皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「濃墨」

先日「汀亭」の樺原さんとメールのやりとりしてたら、随分以前に頂いたSSの話が出まして。

実は、このブログを始めてから、初めて人様からSSを頂いたのが、この作品。
もらった当初はただ嬉しくて、お礼にとイラストだけ描いて満足してしまいました;

その後、おかげさまで沢山の方達と知り合え、いっぱい嬉しい贈り物が増え、拙いながらも挿絵付きでUPという流れを定着させてもらったのに…
その第一号の頂き物SSを放置したままで―――すみません(((*>д<*)))樺原さん!!
今回、改めて挿絵も描き直させてもらい、丁度2年遅れのUPを許可してもらいました。
ありがとうございます^^


本家でとっくに読まれている方もいると思いますが
続きから、私の絵付きで改めてどうぞ♪



濃墨



 春の遅い北国に、ようやく桜が咲き始めた。                
 白く、薄い花弁が舞い散る様は、この地で見ると何故か雪を思わせる。
 寒く閉ざされた季節に、常に傍らに寄り添うように降り続いた雪。時に激しく、時に優しく、この世界を覆うように天から降りてくる六花。

「雪みたい…」
 少し冷たい風が通り抜ける度に、はらはらと舞い上がる 花弁。その一片一片が、春の訪れを喜ぶように、軽やかに蒼空へと消えていく。
「…そうだな、雪と桜はどこか似ているな」
 傍らに佇む人の声が聴こえる。そっとくびを向けると、彼は瞬きもせずに眼前の光景に見入っていた。
「似ている…?」                                          
「一瞬で散りゆく花と、手のひらの中で瞬く間に溶けてしまう雪。…最後は泥と土にまみれて死に絶えていく様も、どこか人の生き様を思わせる。…とりわけ、俺達をな」
 彼の双眸に浮かぶのは、懐かしさと痛み。若さと溢れる情熱を注ぎ込んだあの場所は…もうすでにない。
「…戻りたいですか?あの場所へ。皆がいた、懐かしい京の町に…」
 私の問掛けに、彼は一瞬遠くを彷徨うような眼差しを虚空へと向けたが、すぐに緩慢な動きでくびを振った。
「…そんな事、思っちゃいねぇよ。俺はいつもその時に選べる最良の道を進んできたつもりだ。…その結果が悪かったとしても、だ。進んだ先に起こった事に後悔しても、選んだことを悔いてはいない。…そうでなくちゃ、俺を信じた奴らに申し訳が立たねぇよ」
「ごめんなさい…」
 馬鹿な事を言った、と恥じ入る私の頭に彼の大きな手が乗せられた。そして、優しく髪を梳いてくれる。
「…時々、無性に恋しくなる。近藤さんがいて、総司がいて、新八や原田、平助に斎藤…。田舎の道場で大きな夢語っていた頃がな。屈託なく笑ってたあの頃が、時折、苦しいくらいに懐かしい」
「歳三さん…」
 切ない声に胸がきりで刺されたように痛んだ。
「…もう、いねぇな。誰もいねぇ。…傍に残ったのは、ほんの僅かな人間と…お前だけだ」
 掠れた声と微かに震える手が私の心をかき乱す。
「…ずっと、傍にいます」
 彼の着物の袖を強く握り締めた。私が傍にいる事を、そして一番近くで支え続けていきたいと願っている事を知らせるように。
「…千鶴」
 甘い声が私の名を呼ぶ。それに引き寄せられるように顔を上げて、心蕩かすような藤色の瞳と視線を交わした。
「来年も、再来年もこの場所で桜が見てぇな。潔く散り、また再生する桜の花は…俺に大切な何かを思い出させてくれる。痛みや悔恨、苦しみや哀しみ…けして良い想い出ばかりじゃねぇが、俺の生きた証と、こうして生き延びた事の意味を…白く舞う花弁が思い出させてくれる気がしてならねぇんだ」
「はい…桜が咲く度にこの場所へ来ましょうね。ずっと、いつまでも…」
 二人の眼差しが深く絡み合った。互いの瞳に浮かぶもどかしさが、距離を少しずつ狭めていく。
 彼の黒髪が私の頬を掠めた。その短くなった髪が、逆に長く滑らかだった時を思い出させる。
 つ、と手を伸ばして髪に触れた。さらさらとした感触は変わらず手に心地良い。

カット262濃墨1


「…どうした?」
 唇が触れ合うほどの距離で、彼が囁いた。
「髪が長かった時を…思い出していました」
「…そうか」
「すごく綺麗で…憧れていて」
「…嬉しくねぇな。普通は女に言う言葉じゃねぇか」                  
「だって、本当のことですから。あの時、あなたの髪に見惚れて…そして」
 私の言葉に、彼も思い出したようだった。そして、ふ、と微笑むと、あの時と同じ眼差しで私を見つめた。
「千鶴」
 現在と過去の声が交差する。私の名を呼ぶ口調と音。
 その響きが私を遠い過去へと誘っていく。
「土方…さん」
 彼は甘く輝く双眸を細め、そっと私へと顔を傾けて最後の距離を埋めた。
 その口付けは狂おしいほどに甘く、脳裏に忘れられない時を思い出させた。
 少女だった私と、憧れてやまなかった年上の人。
 恋焦がれ、その背中を追って走り続けた日々。                                    
 記憶の奔流に身を委ねながら、愛する人の顔を見つめた。初めて会った時から私を捉えて放さない瞳に酔いしれながら、より深い口付けを求めて彼の頭を引き寄せたのだった。
 
                                                            
 ある夏の日。朝餉の片付けを終えた時、土方さんの姿が見えないのに気付いた。
「…今朝も食べる時間がないのかな」
 常に書類仕事に追われている彼は、朝餉を抜くことが多かった。
 後で顔を見せるかも知れないとは思ったが、様子を見に行く為にお茶を淹れて持っていくことにする。    

「雪村です。お茶をお持ちしました」
「入れ」
 不機嫌そうな声が返ってきた。その口調に内心怯えつつも襖を開いて中へと入っていく。
「あ――」
 目の前の光景に驚いて、思わず声が漏れてしまった。
 濃い墨を流したような美しい髪が、結われずに無造作に背中に垂れている。烏の羽のように艶やかな漆黒は、光に反射して滑らかな光沢を放っていた。
「ご苦労だったな、千鶴。適当な所に置いていけ」
 遠い所から彼の声が聴こえる。それに反射的に答えながらも、目は吸い寄せられたようにその髪から離れなかった。
 惚けたように見つめる私を、彼が訝しげに見つめている。不躾なことだとは分かってはいたが、どうしても目を離すことができなかった。

「…何見てんだ、千鶴。他に何か用でもあんのか?」
 少し苛立ったような声に、ようやく我に返った。
「い、いえ、別に…」
「だったら部屋に戻ってろ。お前の相手をしてる時間はねぇ」
 その言葉に少し悲しくなったが、彼が煩そうに何度もくびを振るのを見て、思い切って声を掛けた。
「あの…土方さん。髪が邪魔ではないですか?」
「邪魔だ」
 間髪入れずに返事が返ってくる。
「だったら…お嫌でなければ私が結いましょうか…?」
 彼が目を瞠って私を見た。そしてしばらくの沈黙の後、淡々とした声で応えが返ってきた。
「人に髪をいじらせるのは好きじゃねぇんだよ」
「…そうですか」
 余計な事を言ってしまった、と臍を噛んだ。
 彼は気落ちする私を見て軽く溜息を吐き、諦めたように言葉を続けた。
「けど、今回は仕方ねぇな。せっかくだから結ってくれ」
 はっと顔を上げて見ると、彼は仕方なさそうに小さく微笑んでいた。それが嬉しくて、笑みを浮かべて頷いた。 
 櫛を借り、そっと丁寧に梳った。真直ぐで芯のある美しい髪。彼の人柄を表すような髪質に、思わず口の端が笑みを形作る。
(…綺麗)
 指先に一度も引っ掛かることなく通り過ぎていく糸に、思わず感嘆の溜息を吐いた。
「…どうした?」
「いえ、何て綺麗なんだろうと思って」
「…綺麗?やめてくれ、男が髪を褒められても嬉しくも何ともねぇんだよ」
「…ごめんなさい」
「いいから早く結ってくれ」
 苛立った声に、思わず体が竦んだ。そして、言われた通り手を動かし始める。            
 彼が痛みを感じないように、慎重に櫛と手を動かした。
 そして横髪を手に取り、後ろ髪と合わせて丁寧に束ねていく。指が首筋に辺り、触れた箇所がぴくり、と動いた。滑らかな髪は、私の手からするすると逃げて、纏めるのが難しい。逃げる髪を追うたびに、耳朶に触れ、首筋に触れ…と指先が彼の肌を滑っていく。
 その度に微かに動く体に焦りながらも、何とか結い終わり、最後にほつれた髪がないか、彼の顔を上から覗き込んで確認をした。
 その時、頬の辺りに強い視線を感じた。目線を下げると、すぐ近くに鋼の意思を感じさせる濃紫の瞳があり、その双眸は私をじっと見つめている。


カット263濃墨2


 その抗い難い光を放つ瞳に、体が縫い止められたように動けなくなった。
 絡み合う眼差しが時を忘れさせる。光も、影も、風も、木々の騒めきさえも遠いものになっていく。
 私の意識はただ、艶やかに輝く紫の瞳にだけ向けられ、その他のものは曖昧にぼやけて何も分からなくなった。 彼は私の頬の手を伸ばすと、そっと優しく触れてきた。そして、ゆっくりと感触を味わうように何度も撫でてくる。
「…俺が恐ろしいか?」
 彼が静かな声で問い掛けてきた。その声音に微かな不安を感じるのは気のせいだろうか?
「いいえ…」
「なら、何故怯えた顔をするんだ?」
「それは…あなたに嫌われたくないから。少しでも役に立ちたくて…でも自信がないから、いつも怖いんです」
「俺に嫌われたくない、か…」
 彼の声がどこか優しいものへと変わった。
「…あなたの役に立ちたいんです。出来ることは少ないけれど、…傍に居たい」
 だから、という言葉を続ける前に、頭を引き寄せられていた。そして唇に感じる柔らかな感触に、驚きに目を見開く。睫が触れ合うほど傍に、宵と黄昏の境目のような色をした瞳があった。いつもは峻烈な眼差しが、今は甘く艶やかな光を浮かべている。
 重なる唇に、体が小刻みに震えている。緊張と、どこか恐怖を感じさせる眩暈のするような口付け。 
 震える体を、彼が強く抱き締めた。その強さと暖かさに何故か涙が溢れてくる。

「千鶴」

 低く、妖艶な声が私の心を呪縛する。憧れが恋に代わり、恋が激しい愛に変わる瞬間。                     
 ――この口付けが私の未来を変えてしまう。

 そんな予感を胸に抱きながら、瞳を閉じて口付けに応えたのだった。




  1. 2013/05/04(土) 17:43:21|
  2. 頂きもの
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  1. 2013/05/05(日) 12:27:57 |
  2. |
  3. #
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みゃう様♪

こんばんは!
いや、ホントに今更のUPで、樺原さんには申し訳なかったです;
当時のイラストは、まだ描き慣れてなかった土方さんで―――今は見るのも恥かしくて…^^;
それにしても、樺原さんも今更ながら不思議に思っていたようでしたが、斎千贔屓の私に、何故土千を贈ったのかとw
まあ、それを含め、時間を置いて改めて描き直させてもらって却って良かったですww
みゃうさんにも褒めて頂き、ほっと一安心^^

御多忙の最中、薫のお受け取り&UP、ありがとうございます。
何か私の印象って、「誓う」より、薫の二面性の方が強かったみたいですね;
うーん、でもこれもその内、薫のみの話も描いてみたいと思う現れのようですv

今日はやっと初夏らしい天気になりましたね。
本当に、これからいい季節になる事を心より願ってます。
みゃうさんもお身体、ご自愛下さい。
  1. 2013/05/06(月) 00:07:27 |
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  3. ちょこ #-
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