージして書いたので、可能性はどちらにもあるってことで。
小萩様に、お話を楽しんでいただけたなら、嬉しいです。お声をかけていただきありがとうございました。  
  1. 2014/09/28(日) 23:22:09 |
  2. URL |
  3. ドラキョン #-
  4. [ 編集 ]

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