皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「大切な記憶」

今回はお初のアルマさんから頂いた、千鶴と薫の兄妹キスのSSです。


沖田√以外では影の薄い、というか、ほぼ出てこない薫―――他の√ではどんな道を辿ったんでしょうか。
誰かのEND後に、こういう事があったとしたら、それはそれで薫にとってはひとつの救いかもですね。
この記憶を持って、二人が穏やかな気持ちで再会できる“another”な未来があるといいんですが―――


ではそんなほっこりする兄妹のキスを、続きからどうぞ^^


挿絵は感謝を込めてアルマさんに進呈します。
他の方はご遠慮下さいね。



大切な記憶TAISETSU NA KIOKU



斎藤と共に斗南の地へやって来て、最初の冬が過ぎ去ってゆく。
福寿草が咲いて、ふきのとうを見かけるようになって。
「もうすぐ春」と思いながら過ごしていたら……いつの間にか桜が咲き、そして静かに散っていった。その様子に今は亡き新選組の仲間達に思いを馳せる。

暖かくなってきたから少しその辺を散策しよう、と誘われて、千鶴は斎藤と共に外へ出た。
まだまだ空気はひんやりしているものの、陽のあたる場所に出れば暖かい。
千鶴は空を見上げる。
うすく靄がかかったような、薄い布で何かをふんわりと包み込むような、それでいてちゃんと空の青さも分かるような雲が広がっている。その視線をゆっくり下ろしていくと、山が見えた。頂上を白く覆っていた雪はもう融けているが、まだ解けきれてないそれが蒼く見える山に白い模様となって浮き上がっていた。
「……」
何かが、千鶴の記憶に引っ掛かる。既視感、だろうか。――そう思い、懸命に記憶をたどってみるけれど、関係ありそうなものが浮かんでこない。
気のせいだろうかと小さく息を吐いて足下を見れば、鼓草(つづみぐさ)が黄色い花を咲かせていた。
(そう言えば子供の頃、よく摘んで遊んだっけ)
懐かしさに思わず手を伸ばしたその時、不意に千鶴の記憶が動き出す――。




***




雪村の里にようやく訪れた春。大地を覆っていた雪が消えれば、一気に暖かさが増してくる。
その日は「春」と呼ぶには少し暑く、初夏に近い気候だった。里の子供達は外遊びに忙しく、野山をあちこちと駆け回ってはしゃいでいる。
なのに――二人だけ、様子が違った。明らかにしょんぼりした様子で頭を垂れてとぼとぼと歩いている。一人は男の子。もう一人は女の子。二人の背は同じくらいだが、男の子の方が大人の握りこぶし一つ分くらい高い。
「……く……ひっく、っく……」
堪え切れなくなったのか、女の子の方がべそをかき出した。必死に涙を止めようとしているのだが、少女の大きな瞳には収まり切らず頬を伝ってぽとぽとと地面を濡らす。
「……ちづる、泣くなよ」
一緒に歩いていた男の子が足を止めると、泣いていた女の子も歩みを止めた。
「だって、……にいさまは、悪く…ないの、に……」
と言って、千鶴はとうとう泣き出してしまう。
「ごめんなさい、にいさま。……ちづるのせい、で……」
「何言ってんだよ、ちづるはちっとも悪くない」
しゃくり上げる妹の背を、兄――薫がなだめるようにそっと、軽くぽんぽんとたたく。
「……悪いのはとうさまだ」
その時の事を思い出せば、薫の顔に怒りの色が滲む。


「とうさまー!かあさまー!」
千鶴が目をきらきらと輝かせて家に飛び込んで来る。
真っ先に向かったのは台所だ。そこでよく母はいろんな料理やおやつを作ってくれる。
「かあさまー、これ……」
持っていた物を見せようと片手を高く上げた千鶴だった。が、母の姿が見えない。
「あれ?かあさま……?」
千鶴は棚の上を覗いたり台の下に屈んでみたりしながら捜したが、やっぱり母はいなかった。
「見つけたからいっぱい取ってきたのに……」
左手にしっかり握った土筆(つくし)と鼓草(つづみぐさ)の束を見ながら、少女は残念そうに呟く。どちらも食べられると聞いて、母に何か作ってもらおうと思ったのだ。
「でもちづるは何もつくれないし……」
手に持ったそれをどうしようかと考えて……次に千鶴は父の仕事場めがけて駆け出した。
もしかしたらそこに母がお茶を持っていったのかも知れない。いなかったとしても父は必ずいるはずだ。父に聞けば、母がどこにいるか分かるだろう。
「とうさまー!」
部屋に飛び込んだ千鶴の足がぴたりと止まる。
父の姿もここにはなかった。が、そんなことを忘れさせるようなことがそこにはあった。
「うわぁ……なーに、これ。ごみが散らかってる」
仕事部屋を眺めて少女は唖然とする。枯れた葉っぱが沢山、床に一杯散らばっていたのだ。

「どうしたんだろう?こんなに散らかして……」
普段は片付けないと怒るくせに、と千鶴は口を尖らせる。が、次の瞬間、別の考えが浮かんだ。
(もしかしてとうさま、忙しくておかたづけできないのかな?だったら手伝ったほうがいいよね)
小さな千鶴はそう考え、持っていた土筆と鼓草を父の机の上に置くと枯れた葉っぱを集め出した。そこへ別の遊び場から帰って来た薫がひょっこり顔を出してくる。
「ちづる、何やってんの?」
「あ、にいさまも手伝って。今おかたづけしてるの」
「おかたずけ?」
「うん!おへやをきれいにしたら、とうさま、よろこぶよ」
「……そうだね」
そうして二人は仲良く父の仕事場に散らばる大量の葉っぱを取り除いた。片付いた部屋を見回して父の喜ぶ顔を思い浮かべれば、幼い兄妹は自然と顔を見合わせ、微笑み合う。

ところが―――。

すっかり綺麗になった部屋を見た父親は愕然とし、
「何てことをしてくれたんだ!!」
と怒ってしまったのだ。
その時の顔がすごく怖くて、千鶴は泣きたくなってしまった。


「……ちづるはぜったい悪くない!!」
幼い妹を慰めるというよりは、父の横暴が許せないといった口調で薫が言う。
「でも……じゃあどうしてとうさまは怒ったの?」
「そんなの知るもんか!」
ようやく落ち着いたらしい妹の疑問に、兄は口を尖らせる。
薫だって考えてみた。でもいくら考えたってわからない。だから父様の方がおかしいのだ。
そうでなきゃこっちが悪いことになってしまう。
けれど、薫の投げやりな答え方にまた千鶴の目が潤みだした。
「ああ、もう、泣くなよー!」
ひくひくとしゃくり上げる妹に、薫はほとほと困ってしまった。辺りには今は誰もいないけれど、もしこんな所を誰かに見られたら薫が千鶴を苛めてると勘違いされそうだ。……いや、別にそれは構わないのだけれど、このまま妹に落ち込まれっぱなしは辛い。かなり辛い。
どうしたらいいだろうと考えて  ああ、そうだと思い出す。薫が家に戻って来たのはそれを千鶴に教えてやるのが目的だったのだ。
「ちづる、おれ、今日いい場所見つけたんだ。これから連れていってやるから泣きやむんだぞ」
「いい場所?」
兄の言葉に千鶴が顔を上げる。ほぼ同時に薫は妹の手を取った。そしてその手を引きながらすたすたと歩き出したのだ。


広葉樹が並ぶ林を二人で黙々と歩く。
「ねえ、にいさま……どこ行くの?」
「いいからいいから」
妹の手をしっかり握って、薫はずんずん歩いて行く。
何回聞いても答えは同じ。だから千鶴は聞くのを諦めて、兄に引かれるままについていく。

すると  林を抜けた瞬間、急に視界が広がった。

「わ…あ――っ……!!」

まだ所々に残雪の残る会津富士を背景に、一面に広がる沢山の花々。黄色や橙、白い花で辺りが埋め尽くされている。そよ風にゆらゆらと揺れる姿は、まるで春の訪れを喜んで舞っているように見えた。
夢のような風景に少女は茫然と立ち尽くす。けれど徐々にその顔が笑みで満たされていくと、両腕を広げながら嬉しそうに花園へ飛び込んでいく。
「にいさま、すごい!お花、いっぱい!」
「だろ?」
「ねえ、ここであそんでいい?ちづる、お花たくさんつみたい!」
「もちろん!」
薫が頷くと、千鶴は満面の笑みを浮かべて駆けていく。
(……よかった)
ようやく笑ってくれた妹の後ろ姿を見守りながら、薫はほっと息を吐く。千鶴は真剣な目で花を一つ一つ見比べながら、気に入ったものを丁寧に摘み取っていった。そうして両腕に抱える程の摘んだ花を持って、千鶴はその場に座り込む。
「……?」
花に花を絡ませて何かを作っているようだが、薫にはそれが何だか分からない。疑問に思った兄がその手元を覗くと、
「にいさま、見ちゃダメ!あっち行ってて!」
と言って、自分も兄に背を向けてしまった。
「ちぇっ、なんだよ!」
せっかくここに連れて来たのにそんな態度を取られるなんて、薫には納得できない。かと言って妹を放っとくわけにもいかず。
「……しょうがないな」
少女の手元が見えない場所まで下がって、そこから妹を見守ることにした。その間、妹はやけに楽しそうに手を動かしていたらしい。鼻歌でも歌っているのか、身体が規則正しく揺れている。
辺りを通りすぎる風は柔らかく、心地良い。千鶴を見守っているうちに、薫はいつの間にかうとうとしていた。

「できた!!」

嬉しそうに叫ぶ妹の声に薫は目を覚ます。見ると千鶴がこちらに向かって駆けてきた。
「はい、にいさま」
ぽん、と何かを頭に載せられる。手に取ってそれを見ると、薫は茫然としてしまった。それは黄色い花で作られた輪っかのようなのだが……。
「それ、花かんむりっていうんだって。近所のおねえさんがおしえてくれたの。きれいでしょ?」
(きれいでしょ、って言われてもなぁ……)
花なんかつけたって嬉しくとも何ともない。それどころかみっともない。男なのに花なんか頭に飾ったら、絶対友達に馬鹿にされる。からかわれるに決まってる。
……だけど。
「にいさまがこの場所をおしえてくれたお礼にあげる」
なんてことを言われたら、無下に突っ返すなんて出来やしない。それよりも何よりも、そんなふうに思ってくれた妹の心が嬉しくて。
「じゃあ、これは花かんむりのお礼。ちづるにおまじないをかけてあげる」
薫はそう言って――願いを込めて千鶴の額にそっと口付けた。心やさしい妹がずっとずっと幸せでいられますように、と……。

カット313b





***





「……千鶴、どうした?」
鼓草を見つめたまま動かなくなった妻に斎藤が声を掛ける。すると千鶴は我に返り、夫に目を向けた。
「子供の頃の事を思い出しました。……兄の……薫との思い出です」
そう言う妻の瞳は少し悲しげで――だから斎藤は問うた。
「それはいい思い出か?それとも……」
「いい思い出です、とても……」
「……そうか」
それ以上、斎藤は尋ねなかった。ただ静かに微笑んでくれたから、千鶴も安心して微笑む事ができた。
千鶴はもう一度山々に目を向ける。


カット348大切な記憶


あの後――父の花冠も作って家に帰った。それを持って謝れば、きっと父は許してくれるだろうと思ったから。
薫は「謝ることなんかない、悪いのは父様だ」と言い張っていたけれど、けっきょく花冠を作るのに協力してくれた。何もしないでは帰りにくかったから。
けれど……父は門の前で千鶴達の帰りを待っていた。そして怒鳴ってしまったことを謝ってくれた。千鶴がお詫びのつもりで持って来た花冠を見た時、父は複雑そうに顔を顰めて笑っていたっけ……。
後で聞いた話では、千鶴が『ごみ』と思って捨てた葉っぱが実は薬草で、十分乾燥したそれを粉末状にして他の薬と調合するつもりだったのだという。


――お前は悪くない。悪いのはそれを放って出掛けてしまった私なのだ。


あの時父はそう言ったけれど――それから数日後に里が襲われた事を考えると、きっと片付ける余裕もない出来事がその日に起こったのだろう。
あの惨劇は今でも思い出すたびに胸が苦しくなる。まだまだ冷静ではいられない。それでも――幸せだった記憶を取り戻すことが出来たことが千鶴は嬉しかった。

(…………兄様)
彼方にいる薫に心の中で声をかける。
(……忘れてしまってごめんなさい。でも大切な思い出、取り戻しました)
額にそっと触れる。薫がかけてくれたおまじないを思い、自然と笑みがこぼれる。
あの場所は今も残っているだろうか?
あの時と同じように色とりどりの花が咲き乱れているだろうか?
確かめてみたいと思うけれど――そうするのが少し怖い気もする。だから今は、取り戻した記憶を大切にしたいと思う。
千鶴は空を見上げる。その向こうに薫がいるような気がして。
(ありがとう、兄様。私はとても幸せです)
この思いが薫に届くように祈ると、千鶴は斎藤と共に歩き出した。


  1. 2013/09/29(日) 00:02:12|
  2. Kissシリーズ
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