皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「桜花抄」4

漫画に明け暮れてて、小説の方すっかり忘れてました^^;
こっそり読んで下さってる方、すみません。

ここに気付いて、読みにきて下さった上、パチパチしてくれて、
ほんとーに感謝です!!
コメントまで下さった方、ありがとーーーo(*>▽<*)o


ひとまず1章はこれで終わり。
次辺りから徐々にゲーム内容からずれていきます。

うーん…続くのか???


2012.12.16.記



 千鶴は、自分が男装して夜の京を一人歩いていたその事情を、事の初めから順序立てて説明し始めた。

「そうか…、君も江戸の出身なのか! 父上を探して遠路はるばる京に来たのか!」
 
 自分の住まいは江戸で、父一人子一人の家庭である事。
 仕事で上洛した父から連絡が途絶えた為、京へ探しに行こうと決心した事。
 女の一人旅が不安で、男装してやっと無事京に着いた所で、浪士に襲われた事―――
 それらの事情を話すと、狼の親玉のはずの近藤は、目を潤ませながら感極まった様子で声を上げた。
 千鶴は自分がまるで、お涙頂戴の口上を述べているかのような気がしてきた。そして改めて、この局長の人柄というものに触れた気がして、胸がほんのりと暖かくなったのだった。
 千鶴は自分の身体から、強張りが抜け始めていることを感じていた。

「して、そのお父上は何をしに京へ?」
 労るような声音で、近藤が改めて尋ねた。
「父は雪村綱道という蘭方医で―――」
「―――なんだと!?」
「え…?」
 千鶴が父の名を口にした瞬間、近藤の隣でそれまで彼女の話を黙って聞いていた土方から、驚きの声が発せられた。それと共に、周囲からも息を詰める様が感じられる。それまでの、年端のゆかぬ女の子の悲しい身の上話を聞いてやっている、というやや気の緩んだ雰囲気から、一瞬にしてその場の空気は一変したのだった。
「これはこれは…まさか綱道氏のご息女とはね」
「父を知っているんですか…?」
 静かに確認するかのように吐かれた山南の言葉は、突然変わった皆の様子と共に、再び千鶴に緊張を感じさせた。やっと抜けたと思った身体の強張りが、また戻ってきそうだ。千鶴はそんな戸惑いをのせ、恐る恐る問い掛けながら、自分の周りに座る新選組幹部らへ目を向ける。
(…皆さん、何だか複雑そうな顔…?)
 千鶴の問いに、誰もが言葉を選ぶような気まずい間をおいて、千鶴から目を逸らしている。

「…綱道氏の行方は、現在、新選組で調査している」
 その居心地の悪い沈黙を破ったのは、いいにくい真実も直裁に口にする人のようだ、と千鶴が感じた斎藤だった。だからそれはそのまま本当の事なのだと、千鶴はすぐさま直感した。
「新選組が父の行方を!? なぜ―――」
「あ、勘違いしないでね。僕達は綱道さんを狙ってる訳じゃないから」
 しかし千鶴の驚きを、世の新選組の悪評と今の彼女の状態から、父も命を狙われているのだと受け取ったのかと思ったらしい沖田が、斎藤の言葉を補足した。「同じ幕府側の協力者なんだけど…。実は彼、ちょっと前から行方知れずでさ」
「幕府を良く思わない者たちが、綱道氏に目を付けた可能性が高い」
 それを聞いた千鶴の目が見開かれたのを見て、斎藤は言葉を足した。「…生きている公算も高い。蘭方医は利用価値がある存在だ」
 千鶴は事実のみを伝える斎藤がそう告げた事で、詰めていた息を僅かに吐いてぎこちなく頷いた。
 確かに、蘭方医というだけで価値はあるだろうし、幕府側だからといって早々に命を奪われる事になるとは思えない。それよりも、全くわからなかった父の動向の手掛かりを持つ人々と、思いもかけない巡り合わせで知り合えたのは、僥倖だったと言えるかもしれない。父の行方の端緒を掴めた事を、今は素直に喜びたい。しかし…
 ―――何故父はそんなことに…?
 千鶴はわけのわからない成り行きに、不安が再び身体を支配するのを感じ、小さく「父様…」と呟いた。

「しかしこれで、綱道氏が見つかる可能性は、君のおかげで格段に上昇しましたよ」
 父の行方知れずの現実を、改めて目の前につきつけられて、胸苦しくなっていた千鶴の耳に、幾分朗らかな山南の声が届いた。
「綱道氏がここにきたのは、今年の夏から秋にかけての数回。それも主に会っていた者はもはやいません」
 千鶴はその『もはや』の部分に、不吉なものを感じたが、敢えて口を挟まなかった。その千鶴の様子に山南は薄い唇を僅かに笑ませて続ける。
「私や土方君は、沖田君たちより多少は多めに顔を合わせてはいますが、それでも片手に余る程度の対面です。禿頭であるという特徴を隠され、身形が変わっていたら、気付けないでしょう。そんな相手をこの京の町の中から、ひそかに探し出すのがいかに困難だったか、おわかり頂けると思いますが」
「…なぜ、ひそかに、なんですか」
「新選組が大っぴらに一蘭方医の行方を捜している、と知られたら―――倒幕派の連中はそこに何かあると、思うでしょうね。そして彼の命の危険性はもっと上がるでしょう」
「!!」
 千鶴は山南の意味する所に息を呑んだ。「…父は、命を狙われる様なことを何かしたんですか?」
 その問いに、山南と土方がさりげなく目を見交わした。
「…綱道さんはここへ幕府の要請で、隊士の健康管理に来てたんだよ。何回か足を運んでいる所を見られちゃいけねえ奴らに見られちまって、あらぬ疑いをかけられたのかもしれねぇな」
 土方が腕を組んで答えると、山南もそれに頷いて言う。
「我々荒ぶった連中より、簡単に制圧できると思われたのかもしれませんね。…確かな事は言えませんが」
 びくりとした千鶴に、山南は優しそうな笑みを向け宥めるように言う。「綱道氏にはお世話になりましたし、できるだけ早く保護したいのです。綱道氏の娘である君ならば、父親の行方を捜しているのを知られても大丈夫でしょうし、彼の身形が変わっていても看破できますよね?」
「…はい」
 千鶴が殊勝に頷くと、その場の空気が緩んだ。

「あの蘭方医の娘となりゃあ、殺しちまう訳にもいかねぇよな」
 土方がぞんざいで面倒そうな口振りで、宣言するように言った。「昨夜の件は忘れるって言うんなら、父親が見つかるまで、お前を保護してやる」
「ああ! 君の父上を見つける為ならば、我ら新選組は協力を惜しまんとも!」
 近藤がそれを追認する形で言葉を継ぐと、周囲からもほっとしたような空気と共に声が掛けられる。
「殺されずに済んで良かったね。とりあえずは、だけど」
 沖田の笑顔を素直に受け入れるのは難しかったが、千鶴は「はい」と頷いた。
「本来であればこのような男所帯より、所司代や会津藩に預けてやりたいんだが…」
 近藤の言葉には、それがどうしても叶わない大きな理由がありそうだったが、千鶴がそれを改めて訊こうかどうしようか逡巡していると、それを男ばかりの中に置かれる不安を表しているのかと思ったのか、
「不便があれば言うといい。その都度、可能な範囲で対処してやる」
と、斎藤が表情ひとつ変えずに、千鶴の思いもよらない言葉をくれたのだった。
「…ありがとうございます…」
 若い男に親切な言葉を掛けてもらった事など初めてと言っていい千鶴は、思わず頬に朱を上らせてうつむいて礼を言った。
 そのいかにも箱入りの堅気の娘らしい所作に、まず慌てたのは、当の斎藤ではなく、後ろでこの様子を見ていた永倉だった。
「ま、まあ、女の子となりゃあ、手厚く持てなさんといかんよなあ」
「新八っっぁん…」
 藤堂が呆れたように零す。「女の子に弱いなあ。にしたって、手のひら返すの早過ぎ!」
「いいじゃねえか」
 原田が笑いながら言う。「これで屯所が華やかになると思えば、新八に限らずはしゃぎたくもなるもんだろ」
 背後の三人の会話に千鶴は内心で、自分ひとりの存在で男所帯が華やかになるものだろうかと、首を傾げていた。


 ひとまず当初の部屋に戻され、そこでおとなしくしているように、と申し渡された。
 もはや縄つきではなかったが、中庭に面した廊下側に人影が見えることで、見張りがついたことを千鶴は知った。
 『保護してやる』と恩着せがましく言いながら、結局は千鶴を軟禁する意向は変わっていないらしい。
 千鶴一人にこれ程の厳重な警戒―――やはりあの昨夜の出来事は、それ程の機密事項だったのか。決して口外しないと確約しても、父が見つかっても、果たして無事自由になれるのか。
 いや、それよりも新選組には、父・綱道を『ひそかに』探し出さねばならないどんな理由があるのだろう。そもそも幕府の仕事で上洛したなどと千鶴は聞いていないし、それが本当だったとしても、行方知れずになったのなら父を京へ派遣した所から、何か家族の元へ知らせがあってもよかったのではないか。何か表沙汰に出来ない理由が…?
 千鶴は診療所で患者を診る父の姿を思い浮かべた。
 町医者として、市井の人々を優しい笑顔で診ていた父が、何かの陰謀に巻き込まれる…それはあまりに荒唐無稽のように感じられた。

 考えれば考える程、訳がわからなくなり、運んでもらった食事がなかなか喉を通らなかった。胸につかえるものを感じながらも、千鶴はそれでもゆっくりと全て平らげ手を合わせた。今夜はこの後、着替えを用意するから、内湯に入ってもいいと許しをもらっている。今はそちらの楽しみに目を向けよう。千鶴は大きく息をついた。
 何と言っても、年頃の娘としては、それは嬉しいことだ。
 昨夜、京に入ってから、あの騒動に遭遇し、そのまま捕縛され一夜を明かし、そして今朝からの話し合い。正直言って、旅の汚れを落とす機会があれば、と思っていたのだ。そしてどうせ正体がばれたのなら、本来の姿に戻りたい。男の子として振舞うのにも、気を張り続けで、いい加減疲れていた。
 千鶴は声が掛かるのを、今か今かと待ちわびた。




「…これは偶然だったのでしょうかね」
 近藤の部屋に座した三人の内の一人―――山南が、行灯の灯りに眼鏡を光らせ、千鶴に見せていた愛想のかけらもない声で対面の土方と近藤に言った。「あまりに都合のよい遭遇のような気がしてならないのですが」
「あの小娘が、倒幕派のどこぞの藩の間者だとでも?」
 むっつりと返した土方に、近藤が驚いた顔をする。
「あんな年端もゆかぬ女子が、間者などのはずがなかろう! 俺はあの子の言う事に何ひとつ疑うものはないと断言するぞ!」
「…近藤さん、一体どこからその自信が出てくるんだ? あの小娘には今朝会ったばかりだろうが」
「あの子の目を見れば、嘘を言っているか真実を言っているかくらいわかるぞ! 相手の目をあんな風に真っ直ぐに、曇りのない輝きを宿した目で見れる者に、悪い者はいない!」
「そういう精神論をぶち上げられてもなあ…」
 いつもの近藤と土方のやり取りに、山南は小さく眉を寄せた。このまま話していても、土方は結果的に近藤の意を汲み取る方向へ落ち着くだけだ。それも今は仕方がないだろう。確信がある訳でもないことをあれこれ言っても、結論は出ない。それより山南は、この二人が問題にしていない事を気付かせる事の方が大事だと判断した。新選組を束ねる三人には、『雪村千鶴』が何者であれ、特に留意しなければならない点がある事を確認しておかねばならない。
「…本人が気付いていないだけの間者だ、という可能性もありますよ」
「何!?」
「それはどういう事だね」
 土方が山南の言葉にその優美な眉を吊り上げると、横から近藤が問い質した。
「あの子が女子だという事が問題なんですよ。彼女の処遇は少し考えた方がいいでしょう」
「まだガキじゃねえか」
 山南が何を心配しているのか、さすがに女慣れした副長には察しがついた。「あんな男子か女子かまだ区別もつかねえような子供、誰も手なんか出さねえだろ。世話んなった先の子を預かる事になった、とかで問題ねえんじゃないか?」
「甘いですね、土方君。ここにいる皆があなたのように女に不自由してない訳じゃないんですよ。それにあの子の言い分を信じれば、彼女はそこらの町民の子と違って、幕府お抱え医師の一人娘という事ですよ?」
「それが何だって―――」
 
「―――近藤さん、いいですか?」

 襖の向こうから、土方の言葉を切るように沖田の声が掛かった。


「何だ、てめえは今あの小娘の見張りじゃなかったか? 何ふらふらしてやがる!」
 わずかに開いた襖の隙間から覗いた捻くれ者の弟分の目が、面白い物を見つけたといった輝きを乗せているのに嫌な予感を覚え、土方はぞんざいに言葉を投げた。
「あれ、土方さんも山南さんもここにいたんだ。丁度よかった」
 沖田は飄々とした顔で室内を見回してにやりとした。「ちょっとお伺いを立てたい事がありまして」
「どうした、総司、雪村君のことかね?」
 近藤の問いに、沖田の顔には今度は純粋な笑みが浮かんだ。
「さすが近藤さんですね。誰かさんと違って、責めるよりまずその理由をちゃんと察してくれるんだから」
 その含む言い様に土方が抗議の声を上げようとすると、すかさず沖田は背後に声を掛けた。「千鶴ちゃん、入ってきて」
「…はい」
 沖田が襖を人一人通れる程押し開けた。その腕の下をくぐり抜けてきた、白い小さな姿を目にした室内の三人は言葉を失った。

「…あの?」
 全員の注目を浴び、その本人―――千鶴は小首を傾げた。
「ほらお礼を言いに来たんでしょ?」
「あ、そうです」
 沖田に促され、千鶴はその場に正座をすると畳に手をついた。「この度はお世話を掛けてすみませんでした。それとこの着替えとお湯、ありがとうございました。長旅の疲れがこれですっかり癒えました。ご面倒をこれからも掛けると思いますが、どうぞこれからよろしくお願い致します」
 綺麗な所作でお辞儀をする目の前の少女に、その場の三人は声も出せなかった。そして、ただただその匂いたつ前の開きかけの蕾のような初々しい姿に、見蕩れているだけだった。


「それじゃ平助、きちんと千鶴ちゃんを部屋に連れてって」
「お、おうっ!」
 
 いつまでも返事のない三人に千鶴が訝し気な顔を上げた所で、後ろに立つ沖田が、廊下に待つ藤堂へ声を掛けた。

「ね、あれ、どう思う?」
 風呂上がりの千鶴より赤い顔をした藤堂に連れられて千鶴が下がった後、沖田はその場に胡坐をかいて座すとおもむろに三人に問い掛けた。
「どうもこうも―――」
「髪を下ろし、白い夜着を纏った湯上り姿は―――」
「子供だと思っていたがあれじゃあ…」
「平助の様子見たでしょ。舞い上がっちゃってさ。それだけならいいけど、躾の悪い平隊士とかがあの子の今の様子を見ちゃったら―――」
「いかん! いかんぞ! 預かりものの女子に、傷をつけてはいかんぞ!!」
 近藤は沖田の言葉を正しく受け取ると、赤くなって力説した。
 確かに―――土方は、先程の山南の心配が杞憂ではない事を実感した。
 八木家の奥方の単衣を借り着した湯上りの少女は、もはやどこからどう見ても男子には見えなかった。
 下ろした濡れ髪を配下の斎藤のように首元でひとくくりにした千鶴は、単衣のせいで柳のようなしなやかな身体の線がはっきりとわかり、汚れを落とした肌は薄暗い灯火の元でも艶やかになまめいて白く光って見えた。何より、一歩室内へ入ってきた途端、少女からと思われる甘い香りに、彼等はあてられてしまったのだった。
「ありゃあ、まずいな」
 色事には百戦錬磨と自負する土方も、一瞬あっけにとられた程だった。
 あれでは子供だガキだと言って放っておくわけにはいかない。
「だから言ったでしょう」
 山南が溜息混じりで眼鏡を押し上げながら言う。「彼女は苗字も許された身分のある子女なんですよ。それなりの教育も受けてきたでしょうし、何事もなければそこそこの家禄の武士の許にも嫁に行ける者です。ちゃんとした格好をすれば、多分相当の見栄えがするでしょう―――と、実際に証明されましたね」
「今も美人さんだが、後数年もしたら、誰もが嫁にほしがるような相当な美人さんになるだろうに、こんな所に置いていいのか」
「近藤さん、問題はそんな事ではありません。そもそも女性をこの屯所内に住まわせる事が外に漏れたら、それだけで色々探られるはめになるんです。それがあんなに目立つ少女では…。ここはやはり男装を続け、男のままでいてもらうしかありませんね」
 山南の反論は許さないという語調に、近藤はむうと言って腕を組み、土方は面倒事が増えたと顔を歪ませた。
「にしても前髪のガキをどんな名目で…ああ、誰かの小姓にしたらどうだ? 近藤さんとか山南さんとか―――」
 ポンと手を打った所で、上司のやり取りをおかしそうに眺めていた沖田が口を挟んだ。
「やだなあ、土方さん、そういう時は言い出しっぺが責任取らなくちゃ」
「そうだな、トシの傍なら安心だ」
 近藤が即座に笑顔で賛同した。
「役者顔の土方さんの傍なら目立たないんじゃないかな、ねえ?」
「そういう事で、土方君、彼女の事よろしくお願いしますね。くれぐれもバレないように」
「…てめぇら…」
 土方は沖田の画策を知って歯噛みしたが、全員のにこにこ顔の念押しに反論する気も失せた。



「―――山南さん」
 近藤の部屋を辞し、廊下で山南と二人きりになると、土方は抑えた声で呼び止めた。「あんたがさっき言ってた『自覚のない間者』かもってぇのは、この事か?」
「…男の群れの中に女をひとり放り込んだら…」
 山南も低く呟き答えた。「男たちの和を乱すのに、これほど格好の餌があるでしょうかね」
「……」
 土方はとんでもない火種を抱えた気分に、重い溜息をついた。


へ続く
  1. 2000/12/27(水) 00:00:00|
  2. 小説
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