皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「時を超えた宝物」

お知り合いになったばかりの「BlueRedIce」の香住さんから、『似非変若水騒動記』の続編SSを頂きましたー♪

6歳児になって、千鶴ちゃんと一晩同衾してしまった後の斎藤さん話ですw
確かに、真面目な斎藤さんなら、その後ナナメの方向で色々悩んでくれそうですよね( *´艸`)

こんな風に私の漫画からお話を作ってもらえるのは、本当に感激です。
いつもいつも皆さんありがとうございます^^
今回もとっても可愛いお話になっています。
どうぞ続きからご覧下さいませ。


◆いつものごとくの挿絵は、作者の香住さんに進呈しますので、お持ち帰りは香住さんのみでお願いします。




プロローグ


「……ふふ」

部室の掃除が終わり、着替えを済ませて、部室で髪の毛を整えようとポーチから鏡と櫛を出し、思わず微笑んでしまう。
周りから見たらさぞかし怪しく見えるだろうが、今日は部室の掃除をする事を決め、皆さんに先に帰ってもらったのだ。誰も見る人などいはしない。
この櫛と鏡は昨日お母さんから譲り受けものだ。お母さんのひいお祖母様の頃からの家宝らしく、代々長女が引き継ぐ品らしい。当然、私には見覚えないはずのものなのだけど…。

「ありまくりなのよね」

可笑しくてたまらない。
確かに、娘に「母様の大切なものだから、大切にしてね。出来れば家宝になさい。それだけの価値のあるものだから」と譲った品物ではあるが、何時から代々長女が受け継ぐ仕来りなどが出来たのだろう?
そして、それが再び私の手に戻ってくるなんて!
そう。この櫛と鏡は、前世の私の宝物だった品だ。
つまり私は、前世の私の玄孫、ということになる。
前世の自分と血が繋がっているなんて、とても不思議な気分だ。
再び記憶を持って転生して、同じ様に転生された皆さんと巡り合えた事と言い、なんという運命の巡り合わせなのだろう。
再び櫛に目を向ける。
代々ちゃんと手入れをされて来たのだろう。まだまだ全然使えそうだ。さすが、私の子供達。

「それにしても…」

柘植櫛とペアになるように柘植の木を使用されて作られた鏡をひっくり返し、そこに彫られた文字を見て、また笑いが振り返る。
少し読みにくくはなってしまっているが、まだ読める。…まあ、今の人には解読困難かも知れないが。
それにしても、あの時、あの人は、どんな顔をして、これを彫ってもらったのだろう?
クールなのに恥ずかしがり屋のあの人は、きっと顔を真っ赤に染めて…。

「千鶴、掃除は済んだか?送って行こう」
「さ、斎藤先輩!」

そういえばこの人も放課後の委員会当番で、皆が帰るまで帰れないと言っていたのだった。
今日は薫と一緒ではないらしい。
それにしても、タイムリーだ。
思わず吹き出してしまう。

「千鶴?どうかしたのか?」
「すいません。斎藤先輩。思わず…。これ、覚えていらっしゃいますか?」

心配そうに近付いて来る斎藤先輩に手にしていた櫛と鏡を見せる。

「何だ?柘植櫛か?……これは!」

斎藤先輩の頬が赤く染まる。



時を超えた宝物



カット237時を超えた宝物1

額に痛みが走る。

「さ、斎藤組長!?大丈夫ですか!?」

どうやら木にぶつかったらしい。
隊士が慌てた様に駆け寄ってくる。

「大丈夫だ。問題ない」
「で、ですが…」
「副長に本日の隊務の報告をして来る。お前達はもう休め」

まだ心配をしてくれる隊士を強引に下げ、副長の元へ足を向ける。
確かにこの所の俺はおかしい。
昨日の朝など味噌汁に味噌を入れているつもりで小麦粉を入れてしまい、あの総司まで心配されてしまった。
今の所隊務には支障はないが、今のままではまずかろう。
原因はわかっているのだ。
俺は数日前、山南さんの薬のせいとは言え、千鶴にとんでもないことをしてしまった。
薬のせいで中身が六歳児になっていたとは言え、嫁入り前の千鶴の、む、む、胸に触ってしまい、その感想を堂々と告げて、散々身体にくっつき、添い寝を強請り、朝までそのままー。
その上、翌朝元に戻り、厄介な事に六歳児に戻っていた記憶がしっかりあり(なかったとしてもそれはそれで千鶴に対して大変失礼なわけだが)、横に寝る千鶴に驚き、千鶴にした言動が蘇り、血液が沸騰した様な状態になり、池に長時間浸かった結果、高熱を出してしまい、千鶴に付きっ切りで看病させてしまった。
看病に関しては、千鶴は何故か少し嬉しそうだったが。
完治した後聞いたところ、不謹慎ではあるが何時も世話になっている俺にほんの少しでも恩を返せた様で嬉しかったそうだ。
千鶴の面倒は副長からの指令でもあるのだし、気にする事はないのだが、そんな事で喜ぶとは彼女らしいと言えば彼女らしかった。
それはともかく、本当に嫁入り前の彼女になんて事を!
これは、末代までの恥だ。切腹ものであろう。
いや、責任を取って彼女を娶るべきだろうか。
無論、熱が下がって速攻、彼女には土下座をして謝った。
俺がした事を思えば、土下座など当然だ。殴られても切られても文句は言えない。
だが、彼女は笑顔で許してくれた。あれは「斎藤さんではなく、はじめ君でしたから」と。
俺と、あの時の俺は別格、と割り切ったらしい。
切腹などとんでもないし、嫁に取る程責任を感じなくてもいい、と。
考えてみれば、嫁入り前の娘の胸を触って添い寝を求める様な男に嫁ぎたいとは普通は思わないだろう。
千鶴は優しいからはっきり言わなかったが、ひょっとしてこれは、求婚をして断られてしまった状態なのだろうか。
千鶴の態度に変わりは無いが、ひょっとして嫌われてしまったのだろうか。
もし、千鶴に嫌われてしまったのなら、それは……耐えられん。切腹より辛い罰だ。俺はそれだけの事をしてしまったのかも知れないが…。
ともかく、いろいろ悩んでしまって夜もろくに休息が取れないのだ。注意力が薄くなっても不思議はあるまい。
うっかりと気を抜けば、覚えている彼女の温もりと、香りと、柔らかさが蘇りー……。
熱くなる身体を誤魔化そうと、側にあった柱に何度か額を打ち付ける。

「さ、斎藤?おい、大丈夫…か?」

このままでは隊務に支障が出る日も遠くあるまい。
隊務を疎かにして副長に迷惑をかける位ならば、恥は打ち捨てー…。

「おい、斎藤?どうし」
「副長!」
「うぉ!何だ!?」

そうだ、副長ならば俺などより余程経験がお有りになるし、女子に詳しい。そして、総司や左之達とは違い、俺などの相談でも真面目に聞いてくださるだろう。
俺などの悩み事で副長の貴重なお時間を使わせてしまうのは大変遺憾なことではあるが隊務で問題を起こすことを思えば、多少マシであろう。

「折り入ってご相談が」
「相談?」

****************

「はぁん?つまり、お前は今だに先日の事を気にしていて、千鶴に謝って許しては貰えたが、すっきりせず、悶々としていると…」

副長は俺の辿々しい話ですぐに理解して下さった。

「はい!流石副長です!」
「…なんつーか、若けぇなぁ…」
「はい?」
「いや、何でもねぇ。しかし、謝って許してもらっても解決出来ねぇたぁ、真面目な斎藤らしい話だな。総司や原田なら、得した。で終わる話だぞ?」
「いえ、確かに千鶴は優しい女子なので許してくれましたが、求婚は断られましたし、内心では俺を嫌いになったのではないかと…」
「千鶴はそんな女じゃねぇよ。大体責任を取る様に求婚されても戸惑うだろうが。千鶴みたいな女は特にそうだろうな」
「成程。では、嫌われたわけではないと」
「あいつは、人を嫌える系統の人間じゃねぇよ。性格的にな。あの風間にすら、迷惑がっちゃいるが、嫌っちゃいねぇだろう」
「確かに」

流石は副長だ。お忙しいのに、千鶴を良く観ていらっしゃる。

「しかし、お前に使い物にならなくなられるのは困るな。そうだな…謝って許してもらっても駄目ということになれば…謝罪を形にしてみたらどうだ?」
「謝罪を形に….ですか?」
「ああ。贈り物、というやつだ。お前の事だ。使い道が思い付かず、給付金もそれなりに溜まっているのだろう?」
「はあ。それは、しかと」
「それであいつに花嫁道具になる程度のものを買ってやりゃあいい」
「花嫁道具……」
「その位の物を与えてやりゃあ、お前の罪悪感も緩和するんじゃねぇか?まあ、それ程の物となれば、千鶴みたいな女は遠慮して受け取らねぇかも知れねぇが、そこは渡し様だ。千鶴にしか渡せねぇようなもんを渡せば、恐縮しながらも受けるだろう。相手の真心を無にする様な奴じゃねぇからな」
「はぁ…」

****************

と、いう提案を昨日して頂き、丁度今日が非番だった所以、街に繰り出しているわけだが……。
花嫁道具になるようなもの、と言われても……。
千鶴の好きな物、と言えば、甘い物だろう。だが、花嫁道具に食い物はなかろう。
花嫁道具といえば、箪笥や鏡台…その様にでかい物を送っても、千鶴を困惑させてしまうだろう。
着物…は、どうだろう。少し前に芸妓に変した千鶴はこの世の者とは思えぬ程美しかった。
だが、着物には好みがあるだろう。
本人を連れて来れば一番良いのだろうが、副長の仰る通り、彼女は慎み深い、遠慮深い女性だ。一緒に連れて来て選ばせたら、「なら、お団子が良いです」などと言いかねん。
それでは何時もの土産と同じだ。
その様な物で俺の気持ちが収まるとは到底思えん。

「どうしたものか…」

そもそも俺は副長や左之とは違い、女子には詳しく無い。
何を贈れば千鶴は喜ぶのか…。
俺が詳しいと言えば剣だが、千鶴に贈るのは違う気がする。

「あら?斎藤さん?」
「ん?ああ……」

呼び止められ振り返ると、そこに居たのは千鶴の京での唯一の友人とも言える千姫だった。

「こんにちわ。千鶴ちゃん、元気ですか?」
「ああ、元気だが……」

やはり、女子の事は女子に聞くのが良いかも知れん。

「斎藤さん?」
「……唐突で申し訳ないのだが、千鶴の事で相談に乗って欲しいのだが…」
「千鶴ちゃんの事で?」

****************

「あはははははははっ!」
「その様に笑う事はないだろう。俺は笑う様な話をしたつもりはない」

突然の願いにも関わらず快く頷いてくれた千姫を団子屋に誘い、大方の事情を説明すると彼女は団子を片手に腹を抱えて笑い出した。

「す、すみません。千鶴ちゃんのことで相談なんて言うから何があったのかと思えば、そんな面白そうな事があったんですね!私も六歳の斎藤さんに逢ってみたかったです」
「…笑い事ではない」
「そ、そうですね。貴方に取っては大事件ですよね。…斎藤さんがこんなに可愛い人だとは思わなかったわ…」
「すまない。最後が聞き取れなかったのだが…」
「いいえ、気になさらないで下さい。それで、千鶴ちゃんへの謝罪を形にして渡したいんですね?」
「ああ」
「謝罪の形では千鶴ちゃんは受け取らないと思いますよ」
「何故…」
「確かに今の斎藤さんが故意にした所業であれば、最低です。潔く切腹するべきです」
「やはり、そうか」
「ですが、 千鶴ちゃんに甘えてしまったのは今の貴方ではなく、六歳のはじめ君なんでしょう?千鶴ちゃんもそう割り切って、すでに貴方を許してるんです。今更謝罪を形にされても困ると思いますよ」

成程。千姫の言う事も確かだ。

「しかし、それでは俺の気が済まぬ」
「だから、今の斎藤さんの謝罪としてではなく、六歳のはじめ君のお礼を形にしてみては如何ですか?」
「お礼を?」
「ええ。それなら遠慮しながらも受け取ってくれると思いますよ。それで貴方も、六歳のはじめ君が貴方の中に蘇ってしまって、お姉さんに優しくしてもらって、お礼をして戻って行ったと割り切ってください。あまり貴方が悩んでいると千鶴ちゃんも責任を感じてしまいます」
「それは、一理ある。だが、真にそれで良いのか?」
「良いと思いますよ。千鶴ちゃんが気にしていないんですから」
「して、どの様な品物を贈れば良いのか…」
「それはご自分でお考えにならないと…と、言いたいところですが、お団子のお礼に良いお店を教えてあげます」

****************

「成程。小物、か」

千姫が教えてくれた店は歴史ある小物店だった。
確かにこれならば大きさで彼女を戸惑わせてしまう事はなかろう。
それにこういったものならば、ちゃんとしたものを選べば長持ちするし、それなりに値も張る。

「…良いかも知れぬ」

しかし、意外に量が多い。
どれにしたものか…。
簪…。女性に贈るには最適なものだと思うが、今の千鶴には使えぬものだろう。
出来ることならば、使っているところが見たい。
千鶴が嫁入りするまで彼女の側に居られるとは到底思えん。
と、なれば、室内で使える品物が良かろう。

「いらっしゃいませ。何をお求めですか?」

莫大の量の品物に悩んでいるとタイミング良く店主が声を掛けて来てくれた。

****************

「成程。長く使えるもので、部屋で使えるものですか」
「ああ。値はいくらでも構わぬ」
「それはそれは…太っ腹な方で。それでは、当店一番人気のこちらは如何でしょうか?」
「…ほう、これは…」

店主が奨めてくれたのは、柘植櫛と、同じく柘植の木を使用したものだろう、揃いの鏡だった。柘植の木に美しい絵柄が彫られている。

「素晴らしい。さぞかし名の有る者が彫ったのだろう」
「いえいえ。手作りで一点ものなので値は張りますが、それは倅の作品でしてね。まだ出だしなのですが、これがなかなか好評でして…」
「これだけの品ならばそうであろう。特にこの様な鏡は初めて見た」
「ありがとうございます」

後ろから声がかかり振り返ると、俺と年齢が変わらぬように見える青年が穏やかに微笑んでいた。

「丁度今、新作を出しに来たんです。如何ですか?」
「これは…」

見せられた品物には、愛らしい鳥が彫られていた。千鶴が好きそうだ。

「素晴らしい。これを頂こう」
「ありがとうございます。うちの品物は全てがそうですが、きちんと手入れをして頂ければ孫の代までご使用頂けます。贈り物でしたら、この鏡程の奥行があれば御名前と短文を刻む事が出来ます。今でしたら、道具も揃っていますし、半刻程御時間を頂戴出来ましたら仕上げられますよ?如何ですか?」
「……短文か…それはいい。是非とも頼む」
「かしこまりました」

****************

「千鶴、入っても良いだろうか。あんたに渡したいものがある」

夕餉が済み、千鶴が部屋に下がってから部屋を訪れる。
本来ならば、この様な時間帯に女子の部屋を訪れるべきではないが、誰かに見られるかも知れん昼間に渡す事は俺には出来ん。

「え?斎藤さんですか!はい!」

中から驚いた声がし、千鶴が障子を開けてくれた。

「この様な時間に済まぬ。もう、寝ていたか?」
「いいえ!まだ起きていましたよ。それで、私に渡したい物とは?」

この様な夜分に訪ねても千鶴は、何時もと変わらぬ笑顔で迎えてくれた。
優しい女子と思うと同時に心配になる。他の者でも、この様な夜分に部屋に招き入れるのだろうか?入れるのだろうな、千鶴なら。
千鶴はもう少し、警戒心というものを持つべきだと思う。
しかし、今は説教をしている場合ではない。説教はまた別の機会にしよう。開けてもらえねば、俺も困る事だしな。

「斎藤さん?」
「あ、ああ。すまぬ。これを受け取って欲しいのだ」

木箱に入れてもらった櫛と鏡を千鶴に差し出す。

「わぁ…立派な木箱ですね。開けてみてもよろしいですか?」
「ああ」
「わぁ…!可愛い!」

中身を見た千鶴は目を輝かせる。

「気に入ってもらえただろうか?」
「え、ええ、とても…。ですが、こんなに高価な物…」
「その、鏡の裏を見てもらえぬか?」
「鏡の裏…ですか?」



ちづるおねえさん

ありがとう

はじめ



「これは……」
「それは、俺からの詫びの品ではなく、あんたに優しくしてもらった六歳の俺からの礼の品だ。貰って貰わねば、困る」
「……」
「千鶴?」
「斎藤さんは、ずるいです」

千鶴は少し怒ったように、頬を膨らませて見つめて来た。

「この様な高価な物、頂く訳には行かないのに、はじめ君からのお礼、などと言われたら、受け取らないわけに行かないじゃないですか」

ぎゅ。っと小さな鏡を胸に抱いてくれた。

「ありがとうございます。大切に……家宝にします」
「い、いや、そこまで大袈裟にしなくてもいい」
「いいえ、これはそこまでの品です。この品物の価値も、貴方の気持ちもー……」
「千鶴……」

柔らかに微笑む彼女が愛らしくて愛おしくて、抱き締めそうになる手を必死に抑える。
俺のこの手は血で汚れている。
眩しい程綺麗な千鶴に、気軽に触れる事など、許されないー。

カット238時を超えた宝物2



エピローグ



千鶴に、はじめとして、礼の品を受け取ってもらえた俺は、何とか割り切る事が出来、隊務に支障を来すことなく済んだわけだがー……。
その時の品が、今、目の前にある。

「な、何故、これがここにあるんだ」

思わず尋ねると、千鶴はおかしそうにクスクスと笑った。その笑顔は昔と変わらず愛らしい。

「時を越えて来たんですよ」
「時を?」
「家宝にすると言ったじゃないですか」
「それでは…」
「ええ。私は、前世の私の玄孫のようで。そう考えるとなんだか可笑しくて。これが再び手元に戻ってきたのはとても嬉しいですけど」
「そうか…千鶴はそれ程までにこれを大切にしてくれていたのだな…」

懐かしい品を手に乗せ、撫でる。

「当然です。私の宝物でした」

千鶴も櫛を手に取り、微笑む。

「そうか…しかし、改めて見ると、恥ずかしいものだな….」
「そうですか?私はとても嬉しかったですよ?」

そう言いながら髪をほどき、櫛を通そうとする。確かに少し乱れている。掃除をしていたのだから当然か。

「待て、千鶴。俺がやってやろう。こちらへ」

近くにあったパイプ椅子を引き、座る様に示す。

「え?そんな…悪いです」
「気にするな。俺がやりたいんだ。やらせてくれ」
「はぁ….では、お願いします」

千鶴から櫛を受け取ると、千鶴の髪を手に取り、櫛を通す。椿油の効果なのか、通す度にするんっと落ちる。

「…平和な世になったものだな」
「え?」
「あの時代の俺ならば嘆いたかも知れんが、今の時代、剣は必要ない。人を切ることもない。だから、俺のこの手も綺麗なままだ。あんたに触れることも、躊躇なく出来る」
「そんな!私は、あの頃の貴方の手も汚いと思った事など一度もありません!」
「頭を動かすな。遣りにくい」

振り返ろうとする千鶴の頭を両手で押さえ、やめさせる。

「あ…ごめんなさい」
「ほら。ゴム紐を貸せ」
「はい」

昔はポニーテールにされていた千鶴の髪は、今は昔の俺の様に横で緩く纏められている。
同じ様に纏めてやると、千鶴の形のいい耳が現れる。その耳朶にそっと口付ける。

「ひゃっ!さ、さ、さ、斎藤先輩!?」
「しっ。そのままで」
「そ、そのままでと言われましてもっ……」
「あの頃は、まるで責任を取る為のような言い方をしてしまった。あんたが拒否したのも無理もなかっただろう。だが今生はあんたを愛おしく思うが為、申し込もう。今の世ならば、あんたを傷付けるどころか、恐れさすこともなく護る自信がある。必ずあんたを幸せにすると誓おう。だから、千鶴。俺と………」

END


  1. 2013/03/22(金) 11:55:05|
  2. 頂きもの
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