皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「蓮の露」

桜夢記」のロカさんから『看病シリーズ』四作目を頂きました^^
いつもありがとうございます!


今回は平ちゃん♪

当家では只今絶賛不憫街道まっしぐらですので、幸せルートの彼に癒されました。
よかったね、平ちゃん(T-T)
しかし、やっぱり平ちゃんとちーちゃんの恋の始まりって、どなたもこういう中坊なみの初い印象なのかwww
かわいいよ! 二人共!
で、それにつられて、やっぱり千鶴が子供っぽくなってしまいましたw

そんな私のいつもの挿絵付きで、続きからどうぞ♪


蓮の露


 周りはいつも男ばかり。

 夜が明けるまでばか騒ぎをしたり、剣術の稽古に明け暮れたりする日々も、それはそれで楽しいし、なんの不満なんてない。

 左乃助や新八と色街へ行ったって、目的は女と云うよりも酒や屯所では食えないような食事。

 色気がねぇなと新八に言われても、仕方ないじゃないか、とふてくされて返すしかない。周りに平助が気になる娘なんていないし、新選組の幹部である自分を好いてくれるような奇特な娘なんかもいるわけない。

 そんなときに綱道の娘だという雪村千鶴という少女を新選組が預かることになったのだ。

                     ❧

「俺のことは平助でいいよ。お前とは年も近いだろうしさ」

 そう声をかけたのは気まぐれだったのかもしれないし、自分と同じ年頃の娘が物珍しかったからかもしれない。

 所詮は綱道が見つかるまでの一時この場所にとどまるだけなのだ。だから『よりによって総司や一君に監視をされて可哀そうな奴』と思ったくらいだった。

「じゃ、あ、平助君……」

 返る返事になんだか驚いた。

 女の子ってこんなに柔らかい声で話すんだ。まるで口の中で消えてゆく金花糖のようだ。

 最初は男だと思っていたから、なんてひょろひょろとしたほそっこい奴、と思っていたのに、何故か急に気恥ずかしくなった。

 千鶴は女の子、なのだ。

 それなのに遠い江戸から京まで旅をしてようやくたどり着いたのに、不逞浪士に襲われて、羅刹に殺されかけて、挙句、こうして新選組預かりの身になったのに、この娘は笑えるんだと思った。

 その笑顔がなんだかとてもきれいだと平助は思った。

                     ❧

 冬の雨は冷たい。

 それでも巡察をしないわけにはいかないし、視界が悪くなる分、厄介なことを考え付く輩も多いだろう。

 吐く息は白く、手も冷たくかじかんでいた。

 振り返って部下たちを見やると、みんなぐっしょりと全身を冷たい雨に濡らしている。中には歯の音が合わずに震えている者もいる。

―やばいなぁ。こんなとこで集団で襲われたら厄介だな。

 早く巡察を済ませて、屯所に戻ろう。この状態ではまともに刀を振るえない者もいるだろう。なによりも修羅場になった時に足元が悪い。

「急ぐぞ、お前ら!」

 心持ち歩みを速める。巡察とはいえひとたび不逞浪士や薩長の者が現れれば、そこは戦場と同じだ。だから、気を抜きことは出来ない。ましてや自分は組長なのだから、しっかりと部下たちを守らなくてはならない。

「帰ったら、ゆっくり休めるからな」

 そう屯所に帰れば千鶴が出迎えてくれるだろう。いつもの笑顔を向けて、御苦労さま、と声をかけてくれる。

 そうして近頃では土方に勝手場への出入りを許されたから、何か暖かいものを用意してくれるだろう。

 そう思うと平助の頬に笑みが浮かんだ。

 気配りは出来るし、なにより働き者だ。嫌な顔一つしないでいつも独楽鼠のように働いている。

 総司などは悪ふざけをしてからかってばかりだが、そんなことは平助には出来ない。

 そんなことをしたら、千鶴の笑顔がビードロ細工のように壊れてしまうのではないかと不安になる。

―俺、どこか変なのかな……。

 こんな風に誰かのことが気になるなんて初めてだ。

 千鶴が笑えば嬉しいし、寂しそうな顔をしているのは嫌だ。そのくせ誰かと楽しそうにしていると胸の奥が痛むような感じがする。

 そんなことをぼんやりと考えていたのが悪かったのかも知れない。

 そう思ったのはあとのこと……。

                     ❧

 平助が足を引きずりながら屯所に戻ったのは、それから数刻のちのことだった。

 部下の肩を借りて辛うじて立っていられるような状態だ。

「骨は折れてねぇと思うんだけどさ」

 あれから不逞浪士と思われる連中とやりあって、寒さで動きが鈍っていた一人の平隊士を庇って平助は酷く左足首をひねったのだ。

「だらしないなぁ、平助君。誰かを庇ったぐらいでけがするなんてさ。それに組長に怪我させた原因を作った隊士も切腹ものだよね」

 濡れ鼠のような状態の平助に総司が相変わらずの毒舌で呆れたように呟いた。

「俺が勝手に庇って、勝手に怪我したんだから、そんなことは関係ないだろう、総司!」

「まぁ、これぐらいですんだのだから、良しとするべきだろう。総司も簡単に物騒なことを口にしてはいかんな」

 近藤が二人の間をとりなすように、声をかける。

「平助君、これ……」

 そこへ割って入るように千鶴が手ぬぐいを平助に差し出した。

「ありがと、千鶴」

 冷たく濡れた隊服を脱いだだけで、まだ平助自身は濡れたままだ。自分よりも先に部下を着替えさせて、怪我をさせる原因を作った隊士に、気にするな、と声をかけてそのまま近藤や土方への報告を優先させたのだ。

 唇を紫色に染めて、足も痛むだろうに、組長としてきちんとした態度を崩すつもりは微塵もないのだろう。きちんと坐して、近藤と土方にいきさつを精細に説明している。

「わかった。とにかく、さっさと着換えろ! 見てるこっちが寒い!!」

 口は悪いが平助の体調を案じてのことだろう、土方が話をそれで打ち切った。

 が、限界も来ていたのだろう。平助はひねった足首を抱えてほんのわずかだけ蹲った。

「平助君!」

 千鶴が慌ててそんな平助の元へと走り寄った。

                     ❧

「ねぇ、千鶴ちゃん。それ、なに……?」

 蹲った平助を原田と永倉が慌てて着替えさせている間に、ぱたぱたと千鶴は勝手場へと走って行った。

 勝手場で千鶴が取り出し、作りだしたものを見て、一応監視の名目で彼女についてきた沖田が恐々と問いかけた。

 勝手場で千鶴が持ち出したのは明日の朝にはみそ汁の具になるはずだった豆腐。そして饂飩粉。それらに酢を加えてよく混ぜる。酢と豆腐、それに饂飩粉がまじりあって何ともいいがたい匂いが勝手場に漂っていた。

 千鶴はそれにほんの少しだけ冷たい井戸水を加えるとさらによく混ぜた。

 その三つがしっかりと混ざると、今度はそれを乾いた手ぬぐいにまるで漆喰をぬるようにして広げてゆく。それと一緒に使うのだろう、油紙もいつしか用意されていた。

 千鶴はこれをいったいどうするというのだろうか。沖田は腕を組んで彼女の様子をじっと見つめていた。

「明日にはお医者様に見ていただけるそうですけど、取りあえずは張り薬の代わりです。ひねったり、くじいたりした方が骨を折るよりも治りが遅いですから」

 千鶴から返ってきた返事に、沖田は足をひねったのが自分ではなかったことを心から感謝した。

 周りの者が思っていたより酷くひねったのだろう、平助の足首は酷く腫れて紫色に変わっていた。それでも痛むとは口にしないで耐えている平助に、千鶴が思いついて出来るのはこれぐらいのことだった。

 この新選組の世話になることになって、一番最初にごく普通に接してくれたのは平助だった。平助にとってそれは取るに足らないことだったろうが、不安で押しつぶされそうだった千鶴の心へ微かに暖かいものが灯った気がした。

 あの一言で千鶴はなんとか頑張ってこられた。

 だから、こんなときぐらいは役に立ちたい。平助の為に何かしたい。そうして、いつものようにお日様みたいな笑顔を見せてほしい。

―平助君は、迷惑かも、知れないけど……。

 それでも千鶴は平助の笑顔が好きなのだ。だから、笑っていてほしい。苦しそうな顔なんて見たくない。

―私、変なのかもしれない……。

 こんな風に誰かが気になるなんて初めてのことだ。

 だから、こんなことしかできないけど、迷惑かもしれないけど、平助の役にたてるのなら役にたちたい。

                     ❧

「失礼いたします。雪村です」

 誰がいるともわからないから、平助の部屋の前一旦立ち止まり声をかける。

「おう、入ってこいよ」

 中から聞こえてきたのは原田の声だ。

「失礼します」

 それでも礼儀正しく部屋の中へと入る。そこには平助を心配してだろう、原田と永倉の姿があった。

「千鶴ちゃん、その匂いの元はなんだぁ?」

 いち早く酢の匂いに気がついたのか、永倉が千鶴の用意してきたものを覗きこんだ。

「膏薬のようなものです。きちんとしたものは明日お医者様が持ってきてくださると思うのですが、取りあえずこれで足首の腫れが少しでも引けばと思って……」

「こんなの大したことねぇってのに、わざわざありがとよ、千鶴」

 痛みをこらえながらも、それでも殊更に明るく平助が言ってのけると、千鶴の頬が淡く染まった。

 その様子に原田は眼を細めた。このまま、ここにいては野暮以外のなにものでもない。

「んじゃ、あとは千鶴にまかせて行くぞ、新八」

「ん、あ……。そうだな、千鶴ちゃん、頼むぜ」

 二人の間にある微かのものを感じ取ったのか、永倉も原田に続いてそのまま部屋を出て行った。

「なんだよ、二人とも……。さんざ、俺のこと、鈍くさいだの、心がけが悪いだの、言いたいだけ言って行っちまって」

「お二人とも、平助君のことを本当は心配してらっしゃるのよ」

 ふぅわりと微笑む千鶴の顔から瞳が離れない。

―やっぱり、俺、変だ……。

 そんな千鶴の笑みを見ると、足も痛むけど、それよりもなんだか胸が痛いような気がする。千鶴がこうして傍にいてくれて、うれしいのに切ないような気持も溢れてくる。

「あの、足……」

 千鶴の小さな声で我に返った。いま千鶴のことを考えていたとわかってしまっただろうか? 平助の顔がわれ知らず赤くなる。

「え、」

「足出してくれる、ひねった方……」

 そう言われて慌てて、ひねった足首を千鶴の方へと向けた。

「少し匂いが気になるかも知れないけど、薬がない時にはこれを使うと腫れが引くの」

 恥ずかしそうな声で説明してくれる。千鶴の柔らかな手の感触が冷たくて気持ちいいけれどくすぐったくも感じた。でも身動きしたら千鶴が消えてしまいそうで平助は息を止めるようにして、丁寧に手当てしてくれるその優しい感触を感じていた。

 正直に云えば、かなり辛かったのだ。だが、それを口にすると部下に責が及ぶ。それは平助の矜持が許さなかった。だから、皆の前では出来るだけ平気な顔していたのだけど……。

 手当てが終わると、千鶴はふんわりと湯気の立つ湯飲みを渡してくれた。ゆず香りにほんのわずかだが生姜の匂いがした。

「夕餉があまり食べられなかったみたいだから、葛湯を作ったの。身体も温まるし、嫌いじゃなかったら食べてくれる……」

「ありが、と」

 添えられた匙で一口ずつ大切に味わうと、身体だけでなく心も温まるような気がした。

「うまいよ」

「良かった」

 まるで花がほころぶような笑顔だった。

―そっか……。

 その瞬間、平助は思った。

―俺はこの娘を守りたいんだ。この笑顔を守っていきたいんだ……。

                     ❧

 それはまだ二人が互いの気持ちに名前をつけられなかった頃のこと。

蓮の露


―おわり―

  1. 2012/10/20(土) 16:21:22|
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