皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「僕のすべてを君にあげよう」

今回は私が当初思いつかなかった、近藤さんとのキスSSをNさんから頂きました^^;


一応、独身者の集まりの中で、妻子持ちなのは近藤さんだけ。
史実では、京で何人も妓を囲っていたらしいけど、私としてはゲームキャラの近藤さんは妻子に誠実であってほしいなーと。
なので、どうしても近千というCPは、私的には妄想のネタにはならなかったんですが…
こういう設定でならありだな、と今回は思いました。

そんな風に思わせてくれた、切ない千鶴の初恋話は続きからどうぞ^^



挿絵は感謝を込めてNさんへ進呈します♪
他の方はご遠慮下さいね。




――君とあと10年早く出会えていたら、未来は変わっていたのだろうか。


僕のすべてを君にあげよう


 『夢は何時かは醒めるもの』だと、何時か誰かに言われた事が有る。
 武士になりたい――武州の僻地で、そんな大望を抱いて足掻いていた頃、農夫の分際の『半端者』にそんな事が出来る筈が無いと――その誰かは俺の言葉を嘲笑っていた。
 そうかも知れない――事実、そうなのだと思う。
 どんなに学を積んでも、どんなに武芸の腕を上げても、『武家の出では無い』――ただそれだけで、悉く俺の夢は潰されて行った。

 それで諦められればまだ良かったのかも知れない。
 けれど諦め切れなかった愚かな俺は、蜘蛛の糸より微かな望みを伝手に、遠く京の地へと上る。
 其処には、俺が望んだ全てが在った。
 御上の為、徳川の為と抱いた大志の結実――新選組。そして望んでも手が届かなかった『武士』『大名』と言う身分――
 本来ならば望むべくも無い、時代の変わり目の奔流の中だからこそ手に入れられたモノ――分かっては居ても、それでも俺は、確かにその『夢』に酔い痴れていたのだ。
 『夢は何時か醒めるもの』――その当たり前の事実に、無意識の内に目を背けて。

「ずっと、お慕いしておりました」
 その言葉を聞いた時、俺の頭は一瞬真っ白になった。
 空言を聞いたのかと思い、俺は弾かれる様に目の前に視線を向ける。
「ずっと、ずっと近藤さんを……私は……」
 しかし目の前に在るその空言の声音に似た声の持ち主は――俺を見つめる泣き濡れた鳶色の瞳は、嘘を言っている様には見えない。
 俺はただ呆然と、その瞳を見つめる事しか出来なかった。


カット329僕のすべてを君にあげよう


 ――あれから一体、どれだけの月日が経っただろうか。
 気付けば千年の都・京から遠く離れた下総の地に居た。
 まるで手の中からサラサラと零れ落ちる一握の砂の様に、信じていた存在(もの)の全てに裏切られ、否定され――嘗ては朝廷からも認められ、京の町を風を切って歩いた新選組も、今は逆に朝敵の烙印を押され、こうして明日をも知れぬ日々を送っている。
 『絶望』でも無い、『失意』でも無い、ただ――『疲れていた』。
 『夢』を見ていた頃が幸せだったからこそ、落差は大きい。
 長く側に在った朋友は「まだまだこれからだ」と言い張っていたが、此処まで来れば、愚かな俺も流石に悟っていた。

 ――『夢は何時かは醒めるもの』だと――

 ――武士でも無い、農夫でも無い、半端者の俺が望むには、過ぎた夢だったのだろうと――

「雪村くん、君は――」
 そんな中で聞かされたその言葉に、俺は確かに驚いていた。
 何を言っているのだろうか――素直にそう思った。
 全てを失い、抜け殻となった男。最後に残された生命さえも、今、捨てようとしている。
 そして何より、己の女としての盛りを奪い、長く血生臭い戦場に生きる事を強いた――そんな人間に惚れたなどと言う理由が分からない。

「雪村くん、君は分かっているのか? 俺は君も聞いていた通り、これから官軍へと出頭する」
 努めて固い声音で、俺は同じ言葉を繰り返す。
「向こうには幕軍から降った者も多く居る。きっと俺の顔を知る者も居るだろう。例え顔は知らずとも、俺が新選組の局長だと知れれば……極刑は免れまい。特に土佐などは、俺を坂本龍馬暗殺の首謀と見ている様だからな」
「そんな! だってあれは――」
「――そして何より」
 俺は彼女の言葉を遮って、
「俺は妻も子も在る身だ。例え俺が新選組の局長で無くても……二人を裏切る事は出来ない」
「……っ」
 悲しげなその瞳に、、俺は己の心にジワリと傷を負うのを自覚していた。
 だがそれは消しようの無い真実――彼女にも、ハッキリと言わなければならない。
「済まん、雪村くん。君が如何言う積もりでそう言ったのだとしても……俺は君の心に応える事は出来んのだ」
 言って俺は固く目を閉じる。
 目を閉じている間に姿を消してくれれば良い――そんな有り得ない願いを込めて。

「………………分かっています」
 たっぷりとした間の後の言葉に目を開ければ、矢張り其処に少女の姿が在った。
「全て分かっています。……分かっている、積もりです」
「だったら直ぐに此処から立ち去るんだ。混乱に紛れれば、君一人くらいは抜け出せるだろう。君はもう、俺たちと一緒に居る事は無いんだ。本来ならば、もっと早くに言うべきだったのだろうが――」
 言って俺は手に持った金子の入った袋を彼女に差し出して、
「これだけ有れば、当座の費用は足りる筈だ。これで江戸の君の家にでも行って――」
「頂けません」
「……え?」
「ですから、その金子は受け取れません」
「雪村、くん?」
 ゆっくりと頭を左右に振る彼女に、俺は思わず声を零す。
 そして彼女は呆けた顔をしているだろう俺を正面から見据え、キッパリと言い放った。
「私は、土方さんたちと共に行きます。だから、受け取れません」
「な――!」
 俺は思わず声を上げていた。――今、彼女は何と言ったのだろうか。
「さっきも言っただろう! 君はもう、俺たちと共に居る必要など無いんだ! 君には女としての幸せを――」
「私の幸せは!」
 思ったよりも鋭い声に、俺は思わず言葉を飲み込んでいた。
 彼女は俺の様子に気付いたのか、ハッとした表情になって、
「……近藤さんが、私の幸せを決めないで下さい。私の幸せは、私自身が決める事です。……私が、官軍に出頭すると言う近藤さんを止められない様に」
「ゆきむら……くん」
「確かに新選組に来た頃はそうでした。一刻も早く出たいと……何時斬られてしまうのかと……て、手籠めにされてしまうのかと、そればかりを考えていました。……けれど、今は違います」
 其処で彼女は「くっ」と顎を首に付ける様にし――意を決した様に顔を上げて、


「私は新選組の行く末を見届けたい。近藤さんが全てを捧げた新選組と共に在りたいんです……例えどんな結末が待っているとしても」


 ――涙に濡れた鳶色の瞳の中に見えた確かな意思に、不意に心が引き絞られそうになった。


「……雪村くん」
「はい」
「君は愚かな女だ」
「!」
 小さな肩が、ピクリと震える。
「君ほどの女性(にょしょう)ならば、引く手も数多有るだろうに、よりによって俺みたいな愚かな男を――」
「な――近藤さんが愚かだなんて――!」
 ――嗚呼、本当に愚かだと思う。
 拳を握り、涙を散らせて必死に否定する様を『綺麗』と思うなど、大概――

「いや、愚か者だ」
 俺は彼女の言葉を遮り――その細い手首を掴んで引き寄せる。
「――全てを分かってなお、それを『嬉しい』と思う俺は……本当に、愚か者だ」
「……あ」
 腕の中に閉じ込めた小さな身体は暖かく、不意に涙が出そうになる。
 僅かに身体を離し、腕の中を覗き込めば、少女は顔を首まで真っ赤にして上目遣いに、それでもしっかりと俺を見つめ返した。

「雪村くん」
「はい」
「俺はこれから官軍に出頭する。……恐らく、生きて戻っては来られないだろう」
「……はい」

 ――嗚呼、これは何かの罰なのだろうか。
 ――死を覚悟した直後に、こんな思いを抱く事になろうとは――

「先程言った事も本当だ。……俺は、妻と子を裏切る事は出来ん」
「…………はい」

 けれどそれも、今となっては如何でも良い事だと思った。
 今はただ、心のままに――

「……だが、一つだけ約束しよう」

 顎を上向かせ、鳶色の瞳を覗き込めば、忽ち桜色の顔は紅色に染まる。

「こ……こんどう、さん?」

 全てを失った俺が、この愚かで優しい少女にただ一つだけ遺せるもの――


「今の俺の心だけは、君の所に置いて行くと――逝く時はきっと、いま君に貰った心を持って行くと――」
「あ――」


 少女が上げ掛けた小さな声は、俺の口腔(なか)へと吸い込まれる。


 最初で最期に触れたその小さな唇は、夢の残り香の味がした――


カット317




(心だけは、何時までも、永久に、共に)




  1. 2013/09/03(火) 12:05:38|
  2. Kissシリーズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
<<「夢に見るほど、好きな人!」 | ホーム | ひとまず〆>>

コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  1. 2013/09/03(火) 15:03:10 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集 ]

N様♪

挿絵のお受け取りありがとうございます!
こちらこそ思わぬ成り行きで近藤さんキスを描かせてもらい、目からウロコで大変楽しかったです^^
こんな風なお話もありなのだな、と改めて驚かされました。
特にNさんは、皆が手を出さなさそうな絵にお話をつけて下さって、感謝してます。
〆の二人にも何かお話が降ってきそうですか? w
その時にはまた是非読ませて下さいね!
  1. 2013/09/03(火) 19:04:22 |
  2. URL |
  3. ちょこ #-
  4. [ 編集 ]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://kougethuan.blog.fc2.com/tb.php/440-77a30b97
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)