皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「はじめて、の」

今回の沖千カラーイラストへのSSは、初お目見えの「風音-Kazane-」の風音さんからです♪


沖田さんのお話のみを創作している風音さんの作品は、二人の心情がしっかり綴られていて、いつも読みごたえがありますが
今回もSSというより、短編―――キスまでの過程がしっかり描かれています。
こんな素敵なお話を本当にありがとうございました^^

そんな、けなげな千鶴ちゃんにきゅんきゅんし、意地っ張りの総ちゃんに切なくなるお話は続きから
どうぞご堪能下さい(^-^ゞ



挿絵は感謝を込めて風音さんに進呈します。
他の方はご遠慮下さいね。




はじめて、の






――ねぇ、千鶴……
君と僕が初めて口づけた、あの夏の日のこと、君は覚えている?







京の夏は江戸とは違い、うだるような暑さと言われている。
周囲を山地で囲まれた盆地特有の暑さは、都に憧れを持ち、四方より集まりし男達の気概を、時に逆撫ですることがある。
それは壬生寺の境内の隅にある木陰で昼寝をする、この男も、また然り――
「――…あー、暑い……なにこれ、馬鹿じゃないの?」
常は爽やかな笑みを湛える口元を不機嫌そうに歪め、沖田は誰に聞かせるでもなく、大層不機嫌そうな声音で、そう、ぽつりと呟いた。
途端、ケホッと乾いた小さな咳が、沖田の喉奥から漏れる。
風邪の症状の一つとして出る咳とはまた異なる、妙に乾いた音の咳――肺の死病として恐れられる、労咳特有の咳だ。
先日、新選組内に於いて、土方の計らいにより、隊士の健康診断が行われ、沖田は医師である松本良順により、労咳の宣告を受けた。
常に重くだるい身体、続く微熱、酷い寝汗、そして――…この、乾いた音の咳。
近頃、沖田を苦しめている全ての症状が、労咳の現れであった。
だが、沖田は新選組を離隊するつもりはない。
先が短いというのなら、尚更、近藤の傍を離れるつもりはないのだ。
松本には、口止めをした。
松本は医師ではあるが、存外、男気のある男で、沖田の心情を汲み、近藤や土方へ口外せぬと言ってくれた。
唯一の誤算は――それを千鶴に聞かれてしまったことだ。
…否、誤算と言うのは間違っている。
松本と話し始める前から、千鶴の気配には気付いていた。
あのような刀を扱うことも出来ぬ、無防備な少女の気配を察することも出来ないようでは、剣客として失格もいいところだろう。
聞かれてしまったというより、わざと聞かせたのだ。
彼女が陰に隠れていると知りながら、わざとそれに気付かぬふりをして、松本との話を進めた。
話を全て聞かせた上で、敢えて彼女に対し、他言すれば殺すと脅し文句を並べ立てた。
それは何故か―――
(――何故って……そんなの、言葉にするだけ野暮ってものだよ)
目を瞑りながらも、沖田は眉根を寄せ、くすり、と、苦い笑みを漏らす。
その笑みは、常に余裕の風情を崩すことのない彼にとって、非常に稀なものであった。
当てが外れたのだ。
死病に侵されたとわざと聞かせ、殺すと脅せば、もう二度と千鶴が傍に寄ってくることはないと、そう思っていたから。
だが実際には、傍に寄ってこないどころか、以前にも増して、彼女は気遣いを見せるようになった。
食事を残せば、『食べたい物を作るから言って下さい』だの、風呂に入ったあとは、『湯冷めしないようにちゃんと髪を拭いて下さい』だの、事あるごとに、『何か手伝うことがあれば、何でも言い付けて下さい』だの・・・
千鶴のその気遣いは、沖田を以前にも増して苛々とさせた。
だがその反面、その苛々とした感情よりも、もっと狂おしい程に強く、心の奥底から湧き上がってくる感情があり――…
「沖田さん、あの…お休みのところ、失礼します。 土方さんが、沖田さんをお探しになられていました」
頭上より降ってきた鈴の音を思わせる愛らしい声に、沖田が閉じていた瞼をゆっくりと開き、声の出何処へ顔を向けると、五丈程離れた場所に、千鶴が遠慮がちに、ちょこんと佇んでいた。
沖田と目が合うと、彼女はふんわりと、まるで花が咲くように微笑む。

カット327はじめて、の

「…相変わらず、君の気配は駄々漏れだね。 こんな風に、僕宛の言伝を引き受けるなら、少しは気配ぐらい消す訓練でもしたらどうなのさ?」
「す、すみません…でも、私が沖田さんに気配を読まれないようにするのは、到底無理だと思うのですが…」
「まぁ、そうだけどね。 でも――、例えば僕が君の気配を察してすぐに逃げ出したら、君は僕を捕まえられないよね。 そうしたら君はどうするの? 諦めてくれる?」
寝転んでいた身体を半身起こしながらも、沖田は千鶴の胸の内を見透かすように、その双眸を細めて皮肉気に笑った。
沖田のその眼差しに、千鶴は少々困惑したようで、一瞬、軽く目を見開いたが、すぐに笑顔を取り戻した。
「諦めずに、探すと思います」
「でも、君の気配を察したら、僕はすぐに逃げちゃうんだよ? 諦めずに探したって、それじゃ永遠に見つからないよね」
「…そうですね。 でも、それでも探します!」
千鶴は黒目がちの大きな瞳で、その目を逸らさずに、未だ座ったままである沖田を真摯に見つめる。
二人の間に絡み合う眼差しと、えもいわれぬ不穏な空気が漂うこと、幾許の時を刻んだのか――実際には、然程の時ではなかったのだろうが、先にそれを破ったのは沖田の方であった。彼は大きな溜息と共に、剣呑を孕んだ声音で、千鶴に常日頃からの疑問を投げ掛ける。
「君はどうして、僕についてくるの? 僕が労咳だってこと、君は知っているのに…君は医者の娘さんだろう? 労咳が咳を介してうつることがあるのを、知らない筈がないよね?」
――ずっと何故なのか、わからなかった。
何故ここまで彼女が己の思い通りに動いてくれないのか、沖田はその理由を知りたかった。
己の志の為に、沖田は新選組を離隊せず、近藤の剣であり続ける道を迷わず選んだ。
だが、この道には周囲の人間に感染させるやもしれぬという危険が付いてまわる。
だから、
だからこそ――
一番感染させたくない彼女を遠ざける為に、松本との会話をわざわざ聞かせたというのに。
敢えてそうすることで、彼女に対して芽生えた執着に気付かぬふりが出来ると、そう、覚悟を決めたというのに。
それなのに、何故……
「…それは、沖田さんのことが心配だから、です。 それに、仰るとおり私は医者の娘ですから、父の仕事を手伝っていたこともありますし…何かお役に立てることはないかと、」
「あははっ…心配で、役に立ちたい、ねぇ…。 君は僕に同情しているって訳だ。 剣術しか取り柄の無い男が、それすらも取り上げられて、役立たずの惨めな姿を曝け出すかもしれないことに、同情してくれているってことか」
「ッッ! 違いますっ、そうではありません! ご自分のことを、そんな言い方をするのは、やめて下さいっっ…私が、沖田さんをそんな風に思う訳、ないじゃ…ない、ですかっ……ですから、」
感情が空回りし、最後は上手く言葉を紡ぐことが出来ずに、千鶴は震える下唇をギュッと噛み締めた。
そして、自嘲めいた言葉と、皮肉を存分に込めた明るい声音で笑う沖田に、千鶴は常に穏やかさを忘れない彼女らしからぬ厳しい眼差しを彼へと向ける。
沖田が冗談を好むところがあるのは、千鶴とて百も承知だった。
だが、たとえ今の発言が冗談だとしても、沖田が己自身を嘲る言葉を聞きたくはなかった。
そんな言葉を、沖田の口から言って欲しくなかったのだ。
しかし、唇を噛み締め、真っ直ぐな視線を投げ掛ける千鶴に対し、沖田は座っていた腰を上げながら追い討ちをかける。
「僕の役に立ちたいと思うなら、今すぐここから立ち去ってよ。 そしてもう、僕の傍に来ないで。 僕の病は、もともと君には関係のないことなんだからさ」
夏のうだる暑さも思わず忘れるほど、それは未だ嘗てないほどの冷酷な声音で、千鶴の耳に響いた。
「――…沖田さんっっ…っ」
千鶴が声を掛けるも空しく――、沖田は背を向けて一人どこかへ行こうと、既にその歩を進めていた。
その広い背中がはっきりと拒絶を伝えていることぐらい、いくら千鶴が鈍感といわれようとも、感じ取ることが出来る。
ついてくるな、と。
しかし彼が千鶴は勿論、他の誰をも拒絶し、ただ一人の大切な人に対して、彷徨うように、そして縋るように――その手を必死に伸ばしていることもわかっている。
だからこそ、伸ばしたその手が暗闇に惑わされないように…常に光と共にあり続けられるようにと、願わずにはいられない。
ただ一人で病と闘うのには限界がある。 離隊しないというのなら、それは尚更だ。彼がそれでも必死に刀を振るい続ける道を選んだのなら、その道の石ころぐらいは、千鶴にも掃えるかもしれない。
……掃わせて欲しい。 ただ一人で、孤独の道を歩いて行かないで欲しい。 そう願わずには、いられないのだ。
『君はどうして、僕についてくるの? 僕が労咳だってこと、君は知っているのに』
(そんなの、わかりきったことです…私は、ただ、貴方が……貴方のことがっっ)
千鶴は胸の内でもその確かな答えを皆まで言わず、奥歯をぐっと噛み締めると、潤む瞳から決して雫が零れないように、強く前を見据えた。
その漆黒の瞳には、どんどん小さくなっていく、沖田の猫背気味の広い背中が映し出される。
――女々しく泣いている場合ではない。
陽気で明るく、華やかであるのに、今にも折れてしまいそうな脆い危うさを秘めている彼に、孤独の道を突き進ませる訳にはいかない。
けっして、その背中を見失わないようにと――
千鶴は地を蹴り、沖田のその背中を目指して駆け出した。

**********

以前、よく遊んでいる子供達に教えて貰った池へ行こうと、沖田は一人静かにその歩を進める。
そこは夏木立が生い茂り、今日のような照り付ける太陽の光も遮断してくれる為、それなりに涼むことが出来る筈だ。
池の辺に辿り着いたとき、沖田の脳裏を“土方が探していた”という千鶴の言伝が微かに掠めたが、特に問題はないだろうと、気にも留めなかった。
どうせ過保護で心配性の土方のことだ。 体調が万全でないのなら、大事を取って部屋で休んでいろと言うに決まっている。
自室で一人寝ていると、気分も沈みがちになり、かえって身体に悪いような気がするのに、と沖田が内心で土方へ悪態をついていると…
「沖田さんっ…待ってください! 土方さんが沖田さんを探されていましたから、屯所へ戻りましょうっっ」
「ッッ!?」
千鶴が息せき切って、必死の形相で沖田を追いかけてきた。
沖田は後方より走り寄ってくる千鶴を一度だけ振り返り、そのまま無言で池の中へ、ざぶざぶと足を踏み入れる。
千鶴が沖田を追いかける為に池の中に入るには、濡れないようにと、袴を捲り上げなければならない筈だ。
彼女は男装してはいるが、やはり女子らしいたしなみを持ち合わせている為、そのようなはしたない真似は出来ずに諦めて帰るだろうと、沖田は思ったのだ。
池の中へ逃げれば、千鶴は追って来れない、そう、思ったのだが――
「沖田さん、いくら暑くても水に入るのは、お身体に障りますっ! 夏風邪は一度ひくと長引いてしまいますから…屯所に戻って、お身体を休めてくださいっ」
「――…っ」
千鶴は草履を脱ぎ、躊躇いもせずに袴を捲り上げ、池の中へ入ってきた。
千鶴がバシャバシャと起こす水飛沫の音に振り返る沖田のその目に、彼女の白く滑らかな細い足が曝け出される…
「――……何、やってるの?」
「え…?」
「え、じゃないだろう。 君は一体、何をやっているのさ。 どうして自分が男装しているのか、忘れちゃったの? ――そんなに細い足を出しちゃったら、誰がどう見ても、女の子にしか見えないよ」
千鶴の足の白さに眩しそうに目を細め、沖田は口唇を引き結ぶ。
彼のそのさまは、平静を装ってはいたが、微かに余裕の無さが零れていた。
だが、千鶴は沖田のその様子には全く気付かずに、その視線を辺りに彷徨わせる。
二人が立っている場所には、鬱蒼とした夏木立が覆い被さるように茂っている為、おそらく人目に触れることはないように思われた。
現に、多少離れた場所に子供達が水遊びをしているようだが、二人の存在には全く気付いていない。
千鶴は微笑み、小さく頷くと、沖田へと向き直る。
「大丈夫です。 ここに沖田さんと私がいることは、誰も気付いていないみたいです。 沖田さんしか私のことを見ていませんから、ご心配には及びません」
「………ふぅん、そう…誰も見ていない、ねぇ。 なら、さ――」
僕と口づけしようよ
そうしたら、君の言うこと聞いてあげる
沖田は冷えた眼差しで千鶴を射竦めながら、口端だけを上へと反り上げる。
どれだけ冷たい言葉を投げ掛けようとも、どれだけぞんざいな態度で接しようとも、諦めずにあとを追ってくる千鶴に、最後の切り札を出したのだ。
千鶴のような非常に真面目な女子が、沖田のその言葉に、おいそれと頷く筈がない。
案の定、大きく目を見開き、動揺した彼女の様子を見遣り、沖田は更にその続きを畳み掛けていく。
「千鶴ちゃんが口づけしてくれるなら、戻ってもいいよ? それが出来ないなら、早くここから立ち去ってよ。 僕は君も知っているように、労咳だ。 傍に居るだけでも感染の恐れがあるっていうのに、口づけなんてしたら――…って、僕の言いたいこと、いくら鈍い君でもわかるよね? 君はついうっかり僕の秘密を知ってしまっただけで、何も気にすることなんてないんだよ。 何度も言うようだけど、僕の病は君には関係ないんだからさ」
「……沖田さんは、あの…私と口づけるのは、嫌ではないのですか…?」
「え?」
沖田の相変わらずの拒絶の言葉を皆まで聞き終えると、千鶴は真っ直ぐに沖田の翡翠色の双眸を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
その穢れなき漆黒の煌きに魅せられながらも、沖田は瞳の奥の惑いの色が彼女に覚られぬよう、そっとその視線を逸らす。
「嫌だったら、言う訳ないだろう。 それよりも、今は君がうつるかもしれないってことを――」
「でしたら、その……屈んで頂けますか…?」
「っ、なに?」
「私は小さいので、背伸びしても… 届かないので、沖田さんも屈んで頂けますか?」
「っっ…な、んで。 ――千鶴ちゃん、君は……」
――どうしてそこまでしようとする?
何故、ここまで言ってるのに、引かないんだ?
沖田は驚愕し、千鶴の揺るがぬ瞳の色を凝視する。
女子にとって、初めての口づけは大切なものなのではないか、と思っていた。
『口づけしよう』『はい、わかりました』と、簡単に済ませられるものではないだろう、と。
ならば――…彼女は初めてではない、ということなのだろうか。
思考の末、辿り着いたそれに、沖田は我知れず口がへの字に曲がっていた。
「…ふぅん、千鶴ちゃんは初めての口づけって訳じゃないんだね。 そうじゃなきゃ、僕と口づけようなんて思う筈がないよね。 初心な女の子とばかり思っていたけど、そうじゃなかったってことか」
「っ…―――…はじ……で、す」
「? なに? よく聞こえないよ」
「初めて、です…すみません……あの、したこと、ない …です」
「え…初めてって……」
真っ赤に染まった顔を俯かせて、初めてだと告げる千鶴に、沖田は益々訳がわからなくなった。
確かに、彼女のその様子は初心そのもので、嘘を吐いているようには見えない。
しかし何故、初めての相手に、よりによって病持ちの男を選ぶのか。
それ以上に、己は千鶴に対して口が裂けても優しい態度で接してきた訳ではないし、正直にいえば、彼女に見合う男は他にいくらでもいるだろう。
なにもわざわざ、こんな男のふざけた戯言に付き合わなくとも――…
「―――……君は、…同情でそこまでするの?」
沖田が目を幾度も瞬かせ、やっとのこと喉奥から搾り出したそれに、千鶴は俯いていた顔をぱっと上げた。
奇妙なものを見たような目つきで千鶴を凝視する沖田に、彼女は大きく首を左右に振りながら、懸命に自身の胸の内のその想いを吐露していく。
「そんな…同情でそんなこと、出来る訳ないじゃないですか! 私は、沖田さんに同情したことなんて、ありません。 お身体のことを知ってしまって、何か私がお役に立てることはないかと思いましたが、同情からではありません…。 それに、あの…病のことは関係なく、私は、その…初めては、沖田さんにお願い出来たらって……沖田さんが、私とするのを嫌じゃないと仰ってくださったから、あのっ…私、凄く嬉しくて、つ…つい……すみませんっ! ず、図々しい、ですよね…」
見ていて気の毒になる程の狼狽を見せる千鶴に、沖田は軽くその目を伏せ、暫し逡巡してから静かな声音で彼女へ問うた。
「―――君は、まさか…僕のことが好きなの?」
「え、と……その、あのぅ…は、はい……すみません…」
「どうして謝るの? 別に君が謝ることないだろう? 君は、何も悪くないんだから。――それにしても、千鶴ちゃんの初めての口づけの相手が出来るなんて、光栄だなぁ。 じゃ、口づけするから背伸びしてくれる?」
沖田はにっこりと笑顔を見せると、軽い口調でそう言葉を発し、千鶴の肩に手を掛けて背伸びすることを促す。「は………は、はい…っ」
千鶴が爪先立ちし、上を向いた刹那、沖田は素早くその薄い口唇を、彼女の桜色の小さな口唇へ掠めさせた。


カット298

それは息を止めて、ほんの一瞬だけの――おそらく、このぐらいなら、病がうつることはないだろうと思われる、甘い口づけとは全く異なる、掠めるだけの口づけ。
これ以上は本当に危険だからと、己と彼女を律する為の、口づけ……掠めた口唇を離し、その身すら千鶴から遠ざけると、沖田は苦い笑みを零し、彼女をまるで諭すように切り出した。
「これでわかっただろう? 僕達は、普通の恋人同士がするようなことは出来ないんだよ。 出来ても、精々このぐらいだ。 僕は君に病をうつしたくない。 それだけはどうしても避けたいんだ。 でも――…君が僕のあとをついてくると、どうしたって、君に触れたくなるし、口づけだって、今のよりも、もっとずっと……。 だから、本当に、もうこれで、」
「沖田さんは、私が同じ病になるかもしれないことを、危惧されているのでしょうけれど、私はうつりませんよ?」
沖田が身を斬る程の思いで紡いだそれを、頬を薄っすらと桃色に染めた千鶴が、それ以上は言わせぬとばかりに、半ばで遮った。
そしてそれは、沖田の本音を頑なに囲っていた最後の砦をも、粉々に打ち砕いていく――
“病に負けるようでは、沖田さんをこんなに大好きになる筈がないですから”
だから、沖田さんが心配することは何もないんですよ、と暖かい陽だまりを思い起こさせる笑顔を見せる千鶴に、沖田はゆっくりと、しかし、もう何の躊躇いもなく、その腕を伸ばした。
そして――
今度はその小柄で華奢な身体を、まるで捕えるようにきつく抱き寄せ、彼女の口唇へ己の口唇と共に、ずっと漏らすことのなかった本音を降らせていく……
「…馬鹿だね。 何度も逃げる機会を作ってあげてるのに、何で君は逃げようとしないのさ。 僕がどれ程の覚悟で君を遠ざけようとしたか、僕がこうすることを、どれだけ我慢していたか…君は何も知らないくせにっ」
彼のその本音は、千鶴が零す吐息も、甘く絡め取る程の深い口づけの合間に、少しずつ、少しずつ、奏でられていく。
――ずっと、君に、こうして触れたかった
何も気にせず、好きだと言いたかった
何度も、何度でも……
君に『もう聞き飽きた』と言われるぐらいに、大好きを贈りたかった
もうずっと前から、
“君は僕だけのもの”と言って、本当は、片時も離したくなかったんだ…
沖田の溢れ出す本音をしっかりと受け止めようと、千鶴は必死にその腕を彼の背中へと回した。
微かに震えるその大きな背中を優しく擦ると、その震えは次第に小さくなり、そして消えていく。
覆うように茂る夏木立が、さわさわと風にそよぐ音を耳にしながらも、二人はそれから暫くの間、ずっとそうして溢れる愛しい想いを伝え合い、抱き締め合っていた――







君と僕が初めて口づけたあの夏の日、それは――
僕が、“君には敵わない”と、初めて思った日でもあるんだ……





[ はじめて、の・完 ]
  1. 2013/08/29(木) 12:14:03|
  2. Kissシリーズ
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  1. 2013/08/29(木) 16:11:18 |
  2. |
  3. #
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風音様♪

お受け取りありがとうございます^^
おまけ絵の方は、文章の通り沖田さんを微笑まそうかどうしようか悩んだんですけど、この絵だけで彼を笑わせると何か印象が違っちゃいそうだったので、こんな感じにしました。
内容と違う!と言われたらどうしようかとドキドキしてたんですが、ほっとしました^^;
UPの件ですが、どうぞそちらでもUPして下さって構いませんよ。
風音さんの所に来る人達に、わざわざうちにまで来ることなしにこのお話を読んでもらう為にも、すぐにでもどうぞ! 
その際、挿絵はお好きに使って下さい。
ではでは今回は本当にありがとうございましたー♪
  1. 2013/08/29(木) 20:05:23 |
  2. URL |
  3. ちょこ #-
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  1. 2013/08/29(木) 23:30:27 |
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  3. #
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この話、私得すぎました。

久しぶりに「ツンツン」してる総司さんを堪能させていただきました~(*ノノ)
うちの総司は完全に千鶴にデレてるwので、なんかツンツンしてる総司さんが新鮮でした。
本編のワンシーンをうまく絡めてあるので、ニヤニヤしながら読ませていただきました。
なるほど・・・アレにはそういう意図があったのね!と、かなり納得してしまいました。
千鶴ちゃんの「屈んでいただけますか?」にもだえ転げましたwああ、千鶴ちゃんかわええ・・・(この時代の)女の子にここまで言わせる総司さんったら罪な人ですね。
そして、最後に千鶴の無意識の言葉で、必死に抑えてた自分の気持ちが溢れちゃってデレちゃうって・・・ああ、もう、たまんないな(*ノノ)
最初のキスが掠めるように、その次が気持ちが通じ合ってしっかりとっていうのが、とってもよかったです。もう、沖千好きすぎます~~。
切なくも甘いお話、ご馳走様でした~(*´∇`*)
  1. 2013/09/03(火) 00:29:00 |
  2. URL |
  3. ゆゆき #EYMZMP9E
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ゆゆき様

はじめまして、風音です。
沖田さん、ツンツンしてましたか?私は恋の始まりから書くのが好きな方なので、沖田さんはツンツンしてることが多いんですよー。ツン→デレのその過程が好きなもので…^^;
千鶴ちゃんの立ち聞きシーンも、「出ておいで、もういいから」て言ってるぐらいですし、初めから気付いていたんだろうな、とずっと思っていたので、絡めて話を書いてみました。
千鶴ちゃんの「屈んでいただけますか?」は、もう、ちょこさんの素敵イラストから出た言葉ですね(^///^)この身長差と体格差が言わせた言葉なので…!小さいのに、一途に必死に追いかける千鶴ちゃんは本当に可愛いですよね///そりゃ、頑なな沖田さんも、最終的にはデレますよね。
私も沖千が大好きです~vv沖千じゃなかったら、二次創作はやっていないと思います!!

ではでは、コメントありがとうございました^^v
  1. 2013/09/04(水) 10:22:58 |
  2. URL |
  3. 風音 #-
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