皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「よさりの橋渡し」

まそほさんから、斎千の頂き物です♪


事前に『艶話になる』と聞いてはいたんですが、Rをつける程とは思えませんので、このままUPさせてもらうことにしました。
こういう感じのほのめかしの方が、私は斎千には似合いじゃないかと思いますw
最後の傷痕など…( *´艸`)(また平ちゃんが気付くというのも…伊達に島原通いをしていたわけじゃなく、一応一人前のオトコだったわけですねw平ちゃん♪)

では、ちょっと切なく色っぽい斎千を続きからどうぞご堪能下さいませ^^



挿絵は感謝を込めてまそほさんへ進呈します。
他の方はご遠慮下さいね。




よさりの橋渡し




 気がつけば、闇の中を歩いていた。
 どこへ向かおうとしているのかは自分でもわからない。
 昏い、道なき道をただ前へと進んでいると、目の前に橋が現れる。
 この橋の向こうへ──強い想いにかられ、足を踏み出そうとしたところで、背後から声が聞こえた。
「姫様」
 振り向くと、一人の老人が千鶴を見ている。
「橋をお行きになるのならば、この爺をお連れくだされ。おひとりでは危のうございます」
「姫様……って、私のことですか?」
「さようにございます」
「違います、私はお姫様なんかじゃありません」
 千鶴が手を振って打ち消すと、口とあごに白いひげをたくわえた小柄な老人はその目を細める。
「何をおっしゃいますやら。あなた様ほど尊いお血筋のお方は、そうはおられますまいに」
「血筋……」
「さ、お足元にお気をつけて、参られませ」
 言われるままに、千鶴は一歩を踏み出す。
 光明のない暗黒に、橋の続く先だけが白く浮かび上がる。欄干などはない、ただ向こう岸へと渡してあるだけの板橋を、裸足でたどりゆく。
「あの……おじいさんは私のことをご存じなんですか?」
 従ってついて来る老人に、前を向いたまま問いかける。
 振り返ってはいけない、何故だかそんな気がした。
「存じあげてはおりませなんだが、お声が聞こえましたので」
「声?」
「はい。あなた様がとても悲しげにお泣きになる、そのお声が、おいたわしゅうてなりませぬで」
 泣いてはいた。
 でも、決して声はもらしていないはずだった。
 泣き声など、あの場所の誰にも、聞かれるわけにはいかなかいのだから。
「おじいさん、私」
「ほら、もうすぐですぞ」
 風を切る音が聞こえる。
 白刃のひらめきが闇を裂いて走るのが見え、千鶴は思わず歩を早める。
 左構えの剣がなにかを斬り伏せていた。
 絶対に見間違えることなどない、その姿は────。
「斎藤さん!」
 最後の一体──なにか、影のようなもの──を両断して、刀を鞘に納めた斎藤が振り向く。
 橋を渡って駆け寄る千鶴に気づいたのか束の間驚いた顔をするが、すぐに冷たい無表情になるのを見て、千鶴は足を止める。
「こちらのもののふが姫様の橋の向こうのお方ですかな。しかし、これはまた」
 遅れてやってきた老人が、斎藤のまわりを見渡して、感心しきりとうなずく。
「このあたり一帯のものどもをおひとりでたいらげられましたか。さすがは姫様の」
「おい」
 斎藤の感情をうかがわせない低い声が、老人の言葉をさえぎる。
「姫様、というのはこの娘のことか」
「さようにございます」
 刀の柄に手を添え、詰問の声音に変えて、斎藤が言い継ぐ。
「寝間着に裸足のようだが……この娘、どこぞからかどわかしてきたのではないのか」
 闇に浮かぶ青白い炎のように、斎藤をとり巻く怒気が揺らめいて立ちのぼる。
「おお、これは気がまわりませず申し訳もございませぬ」
 大仰に頭を下げ、それから老人は、千鶴の方へと向いた。
「姫様、こちらのお方とともにひとまず邸へおいでなされませ」
「えっ、でも、あの」
「さ、お早う。退治てはいただきましたが、あれらはまたいつ集ってくるかわかりませぬので」
 困って斎藤を見ると、斎藤は感情を消した眼を千鶴に向けてくる。
 見知らぬ他人を見るような視線にきしる胸をおさえ、すがる思いで、千鶴は斎藤に乞う。
「あの……斎藤さんも一緒に来てはいただけないでしょうか。私にも、よくわからないんですけど……ご迷惑をおかけして申し訳ないんですけど……」
 斎藤の表情は変わらないままだったが、小さくうなずくことで、その申し出を受け入れてくれた。



 老人の案内で、千鶴と斎藤は、古びた邸の中へと招き入れられる。
 星明りひとつない夜、出会ったばかりの老人に導かれ、見知らぬ建物の回廊を歩いていく。
 心細さは感じない。
 二歩ほどの間をあけ、斎藤がついて来る気配がする──それだけで心は安らいだ。
 やがて足を止め、二人を振り仰いで、老人が言った。
「姫様はこちらでお召し替えを。あなた様は次の間にてお待ちくだされ」
「俺も立ち会う」
 言い放つ斎藤に、老人は訝しげな瞳を向ける。
「姫様のお召し替えをご覧になりたいと、そうおっしゃいますのか?」
「っ!」
 言葉をつまらせる斎藤を見て、老人はかかと笑う。
「ご案じなされずとも、召し替えは女どもがいたします故」
 老人の言葉を待っていたかのごとく戸が引かれ、内から、若い腰元といった風情の女たちが三人ばかり出てきて千鶴を取り囲む。
「お召しの色はなにがようございましょう、姫様」
「おぐしはいかがいたしましょうか、姫様」
「ささ、こちらへこちらへ」
 そうしてあれよと言う間もなく、千鶴は薄明かりを灯した部屋に引き入れられてしまう。
 戸が閉められる前に垣間見たのは、唇を引き結んで老人をにらみつけている、斎藤の横顔。
 懐かしさに、胸が痛んだ。



「これよりのちは、われらは下がりおりましょう。おふたりきりにて心おきなく時を過ごされませ」
 身ごしらえが終わる頃、ふたたび姿を見せた老人に告げられ、千鶴は惑う。
 本当にいいのだろうか──そんな心の内を見透かしてか、女たちが口々に言い添える。
「そのために橋を渡られたのでございましょう、姫様は」
「わたくしどもは姫様のお味方、誰にもなににも邪魔はさせませぬ」
「どうぞ、姫様のお心のままに」
 やわらかな声の響きを残し、老人と女たちは暗がりに溶ける。
 千鶴は小さく息を吐いた。
 迷っていても仕方がないと、意を決して、次の間へと続くふすまの引き手に手をかける。
 ふすまのすべる音に、丸窓から外を見ていた斎藤が振り向き、息を飲む。
「皆さんでしつらえてくださったんですけど……」
 気恥ずかしさに語尾をにごして、千鶴はうつむく。
「これ、遊里の女の人の衣装みたいですよね……」
 正面をずらして脇で締めた帯の幅や結びの形、打掛などの違いはあった。髪の結わえはずっと簡素だ。
 ただ、立挿しに花かんざしやびらびらを、と言われて固く辞した結果耳かきかんざしを挿すことになり、総じて、命を帯びて島原へ潜入したいつぞやのような出来上がりとなった。
「…………」
 無言の時をしばし挟んで、咳払いをしてから、斎藤が口を開く。
「とにかく、こちらへ来い。あ、いや、下心があって言っているのではなく」
「はい。わかっています」
 あわてたように言葉を足す斎藤に少しく笑って、千鶴はそろりと足を踏み出す。
 すそ引きの長い打掛は、すっかり袴に慣れた身には動きづらいことこの上ない。
 細心の注意を払いながら、のろのろと進む。
「手がいるか」
 よほど危なかしく見えたのだろう。窓を閉め、斎藤がぼそりと言う。
「すみません……」
「詫びる程のことではない」
 傍らにまわって斎藤が出してくれた右手に、遠慮がちに手を重ねると、包むように握られる。
 少し冷えて感じるこの手のひらを、千鶴は憶えている。
「あの、着替えは小袖を貸していただくだけでけっこうですから、って言ったんですけど、全然聞いてもらえなくて結局こういうことに」
「ああ、俺もあの老人に…………いや」
 苦々しい声に千鶴が目線を上げると、斎藤は顔をそむけるように窓の方へと目を遣る。
「外は月が隠れて何も見えぬ。あの老人や女たちの気配も消えたな」
「そうみたいですね……」
 目前で溶けるように消えていった者たちを思い、それからふと、千鶴は斎藤の腰に刀がないことに気づく。
 部屋の中を見回すと隅に刀掛けがあり、そこに斎藤の刀もあったが、用心深い斎藤がこの何処とも知れない場所で刀を置いていることは、得心がゆくようにも、ゆかないようにも思える。
 そうして、よそに気を取られていたせいだろう。
 障りなどなにもないのに、つまづいて、千鶴はのめる。
 斎藤がとっさに手を引いて胸に受け止めてくれたために転ばずには済み、安堵の息をつく。
「すみませんっ。ありがとうございます」
 顔を上げると、挿していたかんざしの一本が落ちる。
 黙って拾い上げたかんざしを千鶴の髪に戻そうとして、斎藤がふとそのまなざしを和らげる。

カット432よさりの橋渡し

「あの、斎藤さん?」
「……少し思い出したことがあってな」
 かすかにほほ笑む斎藤に、千鶴は胸を高鳴らせる。
 白粉は薄く、紅も色の過ぎぬように、目元は眉を描くのみ。
 姫様のお美しさはそれで充分に伝わりますわ、と化粧を施してくれた女たちはかまびすしくもほめてくれた。
 いつぞやに千鶴が似たような扮装をした折には、斎藤からの言葉はなにもなかった。
 ここでは、やはり違うのだろうか。
「思い出したこと、って」
「過ぎたことだ。それより」
 生真面目な表情になり、斎藤は千鶴の顔をのぞき込むように見つめる。
「痩せたな。食事はちゃんと取っているのか」
「いえ……はい……」
 言葉をにごす千鶴に、斎藤は渋面を作る。千鶴の身を案じてくれている時に、よく見た表情だ。
 斎藤らしい気遣いに、確かめずにはいられなくなり、千鶴はとうとうその問いを口にする。
「斎藤さん。これ……夢なんですよね? だって私……屯所の、自分の部屋で寝ていたはずなんですから」
 現実をあらためて言葉にして、泣きたくなるのをこらえて斎藤を見つめると、その顔から表情が消える。
「確かに俺も、五条の屯所にいたはずが気づけばあの橋のたもとだった。黒い影のようなものが敵意をもって襲ってきたので応じていたのだが……」
 かんざしを持つ手を下ろして淡々と話す、その口調も千鶴の知るものとやはり変わりはなく、いっそう切なさが増す。

 斎藤は藤堂と共に御陵衛士となり、伊東について新選組を去った。
 今の斎藤の言う屯所と、千鶴のいる新選組の屯所は、違う。

「そうですよね……夢なんですよね」
 くり返して、斎藤の胸に頬を寄せると、鼓動が耳に響く。
「夢だったら、言ってしまっても、構いませんよね……?」
 斎藤の答えはない。
 だが無言でうながされているような気がして、千鶴は震える声で告げる。
「会えなくなって寂しいです……」
 ずっと見てきた風景の中から、見慣れた姿が消える。
 同じ町にいるはずなのに、会うことも言葉を交わすことも叶わない。
 それは、いまだに行方の知れない父親にも言えるのに、まるで違う喪失の痛みを千鶴にもたらした。
「斎藤さんに、会いたい……」
 会いたくて会えず、会いに行くことは許されず。
 斎藤への恋着は日を追うごとに深くなりゆき、千鶴はひとり、枕を濡らした。
「……ごめんなさい」
 頬を押し当てると、かんざしが落ちる音がして、包み込まれるように肩を抱かれる。
 切なげな吐息を耳朶に感じ、こらえきれずに千鶴は涙をこぼす。
「何故、おまえが謝る」
「斎藤さんを、夢の中にまで、呼んでしまったから……」
 つのる恋しさを止められず、寂しさに耐えかねて、人の身では越せぬはずの橋を越えた。
 あの橋はおそらくそういった類の橋なのだろう、と思う。
「夢など、己の意のままに出来るものでもないだろう」
 あきれを含んだ声に首を横に振ると、二本三本とかんざしが抜ける。
 ほつれ髪が衿に落ちかかり、斎藤の指が触れてすくう。
「髪油も使わずに結い上げてあるのだな」
「結い紐をほどいてくしを取ればすぐに髪が下ろせるように、だそうです」
 涙声でそう教えると、斎藤の手が動いてくしと紐が畳に落ち、くせひとつ残さず、千鶴の黒髪が肩におりる。
「成程」
 差し入れて前髪をすく、細く長い指を千鶴は憶えている。
「帯も、引けばすぐにほどける、のだそうですけど……」
 千鶴の言葉につられてその端をつかみ、斎藤はふと、手を止める。
「念の為、確かめておくが。……これがおまえの夢、ということは……おまえの望みなのか?」
 うかがうように千鶴を見つめる瞳に、ためらいがにじむ。
 涙をこぼしながら、千鶴は笑って斎藤に告げる。
「そうですよ」
 両手を上げ、すがるように、斎藤の首をかき抱く。
「私が、私の夢の中で、望んだことです……」
 長く衣の擦れる音がして、千鶴の着けていた装束が、畳の上に花のごとく広がった。



「あの老人は何者なのだろうな」
 千鶴のまなじりにたまっていた涙のしずくを舐め取り、斎藤がつぶやく。
「おまえを姫様と呼んでいたが」
 広げた打掛をしとねに、斎藤のぬくもりと重さを感じながら、なかば意識を朦朧とさせて千鶴は答える。
「それは……やっぱり私の夢だからじゃないでしょうか」
「おまえの夢が生んだ、夢守の類だと?」
「わかりませんけど」
 小さく笑みをこぼすと、斎藤が目をすがめて息をつめる。
「さいとう、さん?」
「いや、おまえが笑うと……」
 言葉を切り、おりて来た舌が、千鶴の唇をたどる。
 触れ合う吐息の熱さを、千鶴は憶えている。 
「おまえは……おまえの夢に俺が呼ばれたのだ、と言ったな」
 体勢を変えた斎藤が、千鶴を見下ろす。
 千鶴も見上げて、斎藤に答える。
「だって、私は自分から橋を越えましたけど……斎藤さんは……」
「橋というものは、あちらとこちらにかかる処があって、初めて渡すことが出来るものだろう」
 斎藤が身じろぎ、千鶴の身の内の熱が増す。
 どういう意味かと返そうとした言葉は、重ねられた唇に吸い取られて、消えた。



 ──夢と現の違いとは、なんなのだろうか。


 障子を透かして差し込む朝の光の中で、千鶴は目を覚ます。
 見慣れた自室は眠りにつく前となんら変わりはない。
 枕辺の御守り袋も、そのままに。
 体を起こし、ふと違和を覚え、背中を丸めて下腹を抱える──夢の残滓を抱きしめるように。
「……今日も頑張ろう」
 つぶやいた声はかすれていたが、両手を上げて大きく伸びをすると、千鶴は身じたくに取りかかった。


 ──夢と現の記憶の違いとは、なんなのだろうか。


「一君、それ、どうしたんだ?」
 背後から藤堂に声をかけられ、手ぬぐいから顔を上げて、井戸端にいた斎藤は振り向く。
「それとはなんだ」
「首のうしろんとこ。傷が出来てる」
 藤堂の示すあたりへ手を遣ってみると、首の骨を横切る形の皮の裂け目に触れる。
 少しばかり沈思して、斎藤は藤堂に答える。
「特に傷を負うようなことをした覚えはないのだが」
「そうだよな。……一君に限ってなー」
「なんだ」
「なんでもない。膿むような傷じゃなさそうだけど、痛むなら薬ぬっといた方がいいぜ」
 そう言い残して去ってゆく藤堂の背中を見送り、斎藤は空を見上げる。
 今日は暑くなりそうだと思いながら、たもとから白い襟巻きを取り出すと、いつものように首に巻きつけた。



  1. 2014/04/04(金) 00:00:06|
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  1. 2014/04/04(金) 16:04:56 |
  2. |
  3. #
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まそほ様♪

描き直したかいがありましたかw
よかったです。気に入って頂けて。
初夜に関しての考察w―――それって私も考えてましたよ。
こんな事考えるのは私だけかな~と思ってたら、知り合いの二次作家さんが、それをテーマにした小説をしっかり書いてまして(勿論がっつりR18でw)、ほっとしたもんですww
いやー、やっぱり皆似たような事考えるんですねー(*^o^*)
ではでは、今回もありがとうございました!
もう一本の方はもうちょっとお待ち下さいね。
  1. 2014/04/04(金) 21:07:54 |
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  3. ちょこ #-
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