皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「雪村家の日常✿雪村薫SP Ver✿ほっぺにちゅっ」

今回はやっとこちらの世界に戻ってこられました「桜夢記」のロカさんから
沖田さんと薫のキス絵へのお話を、おまけ込みで頂きましたー♪

時間ができたらこの二人のお話を文化祭ver.で書きたい、と予告申告されてから、ずーっと待っておりました!
お約束通り出来上がったものは、SSとは言えない力作^^
本当にありがとうございました!
沖田さんは薫を思う存分からかえて、大満足の内容でしょうw


ではでは
ロカさんの、いつもの原田家前提の現パロ―――新年に相応しく、皆さんも楽しく幸せなわいわい感を満喫して下さい^^
続きからどうぞ~♪


挿絵は感謝を込めてロカさんに進呈します。
他の方はご遠慮下さいね。




雪村家の日常✿雪村薫SP Ver✿ほっぺにちゅっ




 ことの起こりはいつになく静かな雪村家の千重の部屋だった(^^♪
「えと? これ、母様じゃない……」
 懐かしいアルバムを見てそう呟くのは千鶴の一粒種。大事な宝物である愛娘の千雪だった。
 それはまだ千鶴が原田と結婚する前に、薫が通っていた高校でおこなわれた文化祭で撮られた一枚の写真。(薫にとって黒歴史以外の何物でもない。哀れである^^;)
「これ、は……」
 その写真を目にした千鶴は思わず固まっていた(爆)

カット302


 千重がぎっくり腰になったという連絡を受けて、左之助に実家へ向かうと知らせて、慌てて雪村の家に戻った千鶴だったが既に千重はペインクリニックでブロック注射の処置を受けていて、無理は出来ないものの、ベッドへ横になったまま、溺愛する孫娘を相手に懐かしい秘蔵品をあれこれと出して見せているのだ。
 その一つが薫と千鶴の学生時代のアルバムだ。千鶴は原田と結婚をし、家を出た時にそのほとんどを持って出たが薫のそれは千重の元で厳重に管理保管されている。ちなみにこの秘蔵アルバムだけではなく、写真のデーターが入っているUSBメモリも、メモリごとこっそり試衛館の貴重品の中にも眠っていることを知っているのは千重の親友であり近藤の妻であるつねと山南の三人だけである(*^^)v ちなみにコピーも銀行の貸金庫に入れてあるという念の入れようであるのは言うまでもない。(この母にしてあの薫ありと云うべきであろう)
 なぜならば薫にこれの管理を任せたりしたら、ほとんどの物(ぶつ)が闇の中に葬りさられているであろうからだ。特に沖田及び試衛館関係者が関わっている写真は確実に瞬殺である(笑)
 その中の一枚が千雪と千鶴の目の前に広がっていた。
 新選組の幹部の姿をした沖田にキスをしている(爆)薫の姿だ^_^; その向こうには男装した千鶴の姿がある。
「ばぁば、薫おにいちゃんと総おにいちゃんはおとこのこなのに、どうして薫おにいちゃんがおんなのこのかっこをしてるの? どうして母様はおとこのこのかっこをしてるの?」
「そうねぇ~、どうしてかしらねぇ(笑)」
 千重から千雪へ戻る声は既に笑いが含まれている。それをどうとったのか、千雪はまだ幼い顔の眉間にしわを寄せて、
「ばぁば! ゆき、どうしてか、わからないの。おしえて、ばぁば! うんと、あとねぇ。ゆき、どうして薫おにいちゃんと総おにいちゃんがちゅうしてるのか、わかんない? ちゅうはおとなにならないとできないって、父様はいってたのにどうして薫おにいちゃんと総おにいちゃんはちゅうしてもいいの?」
 と珍しく可愛い駄々をこねる。
 千雪はちょうど、どうして? どうして? の時期にかかっているのだ。
 そんな愛娘の様子に千鶴は微笑ましいものを感じながらも一方で思い出すのも恨めしいあの日の記憶が一気に蘇り、苦笑いするしかなかった。
 しかし千重はおっきな瞳で無邪気に問いかけてくる可愛い孫娘に、あの言葉に出来ないほど面白おかしかった一日(あくまで千重や沖田限定であろう)を思い出して笑いを堪えるに必死だった。
 そうあれはもう6年も前の事になる。まだ、千鶴が原田と付き合っていることは母親である己ですら知らなかったころのことだ……。

「はぁ!寝言は寝てから言ってくれる? それとも目を開けたまんまで寝るのか、沖田は! ったく、なんで他校のしかも女生徒の千鶴がうちの文化祭の劇になんかへ出るんだよ!」
 薄桜学園、巷では剣道で有名な今時珍しい校風の男子校である。(注:SSLの設定との相違はここでは考えないのがお・や・く・そ・く♪)
「だ・か・らっね、薫ちゃんにもわかるように説明してあげたでしょう。僕らOBとしては君たちだけじゃ、この文化祭が心配なわけ(>_<) 僕や一君がいた頃の剣道部は名物の剣道喫茶(ちなみにこの無茶ぶりの発案者は言わずと知れた沖田である)で受けてたけど、今の中心メンバーは平助君とか、山崎君とか、薫ちゃんとか~、薫ちゃんとか~、薫ちゃんとか~、だし」
「薫ちゃん、薫ちゃんとちゃん付けで俺の名前を連呼するな! それとなんで俺の名前だけを連呼するんだ!」
 これではまるで己が役立たずのようではないか!!!
 第一、沖田達が現役だった時と同じように喫茶店をするのならば、このメンバーの中では一番役に経つのは確実に己だと薫は自負していた!!
 それなのに~!!!!
 ぎりぎりと音がしそうな薫の科白に、既に反応を返す者などない。これが既に日常の風景になっているからだ。(しかもそこへ絡んだりしては確実に巻き込まれる。学習とはこのように物事を同じように繰り返していくことがとても大事なのである^^;)
「だって薫ちゃんは薫ちゃんでしょ? いやだなぁ、いつだって僕は薫ちゃんをかわいい弟だと思ってるんだよ、だから心配なんだよねぇ。それに例年通りに剣道喫茶をするにはやっぱり彩りに欠けてるでしょ、薫ちゃんたちじゃ。だから今年はぜっーたいにそれは無理だしぃ~。かといって可愛い後輩に恥をかかせるわけにはいかないから、こーしてわざわざ万人受けの劇の脚本までこの僕が書いてあげたんじゃない」
 そう、沖田の言うように毎年、この文化祭の時の目玉の一つがこの剣道部がしていたメイド喫茶ならぬ剣道喫茶、何の事はないただ道着で接客するだけの事だ。
 だが、これが意外に受けて沖田や斎藤が在学中はそれこそ他校の女子で行列が出来るほどだったのである。ちなみに顧問の土方や教員である原田や永倉まで総動員するという人使いの粗さであった……((+_+))
「だからって、なんで千鶴なんだよ。しかも卒業したお前たちまで出る必要ないじゃないか!?」
 ざっと心ならずも脚本に目を通して、薫が吠えた!
 中身が『ロミオとジュリエット』もどきなのはいい。だか、それをわざわざ幕末に設定を変えて、しかもロミオ役は新選組一番組組長、沖田総司。(絶対に沖田が自分自身でやる気でいるに違いないと薫は確信していた^^;)で、ジュリエット役が倒幕派の志士の娘と云う設定だ。
 しかも、その娘役を千鶴にやってもらおうだなんて!
 誰が好き好んで狼の群れの中に愛らしくて、優しくて、自分に似て美人で、性格も良くて、料理上手で、大和撫子の代表といっても過言でない可愛い妹を……。(以下略^^;)
「だって、薫ちゃん! ヒロインなんだよ! わかってる、可憐で、心が綺麗で、かわいい女の子じゃなきゃ駄目に決まってるじゃない!!」
「確かにその条件に合うのは千鶴だけだよ!(だけなのか?) けどな、こんな男ばっかりの悪魔が集まってるような巣(酷い言いようである)へ大事な妹を放りこむ愚かな兄がいるわけ? はぁ、沖田ってばかじゃないの?」
「大事な妹を護れないような力不足の身内がいるって不幸だよねぇ。けど、僕が千鶴ちゃんを護れるから、薫ちゃんが力不足なのは充分わかってるけど、僕がいるから大丈夫(^o^)」
「誰が力不足だ! 俺以外に千鶴を護れる奴なんていないって、なんでわかんないの? はぁ! これだから弟なんて気楽な存在なんだよね。しかも末っ子!」
「末っ子が駄目だなんて、土方さんが聞いたら怒るよぉ、薫ちゃん。土方さんが末っ子だから、薫ちゃんが言いたいことは僕にも充分にわかるんだけどさぁ。個人攻撃はメッ! でしょ♪」
 確かに土方も末っ子である^^; だが、この場合の末っ子は明らかに沖田のことであろう。
「お前はぁ!!!!! 人の話を聞けぇ~!!!!!!」
 まくし立ててるのは沖田と薫の二人だけ^^; 他のメンバーは既に蚊帳の外だ。
「なぁ、今日さぁ。俺、見たい番組があるんだけど、録画してねぇんだよなぁ。それまでにうちへ帰れるかなぁ~、一君」
 どこか悟ったような瞳で遠くを見つめながら、呟くのは藤堂であった。
「無理だろうな、平助。いさぎよく諦めろ!」
 どこか悟ったような返事を返すのは沖田に無理やりここまで連れてこられた斎藤である。おそらくは下校時間のぎりぎり限界まで、沖田と薫の口論が続き、最終的に顧問である土方が、さっさと帰れ! と怒鳴りこんでくるまで、これは続くのであろう(T_T)
「そもそも総司と一君が参加する段階で、千鶴が部外者云々とか言えないとか思わねぇ?」
 無駄とわかりつつ、そんな言葉を斎藤へ向って再度投げかけると、
「いや、学園長と千鶴が通っている高校の許可は既に取ってあるそうだ」
 と諦めにも似た淡々とした答えが斎藤から返った。
 はは、と乾いた笑いが藤堂から洩れた。既に準備は万端と云うわけだ。さすがと云おうか、なんと言おうか……。
「そうか~。でも薫ちゃんがそんなにまで反対するのは千鶴ちゃんじゃ役に立たないと思っているからなんだよね。千鶴ちゃん、きっとかなしいね。大好きな薫ちゃんにそんな風に思われてたなんて……」
 目を吊り上げてまるで毛を逆立てている猫のような薫の様子に、いささかがっかりしたように沖田がぽつりと心底から残念そうに呟いた。
 その言葉に大きなため息を零したのは誰だったろうか(爆)
「おーきーたーぁ!!!!!! いつ、この俺が大事な千鶴のことを役立たずだと言ったぁ!!!!!」
 まぁ、ほとんど切れかかっていたのではあるが、今の一言で完全に薫は切れた。そう、沖田が心の中で舌を出していることにも気がつかないで。
 もちろん、いうまでもなく、その場に居合わせた全員はこうなることが分かっていた。
「あゝ、良かった♡ じゃあ、千鶴ちゃんの出演はこれで決定だねッ♪」
 まるで天高く澄みわたる青空のような清々しい笑みを浮かべて沖田が宣言する。
「なんでそうなるぅぅぅぅぅ~!!!!!!!」
 薫の叫び声がむなしく学園中をくまなく響き渡った。
「やっかましいぃ! おめぇら!! 何騒いでやがる!!」
 そこへ飛び込んできたのは顧問の土方だった。
「やだなぁ、土方さん♪ 教師自らが大声出しちゃ駄目でしょ♡ 文化祭でやる劇のこと、話してたんですよ(^^) いま、薫ちゃんに千鶴ちゃんの出演の許可だしてもらったんですぅ。あまりの嬉しさに叫んだりして、もう薫ちゃんってば、すっごくかっわいいですよね♪」
 上機嫌のあまり薫を抱き寄せて頬ずりでもせんばかりの沖田と対照的に眉間の皺もくっきりと土方へ不機嫌なまなざしを向ける薫。まるでこうなった責任が土方にもあるかのような恨めしげな視線だ。
「土方先生! どうし……」
 薫の言わんがことを皆まで言わずに沖田が間に割って入る。そんな沖田の様子に頭が痛いと思う土方であった。だが、そんなことなどいまの沖田に関わりはない(*^^)v
「はい、はーい! 薫ちゃん、照れない、照れないぃ♪ 千鶴ちゃんと共演なんて嬉しいよね。千鶴ちゃんもこの話、とっても喜んでたからねぇ」
 そこまで話が進んでいたのか……。その手際の良さに全員が舌を巻く。なんともはや~。
 だが時すでに遅し……(^_^;) こうして千鶴は薄桜学園の学園長直々の許可を貰い、特別の計らいを持って文化祭に特別ゲストとして招かれることが決まったのであった。
 これは薫の自爆行為だったとも言えよう(笑)
 こうして喜劇(薫にとっては悲劇?)が始まった。

「おにいちゃんたちとおゆうぎをしたの? 母様?」
 千雪が不思議そうな顔で千鶴の方へ身を乗り出してくる。そう、千雪は先だって、保育園のおゆうぎ会で白雪姫をやったばかり。だから、そんな言葉が出てくるのだろう。
「そうよ、ゆきちゃん。母様はねぇ、近藤のじぃじのところのお兄ちゃん達とおゆうぎをしたの」
 ほほほ、といかにも上品そうに孫娘に微笑んで見せる千重だった。
「ずるーい、ゆきもみたかったのに、なんでつれていってくれなかったの、母様!」
 ぷくぷくの頬を愛らしく膨らませて、千雪がほんの僅かばかりの駄々をこねる。千鶴は微かに笑みを浮かべて見せた。
「あのね、ゆきちゃん。その時はまだ、母様は父様のお嫁さんじゃなかったのよ。それにゆきちゃんはまだ生まれていなかったから……」
「ゆき、まだいなかった?」
 小首を傾げる愛らしい姿。
「そう、神様がゆきちゃんを母様と父様へくださるまえだったのよ」
 そうだ、まだ原田と付き合ったばかり。家族にも内緒でのお付き合いだった。でも、どきどきして楽しかったことはとても大切な思い出だ。
 そう、この薫にとっては悪夢でしかない文化祭の一日も、いま思えば楽しい記憶だ。もちろん、それは一部の人間限定だけれど。
 あの当日、舞台裏でおこなわれていた騒動を直に体験していない者でなければ更に……。

「母様~」
 千鶴の目がどこか恨めしそうに千重へジトリと向けられていた。
 だが、そんな千鶴の心の動揺などまだ理解できない千雪は、溢れんばかりの好奇心で大きな瞳をキラキラとさせて千重の傍で話を聞いている。
「いやぁねぇ、ちーちゃんたら! とっても楽しかったわよ♪ あのお芝居!」
 どうやら実母の腰痛はどこかへ消えてしまったらしい。千鶴の恨めしそうな視線も関係ないといった様子で、千重はころころと笑って見せる。
―薫ちゃんがゆきちゃんにこの写真を見られたことを知ったりしたら……(=_=)
 あの時間が千鶴にとって楽しい時間だったのは事実。だが、薫にとっては己に関わる全ての人間から消し去りたい記憶だろう。
 その恥部とも云うべき過去を、溺愛している姪に見られたことを知った時のショックは図りきれない。(逆に沖田ならばおそらく楽しげに当時の話を、千雪へ延々と更に面白おかしくして語るのであろうが^^;)
「ゆきねぇ、おゆうぎはたのしいがいっぱい、いっーぱい、だったのに、母様はたのしいがなかったの?」
 どうしたものかと考えを巡らす千鶴へ、千雪が大きく手を広げて全身で力説する。お遊戯会でお芝居をしたことが、ことのほか気に入ったのだ。ちなみに千雪の役は森の動物さんだったのだが……。
「ううん。母様もとおってもたのしいがいっぱいだったのよ」
 そう、薄桜学園で練習をする千鶴を左之助が迎えに来てくれて、毎日がデートのようだった。
 みんなの前では隠さなくてはならなかったけれど、左之助と会う時間が増えるだけで舞い上がるほど嬉しくて、楽しかった。
 そう、あんな騒ぎがなければ更に楽しかったに違いない。
 千鶴はそんなことを考えながら、あの日々を思い出していた。

「原田先生。そんなことはあり得ないと信じたいですが、もし千鶴に不埒な真似をなさったりした時は、おわかりですよね……」
 夕日で長い影ができていた。それは三人の姿を映し出している。そのうち二人は似たような背恰好……。残る一つはとても背が高い。
「か、薫ちゃん。そんな言い方は……」
「薫、お前なぁ……」
 千鶴に指一本、髪の毛一筋にでも触れたりしたら、ただでは済まさないと言わんばかり薫の態度に原田がやや引き攣った笑みを浮かべる。
 薫は筋金入りの重度のシスコンだ。何より原田を見つめる薫の目はまるで巷のよっぱらいのごとく座っていてかつ半端なく剣呑な色を帯びている。
「千鶴、いいか! 決して助手席になんて座るんじゃないぞ!! ったく、沖田の奴が俺の言い分にケチつけるから!!!!」
 本来ならば千鶴と共に帰るべきなのに、何故だか薫の演技が決まらないということで、特訓などというわけのわからないことを沖田が言い出したせいで……。大切な妹を守って帰ることもできないなんて!! 雪村薫、一生の不覚……orz。
「あ、あの薫ちゃん……、そんなこと……」
 原田の車で送ってもらう、ただそれだけの事に、二律背反に苦悩したという哲学者でもここまでではなかったであろう、と言わんばかりの薫の苦悩に満ちた姿に原田と千鶴が深い、ふかーいため息をついたのだった。
 物語は時間の制限もあり、沖田が最初に書いたものよりも簡素化された。反論する沖田へ深い釘を刺したのは土方や斎藤だった。
 そうして、もう一つ……。
 もとよりここは男子校。そこへ他校の女子生徒が参加するのだ。既に口コミで剣道部の演目の前評判は高くなる一方だ。そこへ卒業したはずの沖田や斎藤が参加することが近隣の女子学生の耳に届き、問い合わせの電話がひっきりなしの状態だ。
 そう、たかが高校の文化祭りでおこなわれる芝居ごときと云うことなかれ! 問い合わせの電話が殺到する事態にいたっては、土方が顧問権限でさらに時間の短縮を厳命したのだ。沖田は不満そうであったが……。
「沖田の奴ぅ~!!!!!」
 こんなにも瓜二つの二人なのに、性格の違いがここまで違う顔にさせるのかと、遠い目をして原田は思った。
 そうして、胸の中でぼそりと呟いた。
―俺が千鶴と付き合ってるなんて薫にばれたらしたら、さらに大騒ぎになることだろうなぁ。ははは……(^_^;)
「薫ちゃん! 未練たらしく千鶴ちゃんを見送ってちゃだめでしょ! 薫ちゃんが戻ってこないと、みんなが帰れないんだよぉ!!!」
 危険きわまりない原田なんかに(笑)千鶴の送り迎えなんてさせたくないのに、その薫の苦悩の元が能天気に部室から声をかけてくる!!
「お~き~た~!!!!!!!」
 座った薫の目に殺意が見えた。大体、こんな訳のわからないことに大事な、大事な千鶴を巻き込み、あまつさえ狼の巣へと導いた悪魔が能天気な顔を見せている。ギッ! と薫が強い視線をそこへ向ける。
「千鶴ちゃーん! 今日は仕方ないけど、明日からは一緒に帰ろうねぇ♪」
 そんな薫の様子など、どこ吹く風と沖田がさらに煽るような言葉を続けながら、今は稽古場として使用することになった教室の窓から千鶴に向って大きく手を振る。
 千鶴は苦笑しながらも沖田へ向って小さく手を振った。
 その千鶴の様子に、
「きっさまぁ!!! 誰が千鶴とお前を一緒になんて帰すかぁ!! いいか、そこを動くなよ!!!!」
 叫びながら薫が宿敵の所へ走りかけていこうとして、ぴたりと唐突にその足が止まった。
 そうしてゆうるりと振り向いて、原田と千鶴に更に一言……。
「原田先生、ここからうちまで車で30分も在れば、渋滞しても着きますよね。千鶴、その時間に家に無事に着いたか確認の電話をするからね……」
 にっこりと笑みを浮かべたその千鶴ににた愛らしい顔がとてつもなく黒かったのは言うまでもない。
 あくまで薫は薫であった……。

 けれど、そんなことは単なる前哨戦だったのである。
 配役が大問題だったのである。
 主人公の沖田総司役には、沖田曰く、脚本はあて書きだから~♪などと言い出して、ちゃっかり自分が収まり、ヒロインは言うまでもなく千鶴。
 そこまでは良かったのである。面倒事へと首を突っ込みたがるもの好きは薫以外におらず、薫と沖田がさらにややこしい事態を招かぬように土方がそれなりに手綱を取っていたからだ。(それにも限界があることは言うまでもないことであったが^^;)
「だから、なんで俺がヒロインの恋路を意地悪く邪魔をする双子の兄の役なんだよ!!」
 まだ練習も始まる前だというのに、配役でこんなにもめるとはだれが思ったことであろう。
「ほら、歴史的に考えても新選組って大ファンの人はともかく、当時はかなり京の人達に嫌われてたよねぇ。作り話にこそリアルを求めないとねぇ。この話はね。その中で咲いた一輪の儚い花のような恋物語なんだよ。脚本、読んだでしょう、薫ちゃん。薫ちゃん、悲劇には悲劇を彩る人物が必要なんだよ! わかるでしょ! 薫ちゃんは千鶴ちゃんと並ぶこの劇に欠かせない大輪の花なんだから、宣言してもいいよ! この劇が終わったら、来年のうちの文化祭では薫ちゃん目当てにここへ女子学生がやってくる!!!」
 腰に手を当てて、そう断言する沖田にげんなりとした表情を見せたのは薫だけではなかった。
 山崎は密かに沖田の脳を解剖して観てみたいと思い、藤堂はこれで今日も一日終わるのかとへばり、斎藤は今後のスケジュール調整を脳内でおこない、土方はどの辺りで二人を宥めすかせるかと考えを巡らせていた。永倉もまた今夜のレースの結果が~! とスマホを取り出してくても取り出せない状態に苦悩していた。(スマホで馬券を買うことは可能であるそうだ)
 ちなみにその頃の原田と千鶴はプチデート状態だったことは言うまでもない(*^_^*)
「お前、それいま思いついた理由だろう……」
 薫が半眼で沖田へと詰め寄る。そこへ返るのは天使のほほ笑み❦
「薫ちゃん、土方さんの影響を受けちゃったんだね。かわいそうに、すっかりやさぐれちゃって……。でも今日からはもう大丈夫だからね。今日から僕がずっーと薫ちゃんの傍にいてあげられるから(^^)」
 そんなんいるか! 沖田の好意など生ごみと一緒にゴミ置き場に出してやるぅ! さすがに言葉にするのは憚って、薫は改めてナメクジのようにじとりとした視線を沖田へと向けた。
 一方、土方は沖田の頭の上に拳の一発でも落としたい衝動を必死で押さえていた。これもまた哀れなことである(笑)
「とにかく、総司さぁ、あて書きしてるんならもう全員の役は決まってんだろう。じゃあ、それでいいじゃん」
 これが連日続くのかと思うと、藤堂はやけになって沖田へそう言葉を掛けた。
「平助。そのあて書きとはなんだ?」
 そこへ場違いとも云える斎藤の疑問が藤堂に向けられた。
「あて書きってのは、最初から演じる人物を想定して脚本を書くこと、だったよなぁ、土方さん!?」
 自信がないのか、土方へ確認を入れると土方が眉間に深―い皺を寄せたままで
「ここじゃあ土方先生だ! ったく、何度言ったらわかりやがる。おめぇのいうとおりだ、平助。斎藤、特定の人物を想定して書くことをあて書きっていう」
 と藤堂の返答を肯定する。
「そうですか……」
 土方の返答に斎藤が納得したように、うむと頷いた。そうして、
「ならば改めて配役を定める必要はあるまい。さっさと全員に役名を告げて、各自で練習に励めば良いのではないか」
 ごもっともなご意見である。
「えー、文句があると書きなおさなきゃいけないから、こうして集まってもらってたんだよ~」
「お前が皆を想定して書いてものをいまさら否というものもあるまい」
 さらにごもっともなご意見である。異論があってもへ理屈で通すのが沖田の主義だ。だとしたら、ここでごねた所で結論は変わらない。だとしたら、時間だけが無駄に浪費されていくばかりだ。ならば、修正などは後日いつでも出来るはず、ここは沖田の思惑に乗るのが一番だ。斎藤はそう判断をしたのである。
「なーんだ、つまんないなぁ。みんなで作り上げるのが文化祭の醍醐味でしょ。ここですんなり納得されちゃうとなぁ」
 はい? なんとおっしゃいましたか?
 思わず全員の目が点目になる。初めにトラブルありきで始めたかったというのか、こいつわ…………!
 ひときわ大きなため息を土方がつく。そうして沖田へ向って手を出した。
「はい!」
 その手にぽん! と自分の手をのせる沖田(爆)
「誰がお前にお手をしろなんていった」
 土方が爆発寸前の所をなんとか堪え切った。
 そこに揃った者は薫を除いて全員が、内心でぱちぱちと手を叩いていた。いわゆる土方の大人の対応に対してである♪
「違うんですか?」
 その言葉にぴき! と反応しかけてなんとか堪える。
「配役表を渡せって言ってんだよ! 俺は……」
 これが薫であったなら、とうの昔に切れていただろう。だが昨今、教員が置かれている立場は弱い。そして土方は沖田と兄弟と云ってもいいくらいの長い付き合いなのだ。今さらだろう。
 だから……。
 この場は黙って、沖田から渋々渡された配役表をその低い、怒りを堪えた声で読み上げたのだった(笑)

主役:沖田総司by沖田総司
ヒロイン:雪村千鶴by雪村千鶴
新選組副長:土方歳三by土方歳三
ヒロインの兄(土佐の南雲家に養子に出された土佐藩士):南雲薫by雪村薫
元越前福井藩士で千鶴の父:雪村八十八by永倉新八
新選組監察方:山崎烝by山崎烝
雪村八十八の友人で千鶴の庇護を担う薩摩藩士:大久保利通by斎藤一
大久保利通と薩長同盟を結ぶ長州藩士:桂小五郎by原田左之助
大道具、小道具係り;藤堂平助
作、演出:沖田総司
原案:W・シェイクスピア『ロミオとジュリエット』
 こうして配役は、若干一名を除いて決められていた……。
 いまさらではあるが、異議は全て土方の鶴の一声で却下されたのである。
 こうして、ようやく劇の幕が上り始めたのである(笑)

「母様はおひめさまじゃなかったの?」
 不思議そうに千雪が小首を傾げる。
「そんなことないのよ、ゆきちゃん。母様はそれこそお姫様だったのよ」
 千重が柔らかな声で孫娘に語りかける。確かに状況はそうだったのだろう。だが、本番であんな展開が待っているなど誰が想像できたであろうか……。
「でも、ばぁば。おひめさまはおよめさんのおきものでしょ。母様、きてるの、およめさんのおきものじゃない……」
 不思議でならないのだろう。千雪が不思議そうに大きな瞳を輝かせる。
「でも、ゆきちゃん。シンデレラみたいなお姫様もいるでしょう?」
「ばぁば。シンデレラはおよめさんのどれすなの! ゆき、ちゃんとしってるもん」
 そうして保育園の先生がお話してくれたのだと、嬉しそうに千重に語りかける。
 お姫様はお嫁さんと同じ……。
 小さな娘はそう思っているのかと千鶴は胸の中が暖かくなった。
 だが、あの日々は冷たいものが背中を流れていく感触を何度も味わうことになったのだ。今となれば懐かしい楽しい記憶だが、現実の時間の中ではそんなことは言っていられない状態だったのである。
 特に本番は……。
 世の中には苦楽が同居する瞬間と云うのが確か在るのだ。
 現実として経験する者は少ないだろうけれども……。

 祭りがおこなわれる日は特別な気がする。始まれば必ず終わりを迎える特別な時間。校内ではあちこちから楽しそうなざわめきや叫ぶ声。一方で異臭が漂い教員がバタバタを走ってその場へと急行し、一方で生唾を飲み込む程に食欲をそそる匂いもする。
 そんな中でこの祭りの日々を特別な思いをもって迎えている集団がここに在った(*^^)v
 あの沖田のまるで『お前は月影先生なのか!』 という突っ込みを入れたくなるほどのきっつい練習から解放される一団のことだ。
 そして、ここに沖田の思惑とは真逆な方向へこの劇を進めようと暗躍する影があった(笑)
「けど、本当に大丈夫なのかぁ」
「臆病風に吹かれたのか、フン。情けない奴……」
「薫さぁ、相手はあの総司なんだぜ。上手くいくかどうか~」
「だが、雪村の言い分ももっともだとも思う。いくら祭り気分でおこなわれるとはいえ、文化祭はれっきとした学校行事だ。そこへ、あのように破廉恥な……」
 ひそひそと囁かれる声。
 文化祭では使用されない古い特別棟の一室で、おこなわれ続けていた密会である。そこには三つの黒い影。否、今回の劇の重要人物がみいぃーつ。
 一人は袴姿の少年。一人は学年ごとに違う色のジャージに身を包んだ少年。そして忍者装束のような黒い衣裳を身に纏った少年。
 常ならばこの面子が集まることはなかろうという顔ぶれだ。故に事態は深刻と言えた。そうして、そこへもう一人……。
「おお、さすがに揃ってんなぁ」
 いささかのんびりとした声が響く。
「遅いですよ! 原田先生!!!」
 それへ不機嫌な声をかけるのは、袴姿の少年。雪村薫である(笑)
「左之さん、上手く抜けられたじゃん」
 ジャージ姿は藤堂平助。今日おこなわれる劇の薫共々裏の主役と言えよう。
「しかし、原田先生。千鶴君に気がつかれぬように上手く進行できるでしょうか?」
 残った忍者装束は山崎烝である。
「いまさら逃げるのか! このままだといくら芝居だと言ってもリアルさを求める余り、千鶴は沖田の餌食になる。山崎、お前は千鶴が沖田に無体なことをされても構わないって言うのか!」
 薫の勢いは山崎の胸倉を掴まんばかりである。ある意味、乱心と言っても誤りではない。
「しかし、雪村。沖田先輩は土方先生に真似だけと強く指導されていたはずだが」
 薫の言い分に山崎が僅かばかりの反論を試みる。それは返答を返したのは薫ではなく原田であった。
「あのなぁ、山崎! あの総司が土方さんの言うことなんて聞くと誰も思ってねぇから、お前もここにこうしているんだろうが、斎藤を沖田の目くらまし担当にしてまでよ。だろ」
 ポン! とその大きな手を山崎の頭にのせると原田は苦笑して見せた。
 そう、ここに揃っているのは『千鶴護り隊』のメンバーである(爆)
 芝居の練習が進むにつれて、元の話がロミオとジュリエットである以上、台本には書かれていなかったはずの、キスシーン等々が皆の気がつかないうちに付け加えられていたのである。
 さすがに千鶴が毎度、毎度、そのキス、ゴホン! のシーンの練習に真似だけとはいえ真っ赤になって涙眼になるにいたっては、さすがに皆が真剣に千鶴の唇の貞操に(笑)危機を感じるようになったのである。(内心もっとも穏やかでなかったのは薫よりも千鶴の彼氏である原田であろうが、それを感じさせない所が原田の原田たる所以であった^^;)
 妹の一大事とばかりにいきり立つ薫をなんとか宥め、密かに結成されたのが『千鶴護り隊』別名『CMT』である。(秘密を簡単に洩らす懸念が高い永倉は初めからメンバー外だったのはいうまでもない^^;)
 その『CMT』が沖田の隙のない目をかいくぐって暗躍すること数週間……。
 だが相手はあの沖田である。
 慎重に慎重さを抱えて行動はひそやかにおこなわれていた。脚本の一部を差し替え、千鶴にも気付かれぬように根回しをして……。ちなみに沖田の脚本へ密かに手を入れたのは薫である^^;
「ふふふ……。これで沖田の黒い陰謀を阻止できるだけじゃなく、ひと泡吹かせることができる……」
 低く笑い声を立てる薫の背後から真っ黒なオーラーが見える(笑)
「そりゃあ、よかったな。けど、やり過ぎんなよぉ。土方さんもあの内容だから許可したんだからな」
 原田は丸めた台本でポコン! と薫の頭を軽く小突いた。勿論、土方も『CMT』の一員になし崩しになっていた(^_^;)
「原田先生。お言葉を返すようですが、喧嘩を売ってきたのは沖田の方です。売られた喧嘩は買うのが礼儀でしょう……」
 返る薫の答えはこれである。
―はは(^_^;) マジで大丈夫か? どうなってもしらねぇぞ、俺……。
 原田が内心でそう思っていたとしても、走りだしたら止まらない。
 そう。これは喧嘩を売った、買ったという話ではなかったはずである。いつの間に古文の形容詞や動詞のようにこんな風に格変化したのであろうか? これは確か『ロミオとジュリエット』だったはずだ。決して『マクベス』とか『リチャード三世』ではなかったはずなのだが……。ちなみに『マクベス』ならば、沖田マクベスに薫マクベス夫人という配役がぴったりであろうが、実現はほぼ不可能であろう(これはこれで面白そうだと思うのではあるが……)
 ともあれ、こうしてミッション! 否、薄桜学園剣道部の文化祭は闇の中で幕を上げたのである。
 Are you ready?

 なんだろう……?
 ほぼ毎日練習をしているはずなのに、徐々に話が変わっていく。
 千鶴は土方が秘密裡に用意した誰も近づくことのできない特別の控室で首を傾げていた。
 沖田や薫との演技にずれが生じているようなのだ。しかも、昨日の最終打ち合わせには千鶴は参加させてもらえなかった。そして、昨夜、薫から渡されたまた修正された台本。土方や原田の指示書きもあったし、そこを直すことで千鶴の負担が減るのは事実だ。
 けれど?
 用意されていたのは着物に袴。確かに、最初は男装する設定になっている。だが、舞台の途中から身につけるはずの娘ものの着物が用意されていないのはなぜなのだろう???
 うーん? 眉間に皺を寄せて、考えながら、着替えを済ませて簡単な舞台化粧を施す。
 そこへ軽くノックの音が響いた。
「千鶴! 支度できたかぁ?」
 一瞬、身がまえた千鶴に聞こえてきたのは幼馴染の藤堂の声だ。
「平助君?」
「うん、俺。そろそろ、体育館へ移動してくれってさ! 大丈夫か?」
 明るく響く声にも違和感があるのはなぜなのだろう? 千鶴はもう一度、首を傾げた自分の預かり知らない所で何かが起こっているような気がするのは、ここが千鶴の見知った空間ではないからだろうか?
「う、ん。大丈夫だよ」
 鍵を内側から開けて、藤堂を出迎える。お小姓姿の千鶴に藤堂はにかッ! と笑って見せた。
「似合ってんじゃん! いー感じ(*^^)v」
「そう、かな……」
 親指を立ててグッジョブと言わんばかりの藤堂の様子がいかがわしいような気がするのは考え過ぎだろう。何しろ、ここは男子校なのだから、違和感があるのも当然の事……。
「ほら、早くしねぇと……」
 すぐに顔に感情が出ることを自覚している藤堂は、千鶴の後ろへと廻るとその両肩に手を掛けて着替え用の控室から千鶴を押し出した。

「もう、パパったら、こんな大事な時に患者さんを選ぶなんて!!」
「仕方ないじゃない。その代わりに敬介君が来てくれて録画も写真も撮ってくれるんだからね」
 ぷりぷりと怒りながら呟くのは雪村家最大の権力者であり、千鶴と薫の母である千重だ。、それへのほーんと返答を返すのは、土方を始めとした剣道部のメンバーが世話になっている試衛館の道場主である近藤の妻であり、千重の親友であるつねであった。そして彼女たちの傍には、つねから名指しされた本日のカメラマンである山南、近藤の姿が在った。
 そこはこれから舞台がおこなわれようとしている体育館の中であった。
 一面に並んだ椅子に座るのはほとんどが近隣の高校の女子生徒だ。
 さんざ問い合わせ電話に対応した土方が辟易した上で考え出したのが整理券の配布だ。配布が先週末だったので、前日から並ぶことと金員でのやり取りを絶対の禁止事項としておこなった。当日は剣道部のOBや教員も含めて大騒ぎだったのは言うまでもない。
 特にゲスト出演する雪村薫の妹の美少女ぶりは学内では大きな噂になっていた。(男の薫ですら、あれほど愛らしい顔つきなのだから、そっくりで性格のいい妹はさぞや! ということである)
 男子生徒はなんとかその姿を一目拝めないものかと連日、練習場所に張り込んでいたのだが全て徒労に終わっていた。(言うまでもなく薫と沖田の仕業である)故にせめて劇ぐらい見たい、少なくとも自分が通っている高校の文化祭の演目である。見られるはず! だれがこんな事態になると思うであろう、結果として多くの男子生徒が涙を呑んだのは言うまでもない。
 女の方が情報ツウで、行動が早いのである(笑)
 だが、その中でも一番に舞台が良く見える席を陣取っているのは、なぜか整理券を受け取っていない御一行様であった。裏の力関係と云うものである。
 この席は剣道部の権限で手に入れたものだ。それはどうしたものかと、斎藤や山崎が反論したし、薫にいたってはあの母親が来ると聞いただけで怒り心頭ものであったが、だれが沖田のこねるへ理屈に勝てようか……。
 かくして試衛館御一同様は破格の特別扱いでこの席に座っている(笑)
「沖田さんが主役なんですって!!」
「労咳の美剣士! ぴったり!」
「どうしよう。斎藤さんは大久保さんで原田さんが桂小五郎だなんて幸せすぎる♡」
「なに言ってんの! やっぱ、主役よぉ、幕末に儚く散ったあの美剣士を沖田さんがやることに意味があるのよぉ!!」
 周囲から聞こえてくるのは黄色い歓声にも似たきゃぴきゃぴとした声。
「いやはや、すごいですねぇ」
「総司がここまで慕われているとはありがたい限りだ」
 どこかかみ合わない山南と近藤の会話。そんな二人を相変わらずと横目に見ながら、千重は開幕ベルが響く音を聞いていた。

 さて時代は幕末。三百年、続いた幕府もついには終焉の時を迎えようとしていた。そんな時代にあえて、誠の武士を目指した集団があった。それが新選組である。
 志高く、田舎者、人斬りと云われ、鬼の副長に理不尽な仕打ちを受けようとも甘んじて耐え続ける一番組、組長沖田総司。
 そんな沖田が出逢った一人の少女。元越前福井藩士の娘、千鶴。
 だが二人は互いに一目で恋に落ちる。
『あれは幕府に仇なす娘だというのか……。なんというたかい取引なのだろう、まるで敵に与えた借りのようだ、僕の命は……』
『たった一つのわたしの恋が、たった一つの憎しみから生まれようとは! 知らないままにお顔を見るのは早すぎて、知った時にはもう遅い』
 純粋な二人は互いの身を知らずに恋に落ち、互いの身を知った時には憎しみは愛へと変わっていったのである。

 今や舞台はアイドルコンサートか! と云う状況であった。沖田が一言、斎藤が一言。原田や土方が一言科白を言うたびに黄色い歓声が上がる。勿論、それは薫や千鶴でも同じであった。千鶴の場合は数少ない男子学生限定であったが^^
 雪村八十八の娘の千鶴は行方のわからなくった父親を探し、単身男装をして京へ危険を冒してやってきた。そこでたちの新選組の副長に捕らわれた時に、氏素性のわからぬ彼女を親身になって、鬼の副長から護ったのが沖田だったのである。
『仇はあなたの、そのお名前だけ。たとえ、新選組の人でいらっしゃらなくとも、あなたにおかわりはないはずだわ』
『尊いあなた、僕は僕の名前が腹立たしい。それと云うのは、あなたの仇の名前だからです。紙にでも書いてあるのなら、そのまま破ってしまいたいくらいに……』
 密かに心を通わす二人。そこへ第一の悲劇を襲う。総司が労咳にかかってしまうのだ。性別と素性を隠して、総司の傍にいるために危険を承知で新選組に内部へと入りこむ千鶴。それは命がけの行動であった(笑)
 悲劇は続く。幼い日、千鶴の生家から双子であったばかりに遠い親戚である南雲家へと預けられていた兄の薫が二人の前に立ちはだかるのである。それも沖田の仇として……。

「ここまでは予定どおり……」
 舞台裏でこっそりと呟くのは山崎である。いま舞台では長々と千鶴と沖田の科白のやり取りがおこなわれている。
 ここで本当ならば、幕府の不利を察した沖田がせめて千鶴を逃そうと、女物の着物を彼女へ着せて、たった一度の別れのキス、ごほん! を交わすのであるが……。

『さぁ、死よ、来るなら来い、喜んで迎える! 愛おしい人のそれが望みなのなら』
『いいえ、いいえ。さぁ、いらして、愛しい人。ええ、私の大事なあなた……』
 そのまま、沖田が娘姿の千鶴をだきよせようとした時……、にやりと娘が黒い笑みを浮かべた。
『そう、このまま死出の旅立ちをしろ! 沖田総司!!』
 それは千鶴の姿に変装した南雲薫であった。千鶴そっくりな顔に艶やかな娘姿。そんな薫の姿にきゃぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!! という叫び声で体育館全体がどよめいた。
『君……。千鶴ちゃんの、ゴホッ!!』
 そのまま鮮血を吐く総司へ、薫が唇を寄せるようにして、
『お前はこのまま、妹の前で死ぬんだ!! だから向き直って、さぁ、刀を抜け』
 まるでそのまま口吸いをするかのように総司の顔に己の顔を近づけた。
「薫ちゃん、こんな楽しいこと企んでたんだね(^^♪」
 そんな薫に舞台から薫にだけ聞こえるように素早く囁くと、―――――!!!!
「きゃあぁぁぁぁぁぁ―――――♪」
「すてきぃぃいい――――――☆」
 さらに大きなどよめきが舞台全体を包みこんだ。
「きっ貴様ぁ~!!!!」
 あろうことか、沖田が薫にキスをしたのだ!!!!
 想定外、想定外、想定外!!!!
 薫の頭の中はその言葉で埋め尽くされていた^^;
―こう来たかぁ~。
 舞台の袖で頭をかかえているのは土方と原田だった。千鶴もまた舞台上で固まっている。
『そんな覚えは決してない……。むしろ僕は君の想像以上に君を愛おしく思っている』
「きゃぁああああああ!!」
『な、なんてみっともないご機嫌取りだ!』
『ああ、なんと愚かな。運命にもてあそばれる馬鹿だったな、僕は……。どうか、彼女へこの口づけを……。我が愛しの人のために伝えてほしい……』
「いやぁぁあ!」
「沖田さん、死なないでぇ!」
 まさに阿鼻叫喚とはこの事であったであろう。舞台の上では、自らが招いた事とはいえ薫は真っ白に燃え尽きていた。
 千重とつねは大笑いし、近藤と山南は苦笑を浮かべて舞台を見守っていた。
 だが、習性とは恐ろしいもの。なんとか最後まで舞台は演じられたのある(*^_^*)
 そして、しばらくの間、沖田と薫はそう言う関係なのだと近隣で噂となり、現在に至るまで薄桜学園剣道部では面白可笑しく語り継がれている。語り部は、そう、沖田総司本人である(爆)

 それから六年の年月がたった。今、千鶴の傍には夫になった左之助と一人娘の千雪がいる。あの遠い昔には想像もしていなかった風景だ。
 密かに自分が左之助に護れていたことも今は知っているし、それだけに薫に申し訳ないとも思うのである。沖田にとってあのシーンは単なるスキンシップの意味しかなかったのだろうから……。
 だから、
「ゆきちゃん、ばぁばのお写真しまいましょうね。そろそろお夕飯の支度をしなくちゃ、お手伝いしてね」
 必要以上に我が子が、兄の触れられてくない過去に興味を持たぬように、大好きなお手伝いを提案した。そろそろ支度をしなければ、夕食が遅くなる。
「はい! ゆき、おてつだいします!」
「ありがとう、ゆきちゃん」
 ほっと息をついた瞬間、ピンポーンとチャイムが鳴った。そうして、表から複数の人数が言い争っているような声が聞こえた。
「どうしたの?」
 千鶴が腰を上げる。
「ちーちゃん。変なのだったら、相手にしないのよ」
 さすがに千重も人の親。千鶴へそう釘を指すと千鶴は固い表情で頷いた。
「ばぁば、おばけ?」
 怯えた千雪が千重の手にしがみつく。
「ううん、大丈夫よ。お化けじゃないからね」
 その小さな手をしっかりと握りしめると千重が柔らかな声で囁いた。
 その時ガチャリと玄関が開いた!

「だ、か・ら~!! なんでお前たちまで来るんだよ。うちのおふくろがぎっくり腰になったくらいで!」
「わぁー、冷たいんだぁ。薫ちゃんは。千重おばさんは僕らの母親同然の人なのにさ」
「うるさーい!!」
「千重おばさんが心配だからに決まってんじゃん!」
「見舞いに来てはならんとも云われてはいないが……」
「せめて顔を見るぐらいは良いでしょう」
「薫、ここまできて往生際がわりいなぁ」
「左之の言う通りだぜ。身体が弱ってるときには心も弱くなっちまうもんだ。そんな時は人の情けが身にしみるってもんだぜ!」
「ったく。病人がいるんだから騒ぐんじゃねぇよ!」
「まぁまぁ、トシ。そう目を吊り上げずとも」
「そうよぉ、トシ君」
「そうですね。どちらかと云うとあなたの声が一番大きいと私は思いますが……」
 玄関から響く声に千鶴は、引き攣った笑みを浮かべていた。なんで、こんな時に……。
 そんな母親の様子に気がつくはずもなく、パタパタと嬉しそうに千雪が玄関へ走る。
 そうして一言。
「薫おにいちゃん、総おにいちゃん! ゆき、ちゅっ!は、ほっぺにしなきゃだめだとおもうの」
❣おしまい❣

おまけ

「だ、か・ら~!! なんでお前たちまで来るんだよ。うちのおふくろがぎっくり腰になったくらいで!」
 なんで我が家はこうも静けさから、ほど遠い所に存在しているんだ! と薫は思わすチッ! と舌打った。
「わぁー、冷たいんだぁ。薫ちゃんは。千重おばさんは僕らの母親同然の人なのにさ」
 そんな薫を弄るのは相変わらず沖田である。
「沖田、うるさい……」
 眉間の皺を一層深くして、薫が誰にも聞こえぬように口の中で呟く。
「千重おばさんが心配だからに決まってんじゃん!」
 そんな薫の様子に気づかずに続けるのは藤堂だ。
「見舞いに来てはならん、とも云われてはいないが……」
 その通り。斎藤の言い分は正しいと、薫ですら思う。だが、こんなに大勢で具合の悪い人間の見舞いに来るのはどうなんだろう。
「せめて顔を見るぐらいは良いでしょう」
 はい、はい、山崎ならそう言うだろう。そうだろう。えーえ、わかっちゃいるんだ、自分に対してこう返事が返ってくるのは、そんなことを思いながら顔を斜めにむけてヘッ! と笑いを洩らす薫であった。
「薫、ここまできて往生際がわりいなぁ」
 そんな薫へなだめ役になったように、年上の義弟が声をかける。くそう、家族関係では俺の身分上の立場は上だ! なんで貴様が俺に言い聞かせる! と薫が内心で思っていることなどは原田には駄々漏れであろう(笑)
「左之の言う通りだぜ。身体が弱ってるときには心も弱くなっちまうもんだ。そんな時は人の情けが身にしみるってもんだぜ!」
 はぁ??? 誰の心が弱くなるっていうんだ! 相手は沖田以上に天上天下唯我独尊のあの千重なのだ。身体が弱ることは、あるかもしれないが、心が弱くなることなど想像もできない。何しろ我が子に罠を仕掛けることもいとわない母親なのだ。
「おめぇらぁ!! ったく。病人がいるんだから大声出して騒ぐんじゃねぇよ!!!」
 そんなやり取りに辟易したのか、土方が大きな声を出して全員をけん制する。
「まぁまぁ、トシ。そう目を吊り上げずとも」
「そうよぉ、トシ君」
 それを制するのは近藤夫妻だ。そこに土方へ対して駄目押しとばかりに山南がこう付け加えた。
「そうですね。どちらかと云うとあなたの声が一番大きかったと私は思いますが……」
 そこへ響く愛らしいぱたぱたという足音。先に千鶴と千重に見舞いに来ている千雪であろう。皆の顔がいっせいにほころんだ。
 だが……。いつもだったら嬉しそうに皆へ挨拶をしてくる千雪が、薫と沖田の姿をじぃっーとしばし見つめると開口一番こう言い放った!
「薫おにいちゃん、総おにいちゃん! ゆき、ちゅっ!は、ほっぺにしなきゃだめだとおもうの」
「「「「「「「「「…………??????」」」」」」」」」


カット398雪村家の日常ほっぺにちゅっ


 はい…………。
 千雪さん、いまなんと仰いましたか?
 千雪の勇ましい宣言に玄関先で固まる、人、人、人…………。(一人を除く)
「千雪。薫お兄ちゃんに教えてくれるかな。誰と誰がちゅうしたって言うのかな?」
 恐ろしい記憶が走馬灯のように蘇り、恐る恐る薫が千雪へと尋ねてみる。あのことだけはこの愛らしい、可愛い、汚れなどない姪に知られたくない! いや! 知られたりしてはこの雪村薫、末代までの恥! そうだ、沖田を始めとした試衛館の連中には緘口令を強いている。あのいまいましい写真や映像も全て処分した!!、はず……。
 なのに、いまここで千雪がこんなことを言いだすなんて……。
 薫のこめかみに一筋の汗が浮かんで流れ落ちた(^^)
「薫おにいちゃんと総おにいちゃん」
 にっこりと浮かんだ千雪の笑みは天使よりも愛らしい。
 だが、いま、千雪はなんと口にした……。
 沖田と薫がちゅうしただとぉ~! あれは……!!!
 薫は思わず、ぐるりと首を廻すと、
「お~き~た~ぁ~!!!!」
 と大地を這うような声で天敵の名を呼んだ。
 その目が暗―い光を放つ。あんな、地の底までふかーい穴を掘って埋めてしまったはずの過去をいまさら掘り返すとしたらただ一人だ。
「うーん、なぁーに。薫伯父さん?」
「違-う! 俺は千雪の伯父であって、貴様のような生き物として斜めに存在している奴と血縁関係などこれっぽっちもない!!」
「えー。でもぉ、ゆきちゃんが僕のお嫁さんになってくれたら、そうなるよねぇ。ゆきちゃん、総お兄ちゃんのお嫁さんになる?」
 さらりとおぞましいことを口にすると、沖田が千雪と視線を合わせてにっこり笑いながら、そうのたまわる。
「総おにいちゃんは薫おにいちゃんとちゅうしたんでしょ。だから、ゆき、総おにいちゃんのおよめさんになれないの。おくちにちゅうできるのは、およめさんだけだから」
 意外な返答だった。ま、それ以前に日本での同性婚はまだ認められていないのだが千雪にわかろうはずもない(爆)
 後ろにはあっけにとられて、身動きできない大人たちが木偶の坊のように立ち住んでいる。
「お、おかえりなさい。ゆきちゃん、父様たちにおかえりなさいは?」
 そこへ幾分、遅れて千鶴がやってきて、あわてて皆を迎えると幼い娘へ声をかける。
「母様! あ、ゆき、わすれてた。えと、おかえりなさい、父様。薫おにいちゃん。いらっしゃいませ、近藤のじぃじ、ばぁば。としおにいちゃん、けいすけおにいちゃん、しんおにいちゃん、すすむおにいちゃん。へいおにいちゃん。それから! はじめちゃん! おかえりなさい!」
 いままでのやり取りが中途半端なままで皆に声をかける千雪。一名だけ確実に他の面子と温度差があるのは御愛嬌というところだろう(笑) 千雪はそのまま、大好きなはじめちゃんと手を繋いだのである。ここまではいつも通りということだった。
 一方、千鶴は微妙な空気に微妙な表情でこう尋ねた。
「おかえりなさい。それに母の為にいらしてくださってすいません、みなさん。それとどうなってます、いま?」
 どうしたではなくて、どうなってるとは?
 皆の目が一応に、なんだか納得、となる。勿論、若干二名を除いてだ。
「千鶴、なんでゆきがあのこと知ってんだ?」
「あ、あの、左之助さん。と、とにかくここではなんですから、上がってください」
 玄関先でわやわやと騒いでいても埒が明かない。千鶴は皆にあがって貰うように促した。
「そうだ、千鶴! それよりお義母さんの具合はどうなんだ?」
 本来なら真っ先に聞かれるべきことを原田が口にした。
「ペインクリニックでブロック注射をしてもらって楽になったみたいです」
「そっか……」
 そう、たかがぎっくり腰と云うことなかれ。時には全く別な病であることもあるのだから。
「じゃあ、千重ちゃんは寝てるのね?」
「はい、つねおばさま。それで、ゆきちゃんにいろんなお話を、してくれたんですが……」
 ぞろぞろとリビングへ移動しながら、会話は続く。心なしか千鶴の声が小さくなっていくのに、皆はそこでなにが語られたのかを察して心からため息をついたのである。
 忘れていたが、あゝ、ここにも一人トラブルメーカーが存在していたとは……。
「千鶴、俺は着替えてくるから詳しい話はその時でいいだろ」
 半眼のままで千鶴へ声をかけると、二階の自室へと向かう薫。
「うん、そうね。薫ちゃん、みんなリビングで待っているから……」
 薫へ向ける笑みが引き攣るのは母の暴走を止められなかったからだ。

 きちんと整頓された室内は薫の几帳面な性格を表していた。大きな本棚には沢山の医学書やそれらに関する参考書や辞書。堅いイメージばかりの部屋に彩りを添えているのはマホガニーでしっかりと作られた机の上に飾られた可愛い千雪と千鶴と三人で撮った写真。
 このように残すべき価値があるものは残し、遺恨があるようなものは残さぬことが薫の主義だというに……。
 あろうことか、まだあの写真が存在していようとは(-_-メ)
 千重名義の銀行の貸金庫の中だろうか、それとも別な場所か……。写真が残っているということは、あの芝居の映像データーも残っているはずだ。
「自分の息子の恥部をわざわざ掘り出しやがって~!!!」
 薫にしてはいささか乱暴にベッドの上にバッグを放り投げると、医師免許が無事に取れたあかつきには、病名をでっちあげて、千重をロボトミー化するような脳の手術をしてやりたいと切に願った!
 言うまでもないが、そんなことをすれば犯罪であろう……。が、薫の性格上、千鶴や千雪を犯罪者の血縁などと云う汚名を着せることなど出来るはずなどないので、あくまで単なる妄想である。
 そうして通学で着ている物よりはややカジュアルな服装に着替え終わると、薫は千雪の前では決してできない最上級の不機嫌な顔で階段を下りていった。

「よかったね、ゆきちゃん♪ みんなでおゆうぎした時のお話をばぁばにしてもらったんだ(^^)」
 千雪の傍でご機嫌な様子で相槌を打つのは、諸悪の根源の沖田である。その周囲にはどんよりと重苦しい空気が満ちていた。
「ゆきね、わかんないことがいっぱいあるの。たくさん、たっーくさん、ばぁばにきいたけど、ばぁばもわかんないの」
「そうなんだ」
 うん、うん、知りたいよねぇ、そうだよねぇと頷く沖田に危機感を感じて、斎藤が千雪へ声をかける。
「千雪、母様のお手伝いはしなくても良いのか」
 いま千鶴は台所で人数分のお茶を入れている。これだけの人数分を支度するのは大仕事だ。いつもならば手伝ってくれる近藤の妻であるつねは先に千重の顔を見てくると言って友人の元だ。
「あ、ゆき。おてつだいしなきゃ。総おにいちゃん、あとでね」
 小さな手を愛らしく大人たちへ振って見せると、千鶴はぱたぱたとスリッパの音を立てながら台所へと消えて行った。
「あーあ、いっちゃったぁ。一君、男の嫉妬は醜いよ~」
 へらん~とした返事を返すと、斎藤は、
「あんたはゆきに何を言うつもりだ」
と珍しく問い詰める。
「うーん。本当のこと?」
 何故、そこに疑問符がつく~! 誰もがそう突っ込みたいのをなんとか堪えた、大人である。
「本当の事とはお前が無理やり俺を襲ったことか!?」
 タイミングが悪いとはこのことだろう。薫が着替え終わり、リビングへ入ってきたのだ。
「やだなぁ、薫ちゃん。あれはお・し・ば・い、だったでしょ♪」
 わざわざスタッカートで区切りながら話す仕草に、こいつわ!!!!、と薫だけではなくこの場にいたほぼ全員がそう思った。
「お前らな、あの後始末に俺たちがどれだけえらい目にあったと思ってんだ……」
 いらいらと言葉を継いだのは土方だ。
「演出の僕に知らせないで勝手に内容を変えた方が悪いと思うんですけど」
 当時と同じ言葉が沖田から戻る。反省の色、全くなし。
 あの後、土方たち教員は学園の偉いさんから、監督不行き届きでこってりと油を絞られたのだ。あれ以来、薄桜学園剣道部はその強さではなく、別な意味で有名になってしまったのだ。いわゆる腐女子に……。
 そのイメージを払しょくするのにどれほどの尽力を尽くしたことか――――。思い出すたびに忌々しい。しかも新入生が入るたびに、当時の話を沖田がやって来ては面白可笑しく話すものだから……。
「千鶴へ無茶なことをさせようとしていたのは、お前の方だろうが!」
「えー、それ言ったら左之さんなんて千鶴ちゃんと付き合ってたのに、僕達に内緒。しかも「CMT(千鶴護り隊)」とか結成したんだよねえ。その方が問題じゃないの~」
 薫がああ言えば、沖田が原田へ向ってこう言う。
「あら、ごめんなさいね。まだ、お茶もでていないのね」
 一触即発の空気を破ったのは、つねに支えられてリビングへやってきた千重の声だ。
「こちらへ」
 斎藤らしい心遣いで座りやすく立ちやすい位置を譲る。そこに時間をかけてゆっくりと千重は腰掛けた。千重がつかまるつねへ手を貸して千重を座らせるのは原田だ。実の息子である薫はジトリとうらみがましい目つきでそんな母の姿を見つめていた。
「大丈夫ですか、お義母さん」
「ありがとう、左之助君。斎藤くんも……。痛み止めは利いてるんだけど、やっぱり立ったり座ったりはね」
「あんなものを千雪へ見せられるんです。大丈夫でしょう」
 スパっ! と言いきった薫の頭に土方の拳が落ちる。
「て……。何するんですか! 土方先生」
「あの件とおふくろさんのぎっくり腰は別だろう! 勘違いすんな!」
「…………」
 土方へだんまりを決め込むとひりひりと痛む頭をさする。そうして薫は千雪と千鶴に姿がないだけに不機嫌な顔つきのままで千重に詰め寄った。
「とにかく、あの写真、処分しますから僕に渡してください。データーが入ったメモリは貸金庫の中ですか? それとも誰かに渡してるんですか、それも全部処分しますから」
「やーよ!」
「おかあさん!」
「ママでしょ、薫ちゃん。我が子の成長の記録を捨てろってそんな酷いことを言うのね、ママ、どこで育て方を間違っちゃったのかしら。ちーちゃんはあんなに素直に育ったのに、うう(T_T)」
 あなたに育てられたから、こうなったんですよ! 千雪がいるために叫ぶことも出来ずに、薫は落ちつくために一息ついた。
「わかりましたから、ともかく渡してください。今後は僕が管理します」
「い・や!」
 こんのぉ~! と内心で地団駄を踏みながらそれでも以前よりは幾分柔らかくなったと薫だけは思っている口調で、
「いいですか、あの写真は言わば個人情報です。それをむやみにあちこちに晒さないください。僕はともかく、千鶴が心配ですし、千鶴から千雪へ危険が及んだらいけないでしょう」
 と続ける。ここまで来たら無茶も道理だ。六年も前の写真からいろいろ調べ上げるのは困難とも思えるし、千雪が千鶴の娘だということなどこの写真からはわかるはずもないだろう。
「えー、こんなにいい(面白い)写真なのにぃ」
「ですから、千雪に何かあったからは遅いと言ってるんですよ!」
 なにが絡まりこんな話に変化したのやら、いまでは問題がすり変わろうとしている。
「だって薫ちゃん。捨てる気だもの。ゆきちゃんもこのお写真、気に入ってるのにぃ」
 はい……。気に入ってるとはどういうことだ。薫は頭を抱えたくなった。いったい俺がなにをした。(いや、いろいろ暗躍してるでしょ)この実習が続く、くそ忙しい時にわが母に何が悲しくて、自分の息子をこんな目にあわされるのか~。
「薫おにいちゃん、ばぁばをいじめちゃ、めっ! なの」
 タイミングが悪いとはこのことだろう。千雪が千鶴と共に茶を淹れ終わり、小さなお盆にクッキーを山にして戻ってきたのだ。
「いや、これは……」
「ばぁば、あのお写真大好きなのに、薫おにいちゃんは見ちゃ駄目っていうの。ゆきちゃん、大人げないでしょう」
 千重が大人げなく千雪へ訴えかける。そんな千重を守るようにして、千雪は薫へ一言。
「薫おにいちゃん。おとなげないと、ゆき、おもう」
 それは最大級の爆弾であった^^;
「ちょ、ゆきちゃん、それは……」
 慌てふためいて千鶴が薫と千雪の間にわり込もうとする。いまや、沖田を除いてはこの件に口を出すものはないだろう^_^;
「お、大人げない……」
 薫は打ちのめされていた。恥ずかしい過去を暴かれ、挙句の果てに溺愛している姪から大人げないとは……。
「俺……、寝る。このまま永眠したい……」
 ふらふらと薫がリビングを去っていく。その後ろ姿を見つめる大人たちの瞳には憐憫の光が満ち溢れていた。
 そこへ、
「総おにいちゃん。薫おにいちゃんとちゅっしたんだから、総おにちゃんは薫おにいちゃんといっしょにいないとだめなの!」
 天からの声のように千雪の言葉が響いた。
 終始ご機嫌だった沖田が千雪のその一言で固まった。
「え、え、え…………」
 助けを求めて周囲を見渡せど、気の毒そうな顔している千鶴と訳がわからないと言った様子の近藤以外は、全員が顔を真っ赤にして笑いを堪えている。
「ゆ、ゆきちゃん……?」
 縋りつくようにその名を呼べば、
「総おにいちゃん。ゆき、ちゃんとしってるよ。およめさんとおむこさんになれるくらいなかよしさんのおとなだけがおくちにちゅうできるって。ねぇ、父様」
 にこにこと原田へ間違っていないよねぇと再度駄目だしをされる。
 原田は笑いだすのを必死に堪えて、涙眼で頷くだけだ。
「…………」
 なんでこーなった!
 おかしい、いつもだったらこんな目にあうのは薫だけのはず~。
「総司。早く薫の元へ行ってやれ」
 冷静に千雪の言葉に反応したのは斎藤だった。
「ゆきが心配をする」
 そう、ここにも一人、千雪至上主義者がいた。
「うん、そうだね。僕は、薫ちゃんのおよめさんじゃないけど……」
 今は薫と心からわかりあえる気がする沖田であった。

 しばしリビングではクッキーをぽしぽしと食べる音だけが支配していた。二階ではどのように折り合いがついたのだか、沈黙が続いていた。静かすぎるというのもまた。
 そんな時、斎藤が思いついたように千雪へ尋ねた。
「ゆき。先程、わからぬと言っていたのはどのようなことだ」
 その一言に千雪がはっ! と反応する。
「はじめちゃん、どうして母様はおひめさまの役だったのに、おとこのこのおきものきていたの? 薫おにいちゃんはどうして、おとこのこなのに、おひめさまのおきものきていたの? それに総おにいちゃんと薫おにいちゃんはまだおとなじゃないのにちゅうできたの?」
 そんなかわいらしい千雪の問いに大人たちは笑いながら、懐かしい思い出話を始めたのであった。

 それはこんな風に始まった。
 雪が舞う季節の前、、もみじが風とダンスをする季節におこなわれた祭りでのこと。
 まだ彼らが若くて、無謀でいられた時代。毎日が楽しくて、どきどきした日々の物語だった。
 いつかは千雪も経験するはずの……。
❣終❣

  1. 2014/01/07(火) 11:46:50|
  2. Kissシリーズ
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コメント

香住→ロカ様

ロカ様、お帰りなさい(^^)
すごいですね。あのイラストを現代版になさるなんて。背景を作った平助くんには全力で拍手です!ちょこちょこ記号が可愛らしくてときめいてました。ハートだvV
  1. 2014/01/07(火) 18:31:59 |
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  3. 香西香住 #Na//oj5c
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香住様、ありがとうございます。

香住様、只今戻りました(^^) けっこう記号も考えて選びました。気がついていただいて嬉しいです。

コメントをありがとうございます。もうこのイラスト見させていただいて、そく思い浮かんだのがこれでした^^;

これしか浮かばなかったというか、スクールライフを書きたかったんです。そして文化祭はその花! それでこの話になりました。
平ちゃんはきっと井上建設でバイトしてるはずだから大工仕事がうまいんです(こじつけ)

読んでくださってありがとうございます。

ちょこさん、改めてゆきちゃんの悪意なき指摘のイラストが素敵すぎます。ありがとうございました(^^)
  1. 2014/01/07(火) 19:15:41 |
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  3. ロカ #-
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