皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「前夜」

Ginger-Leaf」のたってぃさんから、風間×千姫キス絵にSSを頂きました。


いつも、たってぃさんの発想には驚かされていますが
今回はお読みになる前に注意喚起しておきます。

今作は死ネタの上、千鶴ちゃんがひどい目にあいます。
たってぃさんの持ち味の作風なんですが、後味が悪い話が駄目な人は充分に注意をして下さいね。

読まれる方は、そこら辺を了解の上で続きからどうぞ。


挿絵は感謝を込めてたってぃさんへ進呈します。
他の方はご遠慮下さいね。


前夜



 雪村千鶴が自刃した。
 その報せを受けて以来、風間千景の紅瞳には生気も覇気も失せて、変わりに獰猛で陰鬱な怒りの影が落ちた。
 今、こうして隣で酒を啜っているが、風間の全身から立ち上る怒気に千姫は歯を食いしばって耐える。
「ねぇ、明日は本当に出席するんでしょうね?」
 千姫は内心の心情を悟らせないように、きつい口調で言う。
 明日は、西の風間と京の八瀬姫(千姫の事)の婚姻式であり、全国に散った鬼の一族を束ねる長達が京の――この八瀬の館に一同に会するのだ。
 頭領としての自覚はあるが、周囲に及ぼす影響を意識しないこの男は、土壇場で退場することもあり得た。
 あぁ。もしかしたら、茶番だと言って式自体を中止し、内々で済ますこともあり得るかもしれない。
 千姫は苛立つ。この式は、全国の鬼達に団結を呼びかける上で必要なものなのだ。人間の手に及ばない所へ移住する。それが、どれほど大変なものなのか、分かっている筈だ。
「愚問だな」
 対する風間は言葉少なに酒を呷る。
 どこか虚ろな目線は、広間に飾られている花嫁衣装の内掛に定まり、自嘲気味なため息が風間の口から零れる。
 頭がキリキリ痛い。女の矜持を傷つけられた事もあるが、自分の無力さに無性に腹が立つ。
 ねぇ、千鶴ちゃん。私、悔しいよ。

 雪村綱道は最後、鬼側に大きな置き土産を残していた。
 変若水。風間が言うには、変若水を服用した綱道は鬼の姿を現したという。
 研究者が研究途中の薬を服用する事はありえない。
 つまり、一定の成果が上がったからこそ変若水を服用したのだ。
 変若水が鬼本来の姿を引き出せるほどの一定の成果。そこから、わかるのが鬼側の協力者だ。
 研究に協力したとされる南雲家を筆頭に鬼の一族をあれから粛清したが、鬼達に広がった変若水の情報が火種になった。
 刺激される劣等感。固定概念が覆される恐怖心。血筋頼りの統治に対する反発と噴怒。
 噴き上がった負の感情の矛先は千鶴に向けられた。
 人間側の世界で行き場をなくした千鶴は、千姫の侍女(雪村家の直系であるのだから適切な待遇だ)の一人として迎えられて多忙な日々を過ごしていた。
 それ故に、他の鬼と接触する機会が多かったのが災いしたのだ。
 雪村家の頭領でありながら家臣の暴走を止められず、のうのうと八瀬姫の寵愛を得て安穏を貪る女鬼。
 千姫と風間の預かり知らぬ所で千鶴は虐げられた。彼女の中では、耐えて千姫の仕事を補佐する事が罪滅ぼしに繋がると思ったのだろう。
 そんな所へ、明治政府からの『雪村千鶴の引き渡し』要請が下った。
 旧幕府の醜聞と悪政を盾に、自分達の正当性を主張してきた明治政府は、素人同志の集まりの悲しさかすぐに手詰まりとなった。
 持ちあがる旧幕臣たちの登用。だが、権力を手にした者は、自分達の無能を棚上げに、幕府の新たな醜聞を掘り起こして幕臣たちの登用を握りつぶそうと画策した。そう、綱道が失踪した後も続けられた変若水研究――新選組の暗部だった。
 雪村千鶴が新選組と行動を共にしている事は、松本良順からの確認もとれていた。
 召集目的を知った千鶴は蒼褪める。あれから、風の便りに幹部達の何人かが生き残った事、隊士達の何人かは過去を偽り平穏に暮らしている事を知っている千鶴は、自分の存在が彼らの生活を脅かす可能性に絶望した。
 彼等が血を吐く想いで闘い続け、どんな想いで生き残ったのか、――考えただけで、胸が締め付けられる。
 鬼達は当然揉めた。移住計画を悟らせないよう、事を荒立てたくない家臣たちの反発は尋常ではなく、流石の千姫もそして風間も折れる一歩手前だったと言って良い。

 そんな中、満月の夜に千鶴は自刃した。
 嘗て住んでいた江戸の診療所に、誰も近づかない様に火を放ち、小通連で割腹して果てたと聞いた。
「なぜだっ。天霧っ! なぜ、止めなかったっ!!!」
「彼女の意思は固く。悔しいですが、事を穏便の収めるには、それが一番だと私も思ったからです」
 千鶴の護衛についていた筈の天霧は、視線をそらさず風間に申し開く。そこにあるのは、風間家家臣の顔ではなく、天霧家当主の顔。自分の決断で、多くの命が左右される事を知っている顔だった。
「遺体は明治政府に引き渡しました。検死と然るべき手続きを踏んだのち、彼らの気が済めば返還も叶うでしょう」
 淡々と報告する君菊は、まるで能面の様に表情をなくし感情を押し殺している事が窺えた。
「…弔うのも、あんな奴等の胸三寸に左右されるわけ? ふざけないでよっ!」
 納得しつつも千姫は噛みつく。
 場はざわめき、居合わせた古老たちの誰かが衝撃の余りに頭領達の前で零した。
「あぁ、厄介者が居なくなった」と。
 途端に、風間は無言で立ちあがる。
「ちょっと、どこ行くのよっ!」
「この状態では話にならん。お前も来い。部屋で飲み直す」
 そう言って、無理矢理千姫の手を引き広間を出る。
「改めての会合は後日。部屋を用意しますので、しばらくこの広間で御持ちを」
 主人の背中を見送った君菊は来賓達に詫び、主人に変わり頭を下げる天霧。
「はぁーあ。気分悪いから、俺も飲み直すぜ~」
 そう言って、席を立つ不知火。
 頭領格が部屋を辞して、沈黙が落ちる広間。
 次の瞬間、弾けたように場がどよめき出す。
「まったく、やっと死んだか。これで、頭痛の種が減ったものよ」
「翁(おきな)は寂しいんじゃないですか? イビリ倒す相手が居なくなって」
「ふん。面白くない。何度も張り倒して馬の様に引きづり回しても、しつこく立ちあがってきたというのにな」
「あれは、衝撃的でしたね。てっきり、風間のお手付きかと思って皆で襲ったら生娘だったのですから」
「綱道が馬鹿なことしなければ、孕み腹として可愛がってあげたのに」
「見ていて一番肝が冷えたのは女の嫉妬ですな。侍女長が、千鶴さんを…」
 場に残った者は口が軽くなり、さも一人の女性を虐げた事実を武勇譚として語る。
 廊下で、頭領格が聞き耳を立てているのも知らずに。

カット347前夜

「なにこれ…」
 千姫は眩暈を感じた。顔なじみである彼等が、まるで知らない鬼のように見えた。
「………」
 風間は悔しげに全身を震わせて、奥歯を噛む。
 わざと場から離れて相手の本音を探る。薩摩の密使として働いた時に覚えた駆け引きだった。
「あぁ、厄介者が居なくなった」と。誰かがこぼした時、そこから引き出せる情報があると踏んだが、予想以上の醜い会話に腸(はらわた)が煮えくりかえる。
「ねぇ。お菊は知っていたの? 千鶴ちゃんの状況を…」
「申し訳ございません、まさか、これほどまでとは思いませんでした」
「彼女を責めないでください。侍女長も共謀していたとしたら、雪村君が訴える以外に知ることが出来なかったでしょう」
「胸糞悪いぜ。これじゃあ、アイツは鬼と人間から殺されたようなもんだろ」
 鬼と人間から。
 不知火の言葉に千姫は硬直する。鬼との生活で不慣れな千鶴を、自分が一番気に掛けないといけなかったのに。


「天霧に訊いたのだ。アレが満月の日を選んだのは、奴等と出会ったのは満月の夜だったからだと」
 疲れた顔で風間は酒を飲む。
「見事な切腹だったらしいが。これは、なんの皮肉だと言うのだ? 近藤は斬首。土方は討ち死に。沖田は病死で藤堂は灰に。永倉、斎藤、原田は死に損なって、関係者の中で武士らしい死を賜ったのは千鶴だけだぞ」
 風間は嘆く。西国を統べる風間。東国を統べていた雪村。風間の生きて来た中で、初めで出会った同格の存在。新選組の最期を見届けに北の果てまで続いた旅で、風間と千鶴との間に愛情に近い絆が結ばれたのは確かだ。
 喪失の痛みは千姫の比ではないのかもしれない。
「そういえば、明日は満月だったな」
「っ!」
 千姫は息をのむ。風間の紅瞳が金味を帯び凶暴な煌めきを宿したからだ。
 この時千姫は、風間の考えている事が我が事のようにわかった。
 明日の婚姻式は、この前開かれた会合の倍以上の来賓が予想される。そして、その中には千鶴を虐げて侮辱した鬼も含まれている。
 そいつらを全員殺して自分も死ぬ。
 遺された鬼は路頭に迷うだろう。だが、そんな事は知った事ではないのだ。
 風間は絶望していた。こんな奴等を束ねて導かないといけない立場に。大切なものを守れなかった自分に。
「お前も、千鶴に会いたいだろ?」
 決定打だった。
 千姫は咄嗟に風間の黒羽織を引き寄せて、まるで殴り付けるかのように口付ける。
 分厚い唇の感触と酒の香りのせいか、千姫は己の体温があがっていくのを感じる。
 虚をつかれた風間は目を白黒させた。

カット300

「現実を見なさいっ。風間千景っ! 明日の式は延期よ。その間、せいぜい頭を冷やしなさい」
 千姫の鳶色の瞳から涙が零れる。
 中止ではなく延期。日本中の鬼を統べる八瀬姫の決定には相応の重みと責任がある。それが、風間家と双方の決定だと言うならば尚更。
 千鶴に虐げたもの達には、感情に流されず相応の粛正をする。
 少なくとも千鶴は、風間が行う血の粛清と後の混乱を望む筈がないから。
 逃げるように部屋を出て、追って来る気配のない風間に対し、安堵すると同時に悲しい気分になる。
 唇に指を当て、指先に感じる酒の残り香がとても虚しく、言いようのない切なさが胸を占める。
『お前も、千鶴に会いたいだろ?』
 あぁ、会いたいわよ。生まれて初めてできた友達だもの。
 千姫は自室にこもり声をあげて泣いた。
 そして、目が覚めたら即君菊に式を延期することを伝えようと考えて眠りに就いた。



  1. 2013/09/28(土) 23:03:07|
  2. Kissシリーズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:5
<<「大切な記憶」 | ホーム | すっかり秋ですねえ>>

コメント

イラストありがとうございますっ!

 こんにちは、たってぃです。ちょこさんのイラストの再現率に、今、鳥肌が立っています。
 表情の見えない風間に、表情が見えないからこその感情が、ひしひしと伝わってきました。
 ここは重要な場面でしたが、文章で表現できなかった部分が、ちょこさんのイラストのおかげで明確な輪郭が与えられた感じがします。
 クオリティの高いイラストを、本当にありがとうございました。
 
 
  1. 2013/09/29(日) 11:40:06 |
  2. URL |
  3. たってぃ #-
  4. [ 編集 ]

たってぃ様へ

こんにちは!すっかり秋らしくなってきましたがお変わりありませんか?

これ、快心!?の作ですね。精神的には18禁にしたい内容(青少年の心理にはチト厳しいという意味で)ともいえますが(笑)
後味悪いっちゃあ悪いんですけど、あのキスイラからこんな話をよくぞ書いてくれました!と感心しきりです。
最初にこのイラストを見たときの私の呟きは「風間、いい加減大人になりなさい!」という千姫のセリフ。
そんな程度の発想しか思い浮かびませんでした。
だから、たってぃさんの発想の面白さに今回も乾杯(ノックダウン)です。

たってぃさんの一連の創作(サイト分も含め)は、乙女の世界とはいえ、
現実的な視点を持てばチラと脳裏に浮かぶ疑問や不満を上手にすくい取って形にする才能が溢れていると思いました。
こんな風に発想してみたいし、書いてみたいなあと思える書き手さんです。
  1. 2013/09/29(日) 12:22:24 |
  2. URL |
  3. 酔狂 #-
  4. [ 編集 ]

ご感想ありがとうございます。

酔狂元乙女さん、ご感想ありがとうございます。
私がこのイラストを見て、一番気になった所は千姫が(まるで、捨て身)体全体でぶつかっている所だったのです。
体ごとぶつけるように、風間に口付けをする千姫と。まるで、心此処にあらずな状態な風間。
彼女の訴えたい事はなんだったのか。と、そうしているうちに、できたのがこの話だったりします。千鶴ちゃんごめん。

他の作品の御感想もありがとうございます。
ただ、私得に特化しすぎてニーズに応えきれるかというのが欠点だと、自己分析したりします。酔狂元乙女さんの作品の描写は丁寧で、キャラクターの使い方や発想がうまいと感じました。そんな、方にお誉め頂いて光栄です。
一気に寒くなりましたが、御体にお気をつけて。
  1. 2013/09/29(日) 13:55:11 |
  2. URL |
  3. たってぃ #-
  4. [ 編集 ]

たってぃ様♪

ああ、メールもあわせて色々と嬉しいお言葉、ありがとうございますっ!
考えてみると、鬼の皆さんが一同に会しているのを描くのは始めてだったかもw
気に入ってもらえてほっとしてます^^
次回はちょっと、ギャグっぽくちびキャラになるかも…大丈夫でしょうか?
  1. 2013/09/29(日) 22:08:24 |
  2. URL |
  3. ちょこ #-
  4. [ 編集 ]

>ちょこ様へ
いえいえ、こちらこそです。
ちびキャラ大丈夫ですよ。確かに、冷静な第三者がみたら、土方が助けてもらえない状況は、ちびキャラで描いた方が和むかもしれません。
宜しくお願い致します。

>酔狂元乙女さんへ
すみません。「そんな、方に」ではなく、御方でした。誤字ってしまって申し訳ございません(汗)
  1. 2013/09/30(月) 19:51:59 |
  2. URL |
  3. たってぃ #EGJcd8Ww
  4. [ 編集 ]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://kougethuan.blog.fc2.com/tb.php/458-ef41c64d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)