皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「夢見夢 その4」

酔狂元乙女さんからの頂き物です♪
※現パロ・オリジナルキャラが苦手な方はご注意

ついに最終回です!
『ちょこ』と斎藤さんはどんな結末を迎えるのか、どうぞ最後のどんでん返しまで楽しんで下さい^^

それにしても、こーんな理想の相手をゲットするには、やっぱりこんな手しかないんでしょうかねえwww
リアルでは当然望めない事はわかっていますが、その代替物が二次創作にあたるんでしょうか。
ということでこれからも、リアルの私はせっせと描いていきますよ~(*^o^*)

ではでは酔狂元乙女さんの力作、続きからどうぞ♪



挿絵は感謝を込めて酔狂元乙女さんへ進呈します。
他の方はご遠慮下さいね。




【皓月ちょこ】――これが千世子の漫画家としてのペンネームだった。
この話はその漫画家・千世子とある男との、不思議な夢物語である。


『夢見夢』その4


京都のホテルでの狂おしい一夜。
その翌朝に、千世子と斎藤はある事を話し合い、彼はまたこの世界から去っていった。
そして1年後の今、彼女は二人の夢の実現に向けて動いていた。

まずは出版社に引退を申し入れ、その為に多くの犠牲を払った。
予想はしたが、猛烈な抵抗にあったのだ。
しかも連載終了のニュースは多くの読者を嘆かせ、続行嘆願署名運動にまで発展した。
版権各社との契約解消トラブルや損害賠償問題にも悩まされ、何より、いかにして作中で「特別警察・京都白桜隊」の斎藤チーフをフェードアウトさせるか、その事に頭を悩ませた。


――「俺を殺してくれ。千世子さん、あんたの手で俺を……逝かせてくれないか……」

あの夜、斎藤から耳元で囁かれた台詞。
千世子は彼の願いを受けて、その台詞を文字通り実行した。

最終回。
『白桜隊』は長年のターゲットであるテロ組織と最後の決戦に挑む。
だが悪の組織と繋がった政府要人の陰謀により、機動隊の応援が間に合わずに壊滅状態に陥ってしまう。
味方の裏切りに絶望し、主だったメンバーが次々に負傷する中、斎藤は単身、敵陣に潜入することを決意する。
負傷して身動きできない、部下でもある恋人に別れを告げ、彼の姿は硝煙の向こうに消えた。
そして、そのまま帰らぬ人となった………。

誰も彼の最後を見た人はいない―――ここがポイントだった。

敵と死闘を繰り広げた斎藤は、銃弾に倒れ、瀕死の状態で廃屋に放置される。
勿論、天(千世子)は彼を見放さず、その廃屋に寝泊りしていた元医師のホームレスに助けられて、一命を取り留めるのだ。
曰くありげなその男・山崎は、今後の身の安全を考え、彼を別の場所に移す。
そして精神科医だった経歴を生かし、彼の記憶を違法薬物と睡眠療法によって一時的に消してしまうのだった。
「無」になった斎藤が、彼もまたホームレスとして街の暗闇に消えていくところで、千世子はENDマークを入れた。


***


最終回が掲載された単行本の発売日に、出版社から原稿が返されて来た。
千世子はその大切な生原稿を寝室に設えた大きな金庫に収め、扉に向かって祈りを捧げた。

(斎藤さん!いよいよだよ。私も頑張るから、あなたも――!! )


幾日か経って、彼女は金庫を開けた。
保管されているのは、金品以上に大切な大量の手書き原稿。
そして、例の最終回の、最後のページを確認した。
自然に笑みが込み上げていた。
斎藤チーフの姿が、画面から消えているのを確認できたからだ。
原稿を元に戻し、仕事部屋に入ると、久々に上質紙に向かってコマ割を始めた。

彼女が描き始めたのは―――暗闇に消えたホームレスの男の『その後』。
その日以来、彼女は寝食を忘れて、ひたすら漫画を描き続けた。
原稿が1枚仕上がる度に、念の為にコピーを取ると、あとは金庫に入れて誰の目にも触れぬよう大切に保管した。
やがて、ホームレスの男の2カ月分の生活を描き終えた時点で、彼女はようやく安心する事が出来た。

(これで、よし!あとは天に祈るだけね……)

彼女は一旦、筆を置く事にする。
そして今度は家の大掃除やリフォームに熱中し出した。
出版社とのトラブルが全て解決できていない状況下で、体を動かしての家の手入れは良い気晴らしになった。


彼女は待った。
待って、待って、待って―――。




ある日、彼女の家の門前にホームレスが行き倒れていた。
余程怖い目に遭ったのか、薬物中毒か何かの所為なのか、男の頭髪は真っ白で、目も充血している。
ただ、目尻には年相応の皺があるものの、同世代の男より遥かに端正な容貌と細身ながら鍛え抜かれた肉体を持ち合わせていて、彼が只者ではない事を窺わせた。
不思議な事に、普段ならすぐに警察を呼ぶ筈の用心深い彼女が、その男を必死に引き摺って家の中に入れた。
なぜならその男こそが、彼女の人生で最も大切な人物だったからだ。

斎藤さん。一さん。
彼女は記憶が無く衰弱したその男を、さも愛おしげにそう呼んで、親身に世話をした。

その甲斐あって、彼は健康を取り戻し、一部の記憶が戻って自分が何者かを知った。

そうしてそのまま千世子の家に住みつき、やがて二人は―――夫婦となった。


***


「一さん、工務店の方が来られましたよ」
「そうか、今行く」

千世子の夫は丁度手入れを終えた居合刀を刀掛に置いて、静かに立ち上がった。
今日は剣道場の竣工前の最後の打ち合わせの日だった。

斎藤は身に着いた特技を生かすため、幾つかの道場で研修した後、ボランティア指導員として公民館で子供達に剣道を教えていた。
ボランティアとはいえ、公の場に出るには身分証明を求められる。
戸籍が無い彼の素性を捏造するのには苦労したが、千世子は金の力で斎藤も驚くほどの手腕を発揮していた。
そして、すっかり指導員の仕事が気に入って『後進の育成にもっと従事したい』という彼の為に、この家の敷地の一角に道場を造ってはどうかと云いだしたのは、他ならぬ千世子だった。

ところで、二人はどうやって生計を立てたか。
彼女が引退する直前まで銀行に預けられていた巨額の印税収入は、出版社他との契約トラブル解消の為に大半が消滅していた。
その中には斎藤の身分工作費用も含まれる。
そして彼自身が剣道の指導員をして得る謝礼金も微々たるもの。
本来なら生活は苦しい筈だった。
ただ、幸いな事に、彼女の漫画は連載終了後も地道に売れ続けており、コンスタントに入る印税収入のお陰で、つつましく暮らしていけるだけのゆとりはあった。
流石に剣道場の建築費の捻出には、辛うじて残しておいた銀行預金を取り崩す羽目になったが、彼の為なら惜しくなかった。
それに、斎藤が自らの剣道教室を主宰する事で、これからは彼自身も収入を得て自立することが出来る。
道場の完成を楽しみに生き生きとした様子の夫を見て、時代が移り変わろうとも、男にとって『仕事』の存在がどれほど重要なのかを、彼女は改めて認識する事になった。

実は、千世子は元人気漫画家の素性を隠し、引退直後に店を借りてティールーム「皓月庵」を開いていた。
失業後の生活費を稼ぐのが当初の目的だったが、売り上げはお粗末なもの。
むしろ、まるで隠遁生活を送る千世子と世間とを結ぶちょっとした『息抜きの場』としての役割が強かったかもしれない。
類は友を呼ぶのか、ここには漫画やイラストや小説創作を嗜む大人の女性達が偶然にも集まり、ちょっとした文化サロンの様相を呈していた。

夫は剣道場、妻はティーサロン。
其々の趣味と実益を生かす場を得て、二人の人生は穏やかで充実したものになろうとしていた。


「ご主人、道場の看板が出来上がりましたよ!」

工務店の社長が誇らしげに木製の大きな看板を運んできた。

「誠月館、か。いいですね」

看板を取り付ける係の職人が感心して呟いてくれたのを聞いて、斎藤は嬉しそうに白い頭を下げた。





誠月館の道場開きの日。
斎藤の生徒である小中学生や保護者が集まって、ささやかなお披露目会が持たれた。
千世子のサロンの常連客や、剣道を通じて新しく出来た斎藤の友人達も加わって、彼は本当に幸せそうだった。

「剣道の稽古を通じて、小さなサムライ達を見守っていけるのは本当にやりがいのある仕事ですし、誇りに思います。微力ながらも、武士の魂を受け継いだ若者を一人でも多く世に送り出せるよう、精一杯努めたいと思います」

彼は集まりの冒頭でそう挨拶した。
その凛とした、千世子が最も愛した彼らしい彼を目にした時、『その時が来た』と実感した。
それは相手も同じ思いだった。

こうして二人の生活が軌道に乗ったところで、千世子はついに在る事に着手する。
それは、京都のホテルで『白桜隊の斎藤チーフ』と約束した事の内、最も重要な事柄だった。

――『俺を殺してくれ。そして新しい人生を。あんたと共に生きる新しい人生が欲しい。』
――『俺は、普通の人間と同じ……先の読めない手探りの人生を……あんたと二人で創っていきたい』

斎藤チーフの最終回以降、彼女は誰にも知られぬよう、彼の心身の回復や千世子の家に辿り着くまでの過程を丁寧に漫画に描いていた。
そして、彼と暮らすようになってからは、本人の意見を取り入れて、二人の日常を漫画に描いた。
人でない彼を普通の人として、夫として存在させるために、ある程度人生のレールを敷き、想定される障害を取り除いておきたかったからだ。
その為、千世子は余裕を見て二、三ヶ月先までの二人の日常生活を慎重に描く必要があった。
その件に関しては斎藤も承知の上で、彼は辛抱強く協力してくれた。
ただ、一日の生活を漫画にするのは大変な作業で、それを毎日続けるのは、もう若くは無い千世子にとってはなかなかに辛い事だった。
その為、時々はミスをして辻褄の合わない描写になり、その事が原因で小さな喧嘩になったり気持ちがすれ違うことがたまにあった。

――二人の生活が軌道に乗った今だから。
――決められたストーリーを苦心して描き綴るのはもう終わりにしよう。
こうして二人の思いが一致した。

その夜、ベッドの中で夫の愛情を全身で受け止めた千世子は、彼の癖のある髪を指で梳きながら訊ねた。

「そろそろスタートしても?」
「ああ、いつでも大丈夫だ」
「ホント?」
「明日何が起こるか判ってしまう人生はもう不要だ。それに……千世子を抱くのにあらかじめ日時が決まっているなんて可笑しいだろう?」
「もう、それは云わない約束でしょう!その気になれば予定を無視するくせに……」

こんな時だけ、封印した筈のあの斎藤チーフが顔を出してくるのに千世子は苦笑する。
恥ずかしがり屋の千世子が、自分と夫が愛し合うシーンを描ける筈が無い。むしろ避けていた。
その事に業を煮やした斎藤は、彼女が入浴したり服を着替える場面を入れた日を、「これはOKサインなのだ」と勝手にこじつけてしまったのだ。
二人はそれを思い出して、小さく笑いあった。



次の日、千世子は改まった気持ちで机に向かう。
新しい上質紙に4コマ漫画の枠を書き入れ、何枚か同じ作業を繰り返した。
コマ割だけ施された原稿がある程度ストックできたところで、その1枚にタイトルを入れ、下書きを始めた。

【○年○月○日の二人】
1、起床時  一:「  空 白  」千世子:「  空 白  」
2、昼    一:「  空 白  」千世子:「  空 白  」
3、夜    一:「  空 白  」千世子:「  空 白  」
4、就寝時  一:「  空 白  」千世子:「  空 白  」

1から4のそれぞれのコマには、穏やかに会話する様子の斎藤と千世子の上半身を描いた。
背景や小道具は一切無く、上半身の服装は普段よく着る、白や黒の無地のTシャツのみとした。

ストーリー漫画の場合、画には多くの情報が盛り込まれる。
例えば外食のシーンならば、説明がなくとも、卓上の料理や飲み物、背景に描かれる店の内装、店員の服装、登場人物のドレスアップの有無、人物の表情などから、そこが高級なレストランか気軽な居酒屋か、楽しい食事なのか、いやいや空腹を満たしているのかがある程度判断できてしまう。

今回、千世子はそれとは対極にある方法を取った。
画から読み取れる情報を極力排し、吹き出しの中の台詞は全て空白にした。
究極のシンプルな4コマから見えるのは、二人が穏やかに朝を迎え、中身は不明だが昼と夜を過ごし、また穏やかな表情で床に就く姿。
つまり、ふたりは良い一日をすごしたのだな、ということだけが想像できた。
2コマ目3コマ目の時間には何かトラブルや擦れ違いが起きるかもしれない。
それでも、起床時と就寝時に穏やかな表情で会話が交わせるなら、その日は無事に乗り切れたのだと、そういう思いをこの4コマに込めたのだ。

「とにかく試してみなくちゃ」

そうして1週間分の『台詞の無い4コマ漫画』を完成させると、彼女は夫を呼ぶ。

「多分、これでいけると思うの」「ああ、上手く描いたな」

昨日の目出度い道場開きに続き、今日は二人の思い出の記念日。
彼が千世子の家の前で倒れていた日から、もう数年の歳月が経っていた。
二人は微笑み合うと、どちらからともなく声を掛けた。

「今までありがとう。これからもよろしく」と。


***


千世子と夫の生活は、表面上は変わることなく続いた。
二人の間に子供は出来なかったが、それは諦めた。
斎藤が普通の人間ではないからか、千世子の方が既に妊娠が難しい年齢になったからなのか、原因はハッキリとは判らない。
それでも道場には幼稚園児から高校生まで多くの子供達が集まっていたから、「俺は子沢山だ」と彼はいつも笑っていた。
子供達に「しらが先生」とあだ名をつけられても、「そうか」とやはり笑っていた。

千世子は気付く。
夫の表情が豊かになったことに。
笑顔が深くなった事に。


台詞も背景も無い4コマの漫画は、彼らに多くの喜怒哀楽をもたらした。
小さなストレスは溜まったし、トラブルに振り回されて嘆く事もあったし、夫婦で口を利かない日もあった。
のんびり旅行に出る日もあれば、感情が高ぶって朝から愛し合う日もあった。
そして、退屈するほど何も起こらない日が…… 一番、多かった。


「これで、いい」斎藤は言った。
「これが、いいんだ。先が判らなくても、俺は俺でいられる。自分で考え選択でき、その結果は自分に返ってくる」
「あなたが望めば、どこかの王様に生まれ変わってハーレムを作る事も出来たのに、ね」
千世子は茶化してみた。

「必要ない。自分の人生を自分で創る――これが俺の望んだ事だ」

元禄の若侍でもなく。
幕末・明治の誠の武士、刀無き武士でもなく。
特別警察のチーフでもなく。
誠月館道場の主、そして千世子の夫としての穏やかな顔で、これでいい、と彼は繰り返した。

彼女は『自分の愛する男に最高の人生を贈りたい』と思った昔を思い出した。

(まだ若かったね、自分。それに傲慢だったね。私が創った彼の人生を、彼が喜ぶと思ったなんて)

自分の人生を自分で創る。
人生の選択肢を自分の意思で選び取る。
世界中を見渡せば、それが出来る人間がどれだけいるのだろう。
戦争や疫病や政情不安……様々な事情で、人が人として生きること自体が難しい国や地域がある。
第一、平和なこの国においてさえも、人は自由には生きられない。
人は皆、何かのしがらみに縛られ、心が不自由な毎日を送っているのだから。

彼の満足した表情を眺めながら、千世子もまた自分の幸せを噛み締めた。


***


二人の時間はゆっくりと、しかし確実に流れていく。
既に人生の後半期。二人は漠然と『最後の日』を意識するようになっていた。

未だ元気なうちにと、千世子はシンプルな無地漫画をせっせと描きためて、その枚数が必要十分な量になったとき、彼女は作業を中断することにした。
途中からはタイトルに日付を入れる事も止めた。
自分達の寿命が判らないからだ。
漫画の中身は相変わらず台詞の無い二人の姿。
だがそれも少しずつ変化していた。それは彼らの外見だった。
さすがにある程度は、年相応の老化を夫のルックスに付け加えないわけにはいかなかった。
それは自分にも当てはまったのだが、幸か不幸か現実世界の彼女は自然に外見が変化していったので、あまり気にしない事にした。


そうしてさらに何年かが過ぎさり―――。


いつの間にか、千世子は4コマ漫画を描く事を止めてしまっていた。
確信――。
もう、漫画は必要ない――。

それで千世子が試験的に漫画のストックを切らしてみたところ、斎藤がこの世界から消える事も無く、心身に変化も見られなかった。
自分の人生を自分の意思で歩んでいる内に、彼はついに『普通の人間』になったらしい。


その後も斎藤と千世子は、近所でも評判の、仲の良い老夫婦として幸せに暮らした。


弁当のメニューを届けに現れた斎藤との最初の出会いから、いや、初めて彼を元禄の侍として漫画の中で描いた日から現在に至るまで、全ての思い出がこの古い家にあった。

「ありがとう、は…じめさん……いい人生だったわ……」

その家の縁側で、二人で肩を寄せ合って昔を思い返している時に……。



愛しい夫の腕の中で、彼女は静かに息を引き取った――




*****



「で?最後に彼はどうなるのさ?」

コンソールパネルを操作していたアンドロイド3号は、同じアンドロイドの1号の問いかけに振り向いた。
彼の担当する顧客は、72時間に亘るプログラムをたった今終了し、同じく72時間のクールダウンタイムに入っていた。

「不明だ。事前に彼女が登録したストーリーはここで終わっている。登録データから予測できる設定は―――80%以上の確率で、斎藤は彼女の墓守として永遠に生き続けるか……あるいは、適当な時期に分子崩壊して消滅する、だ」
「ふうん。それにしても理論的には無茶苦茶な夢だったね。設定も矛盾だらけだし。おかげでプログラマー150人がかりで作成に1年。彼女が次の惑星で下船するのにようやく間に合った代物だよ。こんな夢のシナリオを書いた彼女は大した執念の持ち主だと思うけれど、支払いが心配だなあ。第一、こんな変な夢想、よく受注したね」

1号は、目前の睡眠カプセルに入った女性のデータが表示されたディスプレイを覗き込んだ。
そこには彼女の生体データや経歴、さきほど実行処理を終えたばかりの夢想プログラムの詳細が記されていた。
夢想の夫のモデルとしてアンドロイド3号がリクエストされているのも見て取れた。


カット464夢見夢4


夢想プログラムを実行中、アンドロイド達は自分の担当顧客のディスプレイとカプセルを二体一組で監視し続ける。
顧客の生体データに著しい変化があったり、プログラムミスによる夢想のフリーズ現象があれば、すぐに適切な対処をした。そうしなければ顧客の生命に係わるからだ。

「そうでもない。隣の船室の女性もこのMs千世子同様、二次元の男と恋愛する夢を登録して、現在実行中だ。男のモデルはアンドロイドY型だ」
「Y型?ああ、あの忍者モデルね。どんな夢やら」
「自虐的な女性の様だ。Y型にどんなに思いを掛けても報われず、酒浸りになりながらずっと奴の訪れを待つ愛人の役がいいらしい。Y型との『たった一度の逢瀬』の思い出に浸り続けるそうだ」
「………。やっぱり、人間って理解できないよ」
「侮るなよ。人間の脳の処理能力は、我々の演算処理能力を時に凌駕する。このケースでは数十年に亘る人生の日々をたった72時間で消化するのだから、立派なものだ」

夢を見る事の無いアンドロイド達には、宇宙船での長い星間航行の間の娯楽として、夢想プログラムに大金を投じる人間の心理は理解できない。
それでも、プログラムを終了した直後に人間達の見せる表情(寝顔ではあるが)を見れば、自分も一度味わってみる価値はあるのだろうか。
そうだな、一度くらい『夢』というものを………。
限りなく人間に近い傑作アンドロイドである3号は、そんな人間のような思いを抱いた。

「僕、もう行くよ。船室へのミールボックス・デリバリーの時間が迫ってきちゃった。相手はファーストクラスのお客さんだから、アンドロイドH型が時間に煩くてさ」
「そう言うな。特注ミールボックスを頼む上客、特に女性は80%の確率で俺達を指名して夢想プログラムに参加してくれる。夢想プログラムがこの船会社の利益の35%を占める事を考慮すれば、ボスのH型の言動は理に適っている」
「ふふ、君には敵わないよ」
「さあ、早く行け」


1号が退出したのを見届けて、3号は担当カプセルの中を確認した。異常は見られない。
自分の人生の最後の場面を見たばかりなのに、この女性の満足そうな表情が不思議だった。

『自分の人生を自分で創りたい。人生の選択肢を自分の意思で選びたいんだ。結果がどうであれ、先が見えないから――いい』

プログラムの中で自分をモデルにした斎藤と云う男が語った言葉が、彼の記憶装置内で繰り返し再生されていた。
アンドロイド同様、プログラム(原稿)無しには動けない筈の漫画の男。

自分の意思で選択肢を選ぶとは―――。
自由に生きるとは―――。
データが無くて予測不可能な人生とは―――。
果たして、どういうことなのだろうな。


3号は備品ケースからコードを取り出した。
そして自分の首の後ろにある接続端子と顧客のカプセルに据え付けられたコンソールパネルの端子の一つをコードで繋いだ。
彼はパネルを操作すると、自分の記憶装置にMs千世子が登録した夢想プログラムをダウンロードし、実行した。


***


信号異常を検知した管理部のアンドロイド達が、船室に飛びこんできた。
そこで彼らが発見したのは………未許可で取り込んだプログラムの暴走により、体内の中央演算装置を破壊されて倒れた3号の姿。


無表情だったアンドロイド3号の、未だかつてない幸福感に満ちた『まるで人間の様な死顔』に、遅れてやってきた管理部の人間技術者達は首を捻ったと云う。



(了)

  1. 2014/06/19(木) 22:15:56|
  2. 頂きもの
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コメント

香住→酔狂様

酔ちゃん、長編お疲れ様でした(^^)
忍者モデル……(笑)
  1. 2014/06/19(木) 23:17:55 |
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  3. 香西香住 #-
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酔狂→香西香住様♪

香住ちゃん、お声かけありがとう!嬉しいです(*≧∀≦*)
ちょこ(千世子)さんの人生を50年に亘ってイジリ倒したこのハチャメチャな話。ホント自分でも呆れてます(笑)なのに、ラストの宇宙船までお付き合いくださって感謝です!
ハイ、忍タイプY型(ニヤリ)夢想の中の私だったら――烝様の後ろ髪を握って天に召されたいですww
香住ちゃんは……ぬいさんを夢想パートナーに指名しますか?ww ではでは、ありがとうございました。
  1. 2014/06/20(金) 00:26:14 |
  2. URL |
  3. 酔狂 #-
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酔狂→千世子先生へ♪

ちょこさん、連絡をありがとうございました。
メールでお返事をと思いましたが、イラストの御礼と感想については、今回はこちらに書き込む事にしました。が、語ると長いので手短に(笑)
全話通じてのイラストには本当にお世話をおかけしました。ご自分で云われていたように描きにくかったと思います。結局、逸脱したオリジナル話ですものね。しかもヒロインは自分ww熟年世代の彼まで出てくる(T_T)
①のデリバリーボーイのハンサム斎藤さんと、②の凛々しい横顔と漫画原稿の白ぬけ描写には萌えましたし、さすが!と感心もしました。ですが③の千世子さんの着物の裾と白桜隊の斎藤さんを1カットに収めたアングル。そして今回のラストのイラスト。これがプロなんだな~と目からウロコ。
実はアンドロイドのシーンはね、3号が「カプセルの外から中を見ている」カットが来るだろうと予想したんですが(笑)まさか、「カプセルの内側から見える」1号3号の双璧が来るとは思わず……この一捻りした構図に、やられた!orz とノックアウトされました。3号の掌を描く事によって透明の壁が判るという芸の細かさ…。コンソールパネルもついていて!そして何よりも、ミリタリー調の宇宙服に身を包んだ二人のクールな美しさ。見たかった二人がここにいる。それを見事に表現してくださったことに感謝します。(有難く頂いて帰りますね)
そして、このような好き勝手に綴った物語を受入れ、楽しんでくださったことにも感謝を込めてーー。
今回は特に特にありがとうございました。
(D・キイス氏が天に召されましたね。彼と作品を忍んで、しんみりとまだ起きています。またSF談義してください。では。)
  1. 2014/06/20(金) 01:29:23 |
  2. URL |
  3. 酔狂 #-
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酔狂元乙女様♪

いえいえ、今回は大作を本当にありがとう&ご苦労様でした!
最初は軽いコメディかと思って読んでいたお話が、だんだんとシリアスになり、ファンタジーからSFへ―――見事としか言えない流れに感服しました。
途中からは誰がヒロインかなど、あまり考えずに読んでいましたが、しかしさすがに挿絵の段階では『千世子』さんを描く気にはなれず、ある意味苦労しましたw
でも描き終わってみれば、いろんな斎藤さんを描かせて頂き、とても実り多く楽しかったです。
これからも酔狂さんには、ご自分も読者も楽しめるようなお話を創作していって頂ける事を願ってやみません^^

キイスの訃報、驚きました。高齢だというのは知っていたんですが―――
「アルジャーノンに花束を」は、高校時代友人から借りて読んで、涙で文字を追う事ができなくなる、という経験を始めてした本で、「ビリー・ミリガン」では多重人格を始めて知りました。
またひとり好きな作家が他界とは、本当に残念です。
今酔狂さんは何を読んでいらっしゃるのかな?
また、読書についても語りましょうね!
  1. 2014/06/21(土) 10:12:51 |
  2. URL |
  3. ちょこ #-
  4. [ 編集 ]

すごく嫉妬しました(笑)。

こんばんは。小萩です。酔狂元乙女様、「夢見夢その1〜その4」
とても楽しく読ませていただきました。最終的にどうなるのか、
ドキドキしながら、でもすごく嫉妬しちゃいました。
ちょこ様をモデルとした、千世子さんに。
ちょこ様、ごめんなさい。千世子さん、ごめんなさい。

私、千鶴ちゃん大好き人間なので、千鶴ちゃんには嫉妬
どころか応援ばかりしていて、何も思わないんですが。
ちょこ様が、千世子さんが、羨ましくて妬ましくて仕方なくて、
むきー!!と猿のように唸ってしまいました。馬鹿です(笑)。

私、千世子さんになりたかったです。酔狂元乙女様、
素晴らしい作品を本当にどうもありがとうございました。
嫉妬の青黒い炎で燃え尽きようと、私、本望です。
「夢見夢」で、私も一緒に夢を見させていただきました。
このような素敵な小説を書ける酔狂元乙女様は本当に
凄いです。

ちょこ様のイラストも本当に素敵でした。
チラシを持って来た一さんにノックアウト
されちゃいました。平助最愛・激愛なのに、
浮気しそうになりました(笑)。

私、お弁当は、早朝(総長)弁当以外は、
全部食べてみたいです。さすがに羅刹に
なるのは御免被りたいので(笑)。
八番弁当と、最強鬼弁当がすごくすごく
食べたいです。だって運が良ければ、
平助やちー様がデリバリーしてくれるって
ことでしょう?幾ら払っても惜しくないです。
一さんの三番弁当や、源さんの六番弁当も
すごく気になるんですが、やっぱり最愛の
平助にお弁当届けに来て欲しいです。

酔狂元乙女様、我が儘な感想ですみません。
こんな奴ですが、これからもどうか
よろしくしてやって下さい。お願いします。



  1. 2014/07/03(木) 18:03:18 |
  2. URL |
  3. 小萩 #-
  4. [ 編集 ]

ご注文ありがとうございますby誠屋

御礼が遅くなりましたが…。
この度は、特殊設定の創作「夢見夢」をご覧いただきありがとうございました。

この長さにもかかわらず、最後までお付き合いくださった方々、拍手を下さった方々には、皆様にハグ&キスの御礼を申し上げたいです。(←大迷惑)  。
そして、携帯・スマホでご覧の方、本当にスクロールお疲れさまでした。
長い上にトンデモ設定作品ですみませんでしたm(__)mm(__)m
これからも生温かい目で「相変わらずイタイ奴だなー」と見守っていただければ幸いです。

【小萩様へ】
酔狂元乙女です。こちらへも感激のコメントをお寄せ下さりありがとうございました!

斎;「総司、酔狂の奴はどうした?」
沖:「小萩ちゃんから頂いた感涙コメントに酔って、ついでに酒にも酔って寝込んでいるよ」
斎:「仕方の無い奴だな。だから山崎に愛想をつかされるのだ」
沖:「なんなら斬っちゃおうか?」
斎:「早まるな。生かさず殺さずだ。奴には連載の続きと受注のSSを書かさねばならん。斬るのは腹と尻の脂肪だけにしろ」
沖:「…ヤダ。僕の愛刀が穢れるよ! ところで小萩ちゃんのリクは平助と鬼の頭領だね。あーあ僕も小萩ちゃんに会いに行きたかったのにな」
斎:「一緒に配達に行けばいいだろう?」
沖:「そうだね♪ついでにいつも僕に口うるさいあの彼も連れて行こうかな。フフ」
八番弁当と最強鬼弁当のご注文ありがとうございます(*≧∀≦*)
時期のお約束はできませんが、鋭意努力致します!
配達の際は、ウチの3人組がくっついていくかもしれませんが、よしなにお願い致します(*ノ∀`*)

という訳で(笑)
「夢見夢」に浸って頂き、千世子先生にも嫉妬して頂きww本当にありがとうございます。感情移入していただけるのは作者冥利に尽きます。
書いている私自身、こんな斎藤さんとの人生があったらなあと、千世子さんを羨ましく思っていました(笑)
作中、5種類の斎藤さんが出てくるのですが、結局、おーきの斎藤さんは不在のオリジナル話なんですよね^^; ちょこさん主役なので、余程熱心な「ちょこ様ファン」の方が、お情けで読んで下さるだけだろうと、覚悟しておりました。 
なので、このように温かいお言葉をいただけて、凄く力を頂きました。
怠け者なので、今後ともバシバシ鞭打って、働かせてやってくださいww
また、皓月庵様だけでなくウチへ来られた際にも、是非お気軽にお声かけくださいね(^_-)
コメント、ありがとうございましたm(__)m
  1. 2014/07/04(金) 12:58:58 |
  2. URL |
  3. 酔狂元乙女 #-
  4. [ 編集 ]

お返事ありがとうございます(感涙)。

こんばんは。小萩です。酔狂元乙女様、嬉しい、すごく嬉しいお返事を
ありがとうございました(狂喜乱舞)。

誠屋さんへの我が儘な注文を受け付けて下さって、本当にどうも
ありがとうございます。総司が「僕も会いたかったのに」なんて
言ってくれるなんて。私、もうこの瞬間に死んでも悔いは無いかも(笑)。
いやいや、八番弁当と最強鬼弁当を食すまでは死んでも死にきれない!!
配達の際には是非是非お三方もいらっしゃって下さいませ。幸福で鼻血
吹いてぶっ倒れるかもしれませんが、死ぬ気で頑張ります。もちろん
お代金は即金で色をお付けしてお支払いさせていただきます!!
ってゆーか、私、誠屋さんの常連になりたいです(かなり本気)。

「夢見夢」本当に楽しかったです。二次創作って、こういうところが
醍醐味ですよね。辛い現実を一時忘れて、夢を見られる。今夜、もし
平助やちー様の夢が見られたら、それは酔狂元乙女様のおかげです。
もちろん、ちょこ様のおかげでもあります。お二人に心からの感謝を。

HPにお伺いした時にも、是非お声をかけさせていただきますので、
どうかよろしくお願いいたします。

  1. 2014/07/04(金) 18:39:55 |
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  3. 小萩 #-
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