皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「これはまだ、始まりの距離。」

今回もお初の方―――緋鷺さんから
風姫キスSSを頂きました♪


前回の碧さんの風姫SSと、シーンが同じなので必然的に流れも似通っているのは当たり前なのですが、
やっぱり書く人によってキャラクターの味って変わるもんですね!
改めて感心しました。
こちらの二人は、まだ青く可愛い感じがするのですが、どうでしょう^^
風間も千姫相手だと、真面目に(←)ケンカしそうだしwww

たわいないケンカをしつつ、実は仲がいいカップルって大好きです♪
そこへ至る二人の『始まり』の物語―――続きからどうぞ♪


挿絵は感謝を込めて緋鷺さんへ進呈します。
他の方はご遠慮下さいね。



これはまだ、始まりの距離。



陶作りの盃は白く滑らかな光沢を持っていた。軽く傾けると、透明な液体が淡い光をゆらめかせる。
立ち昇る酒の香気に、風間は切れ長の眼を細くした。
鬼の頭領は酒にはこだわりがあった。質もさることながら、一人で、己れだけの時間を持って楽しむのが彼の流儀である。
そして、その楽しみを邪魔されるのは、すこぶる不愉快なことだ。
手元の酒盃に口をつける前に、風間はその《邪魔もの》に瞳を据えた。

「――何の用があって来た、八瀬の姫」
気だるげな声音は低く艶がある。が、いささかうんざりとした響きがあった。
「俺は見ての通り、酒を楽しんでいる。酌もできん女がいたところで、邪魔なだけだ」
邪魔、とはっきり言葉にされて、鈴鹿御前の末裔たる鬼の姫君は、眉の形でくっきりと憤慨を表した。
「あのね、言っておくけど、あんたが居座っている座敷も八瀬が用意したもの、呑んでいる酒もこっちが用意したものなんですからね?」

――そこまでさせておいて当人を邪魔もの扱いとは、図々しいにもほどがある。

きっぱり言い切った千姫を、風間は面白くなさそうに一瞥する。
西国の鬼の頭領たる己れに、ここまで強気な態度。それを面白いと言ったのは自分だが、今この時にそれを発揮されても、少しも面白くない。

「俺は何をしに来た、と聞いたはずだが。――第一、待たされているのはこちらだ。酒も座敷も、用意するのは当然のことだろう」
「なっ……」
不遜な物言いに、千姫の眉はますます跳ね上がった。
が、風間としては間違ったことは一つとして言っていないつもりなのだから、手に負えない。

鬼と人とを巻き込んだ一連の騒動は終わりを告げ、時を置いて、人の世の争いも旧幕府軍の敗北という形でひとまず終局を迎えた。
その知らせが日の本を駆けめぐるころには、一時羅刹の衝動に身を落とした千姫の身体もとうに本復しており。風間は先に交わした約束を守るため、さっさと千姫の身柄を迎えにやってきた。
やってきたのだが。

八瀬に来て以来、幾度となく繰り返された問題を、風間は口にする。
「……出立の準備はまだできんのか」
「昨日今日でできるわけないでしょっ!?」
反論する千姫の言は、限りなく正論だった。
だが、しかし。
いかに正論であろうと、相手はあの風間である。正論を捻じ曲げるのが、風間千景という男である。

「ならば、ここで油を売っている暇などなかろう。さっさと支度に戻って、采配でも振ったらどうだ」
「ご心配なく、うちの者は優秀ですから。その必要がなさそうだから、抜け出してきたの。それでも数日はかかるでしょうけどね」
「……大袈裟だな。たかが荷造りの一つや二つで」
「あんたと一緒にしないで。あのねえ、身一つで行くわけにはいかないでしょう」
「俺は全く構わぬがな。女の支度は、これだから頭が痛い」

そちらの都合など知ったことか、と関心なさげな風間の態度。頭が痛いのはこちらの方だ、とばかりに千姫は唇から溜め息を漏らした。憎たらしいを通り越して、呆れを覚える。
風間の来訪初日にも、全く同じ内容の応酬が大いに繰り広げられた。

風間曰く、すぐにでも発て。
荷は必要ない、面倒なだけだ。不自由をさせるほど風間の里は困窮していない。

千姫曰く、それは無理だ。
仮にも八瀬の姫が、身一つというわけにはいかない。体面もある。
それに後の者に残しておく指示も必要だ。

どちらが譲るというわけでもなく、白熱した議論は君菊が間に割って入るまで続いた。
それでも双方をなだめるには、多大な苦労を要したことだろう。なにせ、いつもなだめ役の天霧が来ていないのだから、余計に。
その点は、頭が冷えてからよくよく反省した千姫である。風間には反省の色も見えないが。

風間は手の中の盃に目を落とし、もう一度千姫に目を向ける。
「それで? わざわざこの俺に文句をつけるためにやってきたというのか?」
もう一度、盃をくるり、と弄ぶ。
人間が多すぎる、という理由で京の都は嫌いだという風間だが、京の酒は嫌いではない。
再び盃に視線を落とした風間には、千姫の瞳が揺れる一瞬を見逃していた。
しかし、一瞬のちには瞳の揺らぎは、きりりとした輝きに取って替わり、風間を真っ直ぐに見据える。
「よ、用がないなら、私はあなたに物申すこともできないの?」
「当然だ」
ばっさりと切り捨てた。
こうも傍で騒ぎたてられては、せっかくの酒がまずくなる。そう言わんばかりの有り様で、もはや鬼姫には見向きもしない。
そんな風間の様子に、千姫は自らをかき抱くようにして、萌黄色の袖を握り締めた。

言いたいことなら、たくさんあってこの場に来た。それなのに当の相手は歯牙にもかけようとしない。
普段の千姫なら、あまりの傍若無人さに怒り心頭に発し、もれなく口論へと突入していたことだろう……丁度、初日の出来事のように。
けれども、今回ばかりは千姫の感情は怒りに回らない。
君菊にたしなめられたこともあるし、それになにより。
今、この場に来た理由。それを思うと、怒りではなく顔に熱が集まってくる。
「あ……」
もう一度、物を言いかけようとして、声がうわずった。それがますます顔を熱くする。
こんなはずではなくて、この男にもっと堂々とした態度で応じたいと思うのに。

「あ、……歩み寄ろうという気はないの?」

声から変化を読み取り、風間は面差しを上げた。そして、やや驚いたような、いぶかしむような色を瞳に宿す。
視線の先には、頬を紅潮させた鬼姫の姿。
「仮にも、子を産ませようっていう女に対して――用がなければ会話はしないなんて、おかしいわ」
なじるような表情も、言い終わった瞬間に《しまった》という顔に変わった。そのままどこか悔しげに唇を噛み、視線がそれる。それでいて頬は相変わらず、くっきりと赤く染まっていた。

カット338これはまだ、始まりの距離。

この反応は、予想外だ。風間はやや眉を上げる。
風間も鈍くはない。予想外ではあったが、ここまでくれば女の言わんとするところは想像がつく。
懸命に綴った言葉は、頑なに繕ってはいても、言い換えれば。

「つまり、この俺と」
ほう、と愉しげに口元をつり上げる。
「用がなくとも、言葉を交わすなりしたい――ということか?」
「…………!」
図星を指された鬼姫は、きっと風間を睨みつけた。が、こうも顔が赤くては威力も半減だ。

成程、可愛げとは程遠い女と思っていたが、存外なかなか女らしいところもあるではないか。
面白い。始め、この姫を見たときとは別の意味で。
風間はゆるりと目を細め、笑った。存外に、よい余興になりそうだ。腹の内でそんな感想を抱く。

が、抱いた感想とは裏腹に、そんな考えはおくびにも出さず、風間は鼻で笑って答えた。
「そんな必要、どこにある」
「!!」
あえて突き放した態度に、千姫の表情は明らかにこわばった。
さて、どう出るかと風間が見守っていると、千姫は硬い表情のまま唇を震わせ、呟くように言葉を続ける。
「……そう、そういうことなら、別にいいわよ。こっちにだって、あんたと言葉を話す必要なんて、ないんだから……!」
あなたと言葉を交わそうと思った、自分が莫迦だった。先刻までの自分の行動を自分で否定する。
わななく声音は、風間の言葉に傷ついたのか、あるいはあまりの理不尽さへの怒りゆえか。

まあどちらでも構わぬが、と風間は盃を持ち上げる。千姫の登場に気を取られていたが、酒を放置しすぎて酒精が飛んでしまっては味気ない。

と、酒に気を取られかけた、その時だった。

どん、とぶつかってきた衝撃で、こぼれんばかりに表面を揺らして酒が盃の中を暴れる。
ぐい、と羽織の前をつかみ寄せられ、不意のことに身体がやや前に傾いた。そして目を見開かされる。

カット300

ぶつかるように合わせられた唇と唇。
押しつけられただけの、技巧も何もない接吻だった。
驚きに目を見張った風間と対照的に、千姫の目は耐えるように固く閉ざされ、羽織をつかんだ華奢な手はかすかに震えている。

――成程、これなら確かに言葉を交わす必要はない。
頭の片隅でそんなことを考えながら、ふっと唇を歪ませる。微笑と漏れる吐息を唇から感じたのか、怯んだ気配と共に千姫が距離を取る。
それを今度は風間の腕が引き止めた。
手首を取られて、はっとしたように千姫は息を詰める。

「……随分と積極的だが、稚拙な口づけだな」
見下ろす紅玉の瞳に剣呑な空気をまといながら、風間は不敵に笑った。
引き止める手はそのままに。反対の手は、こぼれるのを奇跡的に免れた酒盃を静かに下に置く。空いた手は姫君の頬を柔らかく撫でると、下へと滑り頤をそっと支えた。
千姫の大きく見開かれた瞳が揺れる。目元にはこれ以上赤くなるのかというほど羞恥が昇り、唇は物言いたげに開かれた。

しかし、風間が待ったをかけるはずもなく。
やられっぱなしで、終わるはずもなかった。

普段の傲岸不遜さからは想像もつかないほど優しく、繊細なものを扱うように唇は触れた。
始めは柔らかく、次には少し押しつけるように深めて。
千姫からのものとは比べ物にならない口づけに、受け入れる千姫が苦しそうに息を漏らす。
と、その隙を縫って風間は千姫を追い立てた。
「…………っ」
千姫の小柄な身体が大きく震えた。
深まる口づけに、千姫がもうこれ以上は耐えられない、と思ったところで、風間の唇は離れていった。
伏せていた目を上げ、千姫の表情を認めると満足そうに微笑む。
まだ息がかかるほどの至近で、二人の視線が絡み合った。

瞬間、弾かれたように千姫は飛び退った。
「なっ……、し、信じられないっ!」

甲高い声と同時に、陶器の耳障りな音が部屋に響きわたった。
どうやら千姫の動作に巻き込まれたらしく、先程置いた盃はおろか、徳利までも転がり無惨に酒を畳に吸わせていた。
その惨状に風間は眉を上げるが、千姫はそれどころではない。

「し、信じられないっ! 嘘!」
「何が嘘なものか。それほど嬉しかったのか?」
「ちがうわよっ!」
夜叉の如く目をつり上げようと、その瞳はすでに熱く潤み、いわゆる半泣き状態。
顔全体は、見事な赤鬼の出来上がりである。
頬を手で押さえ、必死に風間から距離を取る。
「こっ……!」
赤鬼となった姫君は、元凶たる男をきっと睨みつけた。
「この、莫迦! バカ、バカバカバカ、バカザマッ!」
「なっ……貴様、この俺に莫迦だと?」
八瀬の当主たる姫君がいい加減大人げない八つ当たりに、こちらも大人げない風間は顔をしかめる。
せっかくの酒を台無しにされたことも相まって、風間は上機嫌をなくして千姫を見返した。

「何が気に入らんというのだ」
「……っ!」
千姫は唇を手で押さえたまま、風間を睨み続ける。

片や、予告もなしに唐突に唇を奪われたことに憤慨し、悔しくも恥ずかしくも思っており。

片や、そちらから口づけておいて、受けて立ったこちらの口づけに怒っている相手を理解できず。

千姫に男の考え方が分かるわけもなく、風間が複雑な乙女心を慮るわけもない。

互いに視線を交えることしばし。
「ふんっ!」
「……ふん」

思い切り視線をそらし、そっぽを向く千姫と。
そんな姫から視線を外し、鼻で笑い飛ばす風間。

二人が互いに歩み寄るには、まだまだ時を必要とするらしかった。



ちなみにこの後、代わりの酒を要求する風間と、自業自得とはねつける千姫の間にまたも口論が勃発するのだが、それは蛇足である。

なんだかんだといって、八瀬での日数を経た後、二人は無事に薩摩へと旅立つことができるのだが……。



鬼の頭領と鬼の姫、二人が完全に打ち解けるまで、いかほどの時間がかかるのか。
――これはまだ予想もつかない頃の、始まりの口づけの話。



/了
  1. 2013/09/14(土) 20:41:53|
  2. Kissシリーズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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  1. 2013/09/16(月) 21:47:20 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集 ]

緋鷺様♪

そちらへご連絡がちゃんと届いているか心配だったのですが、無事おまけもお受け取り下さったようで、ほっとしました^^
私はキャラの性格的に言えば、千鶴より千姫の方が描きやすいんですよね。
確かに千鶴ちゃんは可愛いけど、ゲームキャラの宿命か(w)控え目でおとなしいものですから、はっきりものを言う千姫の方が好み。彼女ならお相手の男とも対等に渡り合え、真面目にwケンカもしてくれそうですしねwww
ちー様も千姫相手だと、気が若くなりそうですよねwww

今回は本当にありがとうございました。
また気軽にお声を掛けて下さいね。
そしてネタが降ってきましたら、また是非読ませて下さい^^
  1. 2013/09/17(火) 09:26:43 |
  2. URL |
  3. ちょこ #-
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