沖千カラーキスイラストへの、ゆゆきさんからのSSです♪
沖田さんはゲーム本編では悲しいことに、実は元気な時ってほとんどないんですよねえ。
けど池田屋で喀血したのは小説での創作ですし、西本願寺での健康診断で労咳発覚というのも、他の隊士だったという説もあるそうです。
なので現実では発病はもっとずっと後―――不動堂村の辺りで寝込んでいたという資料はあるそうなので、西本願寺時代はぎりぎり活動してたのかな~と、私の話作りではそんな感じで描いているんですが―――
どっちにしろ、沖田さんと労咳は切っても切れない話なので、切ない事には変わりないですよね(T-T)
今回のゆゆきさんのSSはそれを正面から描いています。
うちに寄せて下さったのは、沖田さんsideのお話で、彼の心情が悲しいのは勿論ですが、私には何だか透明感があってすごく綺麗な印象でした。
やっぱり沖田さん贔屓のゆゆきさんが書くと、ただ悲しいだけじゃないんですね^^
ピクシブには千鶴sideのお話もUPされてます。
興味のある方はそちらも是非読んで下さい^^
では続きから、これぞ真骨頂の沖千をどうぞ―――
挿絵は、感謝を込めてゆゆきさんへ進呈します。
他の方はご遠慮下さいね。
まったく、君は・・・。
目が覚めると、自分の上に軽く重みを感じる。
ゆっくりと身体を起して目をそちらに向けると、僕の上ですやすやと眠っている君が目に入った。
~【夢想涙歌~ムソウルイカ~】~なんで僕の上で寝てるのかな、君は・・・。
僕は思わず苦笑いをした。
今日は朝から僕の療養しているこの屋敷に来たかと思ったら、掃除をしてみたり、布団を干すからどいてくれだの、食事は残さず食べるまで見張ってますからね!だの、一日僕のいらない面倒を見て・・・そして今、疲れ果てて寝入ってしまったらしい。
でもさ、こんなところで寝るなんていくら何でも無防備過ぎるんじゃない?
病人とは言え、一応僕も『男』なんだけどね。
こんな弱った身体だって、何も出来ないわけじゃない。
けど、そんな『無防備な君』だから、僕は目が離せなかったのかな・・・?
・・・僕が君に抱いてる想いなんか、君はきっと知らないんだろうね・・・。
君の寝顔を見ていると、どうしても触れたい衝動を抑えきれない。
そっと手を伸ばして、顔にかかった髪を指でつまんで、その横顔から取り除いていく。
烏の濡羽のように真っ黒で艶々とした綺麗な髪。
一本、また一本・・・。
そのたびに、僕の君に対する想いが溢れ出すようで・・・。
まだ幼さが残る寝顔が露になる。
臥せた長いまつげ、赤く染まる頬、白くて滑らかな手触りの肌。
寝ている君の顔にかかった髪を退けて、今度は手でその顔をそっと撫でた。
耳から頬を辿り、顎の稜線をなぞる。
僕は今、どんな顔をしているんだろう。
愛しいもの、手にいれたくてたまらないものが目の前にあると言うのに、僕はそれを決して手に入れられない。
手に入れてはいけない。
指先が顎の先まで来ると、君の赤く可愛らしい唇が目に留まる。
そこは薄く開いて、安らかな寝息が漏れている。
ひとさし指で、今度はその唇に触れる。
そっと上唇をなぞり、そして下唇をなぞる。
柔らかく、しっとりと濡れたそこに、僕の唇を重ねられたらどんなに心地いいだろう?
けれど・・・。
これからがある君に、もう先の見えている僕がしていいことじゃないよね。
それはわかっている。
寝ている君にだったら・・・と思う気持ちもないわけじゃないけど、それを必死に抑えて。
たまに、君がこんなに無防備なのは、実はわざとなんじゃないかと思ってしまう。
けど君がそんなに器用な性格だとは思わないし・・・やっぱり素なんだと思う。
そんな君を襲うのはとても罪悪感が伴う事で・・・宙ぶらりんになってしまった僕の気持ちはどうしたらいいんだろうね?
そんな時、僕は思いを馳せる・・・思い出の中の君に。
※
昨年の今頃、みんなで川遊びに行ったよね。
新八さんや平助ははしゃいじゃってさ、女の子がいるって言うのに下帯だけになって泳いでたっけね。
「おーい、千鶴も来いよ~、冷たくて気持ちいいぜ。」
そんな風に呼ばれたって、男の裸に免疫のない君が一緒になって遊べるわけないのにね。
「わ、私はこっちで涼んでますから・・・。」
そう言うと、君はみんなから少し離れた場所に腰を下ろしてたっけ。
袴の裾を少し引き上げて素足を水につける君。
いつもは隠れている白くて細い足首が見える。
君は川の流れに足をつけて、気持ちよさそうに風を感じていたよね。
君はわけもわからず僕たち新選組に囚われて、見てはいけないものを見てしまったせいで、屯所に軟禁される身になった。
自由が許されないのは、どんなに不自由だっただろう。
それも、理不尽な理由でさ。
本当はもっと、僕たちに対して恨みや反感を持ってもいいはずなのに。
君はいつも笑ってたっけ・・・。
苦しい時、泣いていい時、怒っていい時・・・それを全部飲み込んで、笑ってたよね。
けど、僕はそんな君を見るのが嫌だった・・・。
もっと素直になれば良いのに・・・なに我慢して、いい子ぶってるのって、君を見てるともやもやした気分になった。
今思えば、あれは嫌いというのとは違う気持ちだったんだね。
気持ちのいい風に吹かれて、いつもの窮屈な生活から少しはなれて開放的になったのかな。
君は着物を濡れないように持ち上げると、川の中に入っていっちゃって・・・
パシャパシャと水を足で蹴って遊びはじめた時は、びっくりしたよ。
だって・・・そんなに足を出してさ・・・無防備にも程があるよね。
女の子だったら、お嫁さんに行く前にそんなに素足を男の前に晒したらだめなんじゃない?
そもそも、今の君は男の子に思われなくちゃいけないってのにさ。
君が着物の裾をつまみあげて、水を蹴って遊ぶ姿は・・・いくら髪を高く結い上げて、袴を履いていたって、まるっきり女の子じゃないか。
でも、いつもの無理をしてる顔じゃなくて、本当に楽しそうに笑ってる君に僕は・・・
「沖田さんは入って遊ばないんですか?皆さん気持ちよさそうですよ?」
「・・・僕、あんなに素っ裸になって川で泳ぐほど子供じゃないんだけど?子供と遊ぶのが好きだからって、子供みたいだなんて思われるのは心外だな。」
「私、そんなつもりじゃ・・・冷たくて気持ちいいから、沖田さんもって・・・。」
今思えば、僕はあの頃から君のことが好きだったんだね。
あの時も、無邪気に笑う君から目が離せずにいたのに・・・自分の初めての感情に戸惑っていたんだ。
自分のわけのわからない感情を持て余していただけ。
それで君に八つ当たりをしてしまったんだ・・・。
けれど僕が嫌味を言っても、君は困った顔をして笑うだけだったね。
やっぱり泣かないんだ・・・そんな困った顔をするくらいなら、泣けばいいじゃないか。
君が泣いたら、八つ当たりした僕の気持ちも晴れるかもしれないのに。
そんな風に思ってしまう自分に、さらに苛立つ気持ちが抑えられずにいた。
「なんかつまんないから、僕もう帰るね。みんなと楽しんでおいで。」
「え?あ・・・お、沖田さん・・・!!」
自分の中の理解できない感情を抱えて、僕はそのままひとりで帰っちゃったっけ。
君が慌てて川から上がって、追いかけてくるのを知ってたけど・・・そのまま振り切って僕は一人帰った。
僕があんな風に帰ったら、君はもう楽しくなかったよね・・・。
けど、僕にはそこまで君を気遣う余裕はなかったんだ。
自分のこの気持ちを抑えるのが精一杯だったんだ。
※
あの時、君に誘われるように一緒に遊べばよかった。
今はこんな身体で、したくてももうできない・・・。
照りつける太陽の光が降り注ぐ。
その光が川の水面に揺れて、キラキラと煌いている。
時折魚が跳ねて、その水しぶきが宙に舞う。
木立から漏れる光が水面に影を作って、緑が美しく水面を彩る。
その中で、まるで子供のような無邪気な笑顔で、君は僕を誘う。
ただ童心に返って、二人で水を蹴りあって、笑いあって遊べたのなら・・・。
別に特別な事は何もなくても、僕たちの間はそれで満たされるような気がする。
僕が蹴った水が君の前髪を濡らす。
二人の間を心地よい風が吹いて、「なんだか子供みたいだよね、僕たち」って言えば、君はきっと笑ってくれるよね。
僕はその笑顔がたまらなく愛おしいんだ・・・。
君の手を掴むと、木陰に隠れるように二人で抱き合って・・・そして、君のその可愛らしい唇に口づけをしたい。
きっと、君は突然の事でびっくりしちゃうよね。
唇を離して僕がいたずらっぽく笑えば、君はどんな顔をするのかな。
「冗談はやめてください」なんて怒るのかな。
ううん、君はきっと頬を赤らめて、俯いちゃうよね。
その後、僕を見上げて・・・僕を見て、君は・・・笑ってくれるかな?
僕はこんな性格だから、あんまりそういう風に見えないかもしれないけれど、僕だって君に初めて口づけをする時は、口から心臓が飛び出しそうなほど緊張してるよ。
だから、困った顔なんかしないで笑って欲しいな。
そしたら、それだけで僕もとても嬉しい気持ちになれるから・・・。
※
君の寝顔を見ながら、思い出の中で口づけを交わす。
僕はもう、君に触れてはいけない存在だから・・・。
僕が触れれば、僕の意思とは別に君を傷つけてしまうから。
僕は誰かを好きになることなんか、ないと思っていた。
僕の全ては、近藤さんに捧げるために・・・そう思って、生きてきた。
その気持ちに今も変わりはないけれど、君に出会って、少しだけその気持ちが変わったんだ。
近藤さんに尽くしたい気持ちとは別に、誰かを本当に好きになるって気持ちを知ったんだ。
それは・・・言葉ではうまく言えない。
胸の奥から湧き出てきて、ぎゅっと切なくなるような。
・・・愛しくてたまらなくて・・・抱きしめて手放したくない。
ずっと傍にいたくて、僕の全てを満たして欲しくなる・・・そんな気持ちだよ。
そんな気持ちを、君は僕にくれたんだ。
おかげで僕の胸はいつも苦しいよ。
でも、ありがとうって言うべきなのかな?
僕の胸はこれが病のせいなのか、君を思っての苦しみなのかわからないほどに苦しいけれど・・・
それでも、知らないよりは知ってよかったと思える、そんな痛みだよ。
思い出の中で、何度も君と戯れるんだ。
その中では、僕はいつもより少し優しいかもしれない。
意地悪なんか言わなくたって、君は僕を見てくれるから。
君が笑って傍にいてくれる・・・それだけで、僕はもう何もいらない。
思い出の中に幸せを求めるなんて、馬鹿げてるかな。
でも、床に臥せって死を待つばかりの僕にはもう、何も出来ない・・・。
早く死神が僕の命を連れ去ってくれればいい・・・その日を指折り数えて待っている。
ただ、その退屈を紛らわせるくらいの思い出は、すでに僕の中にあるよ。
だから、もう君はここに来ないで・・・。
一緒にいる時間が長くなればなるほど、僕は君を傷つけてしまう。
君は優しいから、僕のために流さなくていい涙を流すのだろう・・・?
僕のために泣いてくれるのは嬉しいけれど、僕は君の泣き顔は見たくないんだ。
君には笑っていて欲しい・・・いつでも、ずっとずっと・・・。
※
「ほら、起きて・・・もう夕暮れだよ・・・君はそろそろ帰った方がいい。」
「・・・う・・・ううん・・・あ・・・私!?寝、寝て・・・ました!?」
僕に揺り起こされて、ようやく目が覚めた君はまだ寝ぼけた眼で僕を見る。
だんだん意識がはっきりしてきたのか、慌ててその身を起すと、よだれが垂れてなかったか慌てて口元をぬぐっている。
その様子が可愛らしくて、僕はとても穏やかな気持ちになる。
本当は君を離したくない・・・帰したくはない・・・けれど・・・。
「今日は色々してくれてありがとう。でも、もうここには来ない方がいい。」
「!!?私何か粗相・・・しましたけど、でも、来ない方がいいって・・・。」
君は自分がここでうっかり寝てしまったことに、僕が気を悪くしたのかと思って慌てているけどそうじゃない。
今日は初めから、君にそう言うつもりだったんだ。
「屯所の方でも人手足りてないでしょ。それに、君に僕の病が移ったら困るし。」
「そんな心配して・・・沖田さんはご自分の身体の心配だけしてください!!屯所の仕事は全部片付けて来てますし、それに私の体が丈夫なのは折り紙つきですから!!沖田さんが移したくても、移ってなんかあげませんよ。」
「あ、夕ご飯作ってきますね!沖田さんの好きな大根おろしの入ったおかゆ、もっと上手に作れるようになったんです。」
そう言うと、パタパタとお勝手場の方へ駆けて行ってしまった。
やれやれ・・・なんでこの子は、変な所で強情なんだろう。
あれだけ意地悪をした僕の事なんか、気にかける必要なんかないのに・・・。
「もっと上手に」って、わざわざ僕の為に料理の練習をしたって言うの?
君は無意識かもしれないけど、そういうところが僕の心をたまらなくさせるんだよ。
愛おしくて愛おしくて・・・君のことを手に入れられるのならどんなにいいだろう・・・。
この手で君に触れられるなら、この胸の苦しみはどんなに楽になるだろう?
でも、僕は君を傷つけたくない。
だから、それはしちゃいけないことなんだ。
けれど、これ以上傍にいられると・・・自分の気持ちを抑えきれるか自信が・・・ない。
弱った身体に、この弱い心を隠し通す事ができるだろうか。
弱い僕を晒したくないのに、君に縋って、君を奪って、君を縛ってしまいそうで・・・。
それなら、いっそ手の届かない所に行ってもらったほうがいいんだ。
僕の存在が君の中で大きくなれば、君のこれからに影を落とすかもしれない。
それって自惚れかな・・・?
思わず自嘲的な笑みが漏れる。
※
夕飯の支度が出来て戻った君に、なんて言っていい聞かせたらいいのかな?
君は時々、本当に困った子になる。
いつもは察しがいいのにね・・・でも、僕の気持ちまで察せられると困るんだけど。
なるべく君を傷つけたくないから、ああでもないこうでもないと言い方を考えるけど・・・なかなかいい方法が思いつかない。
本当の自分の気持ちと裏腹な言葉を考えているせいか、それを拒否するように眠気が降りてくる。
ああ・・・眠ってる場合じゃないんだけどな・・・。
でも、僕はその眠気を拒否できない。
きっと、次に目が覚めた時は、君が心配そうな顔で覗き込んでいるんだろうな・・・。
僕は夢を見る。
君と笑いあって、抱きしめあって、飽きるくらい口づけを交わす。
夢の中で結ばれるくらいは許してくれる・・・よね?
ううん、許してくれなくてもいい。
これは僕の前で無防備な姿を晒して、僕の心を奪った君の罪・・・だよ。
罪を犯した子には、罰を与えなくちゃ。
僕が甘い罰を与えてあげる・・・夢の中で、思い出の中で・・・。
僕は君の幸せを願っている。
だから、僕に囚われないで、君は進まなくちゃいけない・・・これからの君の道へ。
僕には思い出の中で、隣に座って僕の話に耳を傾けてくれる君がいるから。
もう、それで十分なんだよ。
だから、僕の思い出の中の君が翳ってしまわないように、いつでも笑って、笑って・・笑って・・・。
(君のことが・・・大好きだよ・・・千鶴ちゃん。僕の心は君にあげる。だから、いつまでも僕の好きな君でいてよね・・・。)
抑えきれない想いが溢れて涙が一粒、僕の頬を伝ってゆく・・・。
了
- 2013/08/16(金) 12:00:00|
- Kissシリーズ
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