皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「冬芽」

雨夜桜」の雨夜様からの頂き物です♪


風間√で、ゲーム内ではそれ程詳しく描かれていなかった、千鶴とちー様と天霧さんの3人北上紀行を読みたいと言ったら応えて下さいました。
ありがとーー(^o^)/
しかし以前自分でも、ちー様の家族計画をネタに4コマにしたけど、実際こんな旅を何ヶ月もしてちー様ってばよく我慢できたよねーw(何を、とは聞かないで;)
なので! この後の続きも是非書いて下さい!



さて、頂き物に勝手に挿絵はどうなんだろー…といじいじしてたら、皆さんから優しい言葉を頂き、復活してしまいました^^;
快く許可して下さった雨夜さんも、ありがとー♪
早速描かせてもらいました。お気に入りましたら、作者の雨夜さんのみ、お持ち帰り下さいませ^^

では今回も私の絵付きで、続きからどうぞ





冬芽



(早く、早く追いつきたい……)
千鶴の頭にはただ新選組に追いつく事、それだけだった。

鳥羽伏見の戦の混乱で隊から逸れてしまった千鶴は新選組と合流すべく、風間らと共に江戸を目指し東へと足を進めていた。

大阪を発ったのは1月、まだ行程の半分も足を進めていないというのに、身体は寒さと疲労で強張り、一歩一歩足を進めることさえ容易ではない。しかし新選組の全員が無事大阪を脱出できたのか、怪我などしていないかと思うと心配でならず、心配が焦りとなって千鶴を追い立てた。

しかし江戸までの道中、東海道はまだ旧幕府軍の勢力圏であり、薩摩に助力している風間達からすれば敵陣中。無用な戦闘を避ける為には街道から離れた森の中を行くしかなく、雪で視界も悪く、ぬかるんだ足場の悪い森の中を行けば、千鶴の手足は無数の傷を作っては消えていった。

いくら強靭な肉体と体力を持つ鬼の眷属とはいえ、女鬼は傷の回復力こそあれ人間のそれと変わりはしない。
鍛錬を積んだ屈強な男鬼の風間達とは違い、千鶴がいくら足を速めたくとも、疲労した身体は思うように動かない。
時折木の根に足を取られながら、息を切らせて必死に森の中を進む千鶴に見かねた天霧が、先頭を進む風間に声を掛けた。

「風間、随分と雪村君が辛そうです。まだ早いですが丁度家らしいものもある。今日は此処で宿をとりませんか?」

天霧の視線の先には、廃屋のような建物が木々に隠れるようにひっそりと建っていた。
しかしまだ日は天上にあり、夕刻までも随分と時間がある。

「いえ……私は……まだ……、大丈夫です…」
「ですが………」

天霧の言葉に千鶴は息を切らせながら答えると、風間がぴたりを足を止め、すぐ後ろを歩く千鶴に振り返る。突然風間が足を止めた為、千鶴は彼の胸に顔をぶつけてしまった。

「うぶっ…………す、すみません…」

一見細身に見えてもやはり鬼の頭領、鍛えあげられた体は筋肉質で硬い。自分の胸元で痛そうに顔を顰めて鼻を擦る千鶴を一瞥してから彼女の後ろにいる天霧へと視線を移した。

「…………天霧……今日は此処で休む。」
「分かりました。」
「え!?でも……まだ昼の八つ頃ですよ?……」

今まで道中、丁度宿があればそこで早めに休むことはあっても、さすがに昼過ぎて間もないうちから足を止めた事等なかった為、千鶴は戸惑いながら遠慮がちに口を挟んだ。風間はそんな千鶴を見定めるように目を細め、呆れたように溜息を洩らした。

「………足元をそのようにふら付かせて、お前は己の限界すら分からないのか……」
「……え?」
「……次の宿場までは2里以上ある、その先は峠越えだ……このまま進んでも、お前の今の状態では足手まといになるだけだ。」
「……………」

千鶴は言われて改めて己の身体の状態に意識を向けると、体があちこちが軋むように痛み、突然鉛のように重く感じられる。寒さで体が悴んで感覚が鈍かったこともあるが、木の根に足を取られた時足首を挫いてもいた。
新選組に追いつかねばと焦りに囚われていた千鶴が、改めて己の身体の状態を自覚してしまえば、無意識に誤魔化していた痛みや疲労がどっと押し寄せて意識に霞がかり、身体は地に落ちるように、ガクンと力が抜けて倒れ込む。
しかし千鶴が土の感触を覚えることはなかった……地に落ちる瞬間に差し伸べられた風間の腕が、千鶴の身体をしっかりと支えていた。
薄れゆく意識の中、冷えた己の身体を抱き抱えられた感覚と、背を支える風間の腕から温もりがじんわりと伝わり、不本意ながら彼の体温が心地良いと感じていた………

*****

パチパチと音がする……   

体が温かい……


千鶴はうっすらと意識を回復させてゆっくりと体を起こした。
見覚えの無い小屋の中、囲炉裏でパチパチと焚き木が爆ぜる音がする。赤く色つき小さな火を灯した炭が、雪の降る中歩き続け、氷のように凍えた体をじんわりと暖めてくれる。

意識を失っていったいどれくらい経つのだろう。格子窓の隙間から赤橙色の光が射し込み、千鶴の周囲を照らしている所を見ると、既に夕刻のようだ。

体を冷やさぬようにと掛けてくれたのか、黒い羽織が千鶴の体に掛けられている。しかし周囲には人の気配はなく、羽織の持ち主も見当たらない。
羽織を胸に抱き、キョロキョロと辺りを見回して風間達を探していると、戸がガラリと開いて風間が入ってきた。

「……目覚めたか……」
「風間さん……」

風間に続き天霧も入ってくるかと思ったが、天霧が入ってくる気配は無い。

「あの、天霧さんは?……」
「……天霧は今夜の食料を調達しに行っている。」
「そうですか………あ、あの……この羽織有難うございました!」
「…………」

慌てて千鶴が差し出した羽織を黙って受け取りパサリと羽織ると、千鶴と火を挟むようにゆっくりと腰を下ろした。

改めて風間の顔を見ると、意識を喪う前に風間に抱き抱えられた事や、彼の体温を思い出してしまい、恥ずかしさに頬が赤くなる。それでもちゃんと迷惑を掛けた事を謝罪せねばと、頬を染めながら火越しに風間に向き姿勢を正す。

「風間さん……先程は大変ご迷惑をお掛けしました……」
「…………………」
「あの……私どれ位気を喪っていたんでしょうか?」
「………一刻程だ」
「えっ!?そんなに………」

(一刻(約2時間)も気を失っていたなんて………)

自ら彼らに着いて行くと決めたのに、自分の体力すら自覚せず気を失い、あまつさえ面倒迄見させている事に申し訳なく、千鶴は力無く俯いた。
風間達のように見張りも食料調達の為の獣を捕らえる事すら出来ない。そんな自分の無力さに苛立ちさえ覚える。
俯きながら唇を噛み締めていると、勝手口のほうから物音がして、猪を背負った天霧が現れた。

「おや雪村君、気がつかれましたか……体のほうは如何ですか?」
「お蔭様で挫いた足は治りましたし、体も随分楽になりました……天霧さんにもご迷惑を……すみませんでした。」
「いえ、私は特には………」

そう言いながら、天霧は一瞬チラリと風間のほうへ意味ありげに目を向けるが、すぐに千鶴に視線を戻した。

「お腹減ったでしょう?今夕餉の支度をしますので……といっても猪肉と米だけですが。」

「そんな……私もお手伝いします。」
「…そうですか、それではお言葉に甘えて少しだけお願いします。」

千鶴は荷物から紐を取り出すと、シュルリと襷がけしながら土間に下りた。
天霧は慣れた手つきで猪の首を落として血抜きし、毛皮を剥ぐ。
その間千鶴は土間の竈に火をくべ、千鶴が倒れている間に、天霧が外の井戸から汲んできた水瓶の水を鍋に入れて窯に乗せる。その鍋に、昨晩宿を取った街で調達した米と、小刀で削いだ猪肉、味噌を入れて煮込む。

天霧と肩を並べて土間に立ち、共に料理をするなど凄く新鮮な気分だ。また天霧の大きな体と、手馴れた仕草で料理をする姿がなんとも不似合いで、千鶴はクスリと小さく笑みを零した。

「ん?雪村君どうしましたか?」

千鶴の笑みの訳がわからないという感じで、天霧が人のよさそうな微笑みを千鶴に向ける。


「いえ、天霧さんがあまりに料理が手馴れてらっしゃるので……普段お料理されるんですか?」

あぁと納得いったふうに天霧が頷いた。

「風間が薩摩の仕事を受けて京にいる間、ずっと私が作っていましたから。」
「え、そうなんですか?……」
「そうですよ。飯炊きに下女を雇うことも出来ますが、元来我ら西の鬼の一族は人間と関わることを善しとしませんから、出来る事は自分らでやっているのですよ。」
「そ、そうなんですか……なんだか意外です……」
「そうですか?」

天霧は千鶴にニッコリと微笑む。一方で薩摩藩邸に居た時も天霧が自ら飯を作っていたとは、千鶴は驚きを隠せなかった。
天霧は厳ついその見た目とは逆に温和な性格なのかもしれない。屯所であった時も二条城で会った時も、天霧はできるだけ戦闘を回避しようとしていたし、基本刃物を使った戦闘を好まないようでもある。

しばし米と肉が煮えるまで手が空いてしまった千鶴は、天霧と戦った隊士達を思い出しながら、ふと新選組の事が頭を過った。

戦の直前狙撃され重傷を負った近藤さん…、労咳で歩く事もままならなくなっていた沖田さん…。治療の為大阪城に運ばれたと聞いたがその後はどうなったのだろう……。そして鳥羽伏見の戦で出撃した隊士達の、血に濡れた姿、砲撃の爆発と銃撃音。燃えさかるる京の都……
千鶴が目にした光景が、フラッシュバックのように想いだされて体に震えが走りだす。
あの激戦の中皆無事だろうか、大阪城の近藤さんと沖田さん達も、無事江戸に脱出できただろうか……。
最悪の事態が頭に浮かんでは消え、竦み出した足をかばうようにしゃがみ込み、必死に涙を堪えている千鶴の肩に、天霧がそっと手を載せた。

「……新選組の彼らに早く会いたいですか?」
「………はい……」
「……いくら我らが森の中を進もうと、彼らは軍を率いて動いているのですから、いずれ合流出来るでしょう……今は心細いでしょうけが、我々は着実に彼らに近づいていますよ……」
「…………はい」

千鶴は手拭を取り出して涙を拭くと、まだ震える足で立ち上がり、再び涙が零れないように眉を寄せながら微笑んだ。

「天霧さん、ありがとうございます。ちょっと顔、洗ってきますね………」

そう言いながら天霧にペコリと御辞儀すると、千鶴は勝手口からパタパタと走って小屋裏の井戸に向かった。


千鶴が勝手口から外に出ると、昼迄ちらついていた雪も止んだようで、空は茜色の夕焼けで鮮やかに彩られている。
家屋の裏側にある井戸に来ると、桶を下ろして水を汲んだ。

「冷たいっ……」

さすがに真冬の井戸の水は、先ほど天霧が汲んでいたからか凍ってこそいなかったが、水に触れた指先が刺すように冷たい。
冷たさを堪えて桶から水を汲むと、いまだ涙で滲む目を冷やすように顔を洗った。

「……ふぅ……駄目だな、私……」

冷水でピリピリする顔を手拭で拭うと、深い溜息をついて肩を落とした。

……大阪で風間に助けられ、江戸までの道程の同行を許してくれたのは、あくまで自分が数少ない純血の女鬼であるから。同胞意識と種族保存の為に仕方なく、千鶴の身を守ってくれているに他ならない。

そして、本来彼ら男鬼は、その体に持ち合わせた人ならざる力と体力を発揮すれば、ものの数日で日の本の端から端までを縦断する事等容易いという……それをこうして各所で体を休めつつゆっくり旅路を歩んでくれているのは、人間と変わらぬ体力しかない女鬼の千鶴に合わせているから……。
そんな事も気が付かず、自分は新選組を追うことばかりに囚われ体力が尽きていることすら自覚せず、先を急げと我侭ばかり言って倒れる始末。
何と滑稽な事だろう。
あまりに自分が情けなく、先程とは別の涙が零れ落ちる。
風間が足手まといになると言ったが、あれは彼なりの千鶴に対する心遣いだ。本当に彼が邪魔だと思うなら、風間だけ足を速めて千鶴を置いていってしまえば良い。それを一緒に足を止め、千鶴の体力回復に付き合ってくれているのだ。

天霧も、千鶴に対して柔和な態度で接してくれて、思わず甘えそうになってしまうが、彼もこうして自分に良くしてくれているのも、大阪でお千に言われたことを守っているだけの事。鬼は上位の血を持つ鬼に逆らえない……何故かは分からないが、恐らく太古の昔から今に至るまで、代々受け継がれた血に縛られた鬼の習性なのだろう。
人間との関わりを持つべきでないと強く主張する天霧は、風間が新選組と関わることすらあまり良く思っては居ない様子だった。
天霧は、お千の指示がなければ、人間と共に居たいという千鶴にわざわざ同行し、自分を守るなんてことはしないだろう。
そう考えると自分は、迷惑ばかり掛け酷く情けない存在に思える。再び零れだした涙が、ぽたりぽたりと残り雪の上に落ちた。


*****

「風間、雪村君が随分と苦しんでおられる様子……手をさしのべ、慰めの一つも告げてあげてはいかがですか?」

千鶴が小屋を出た後、風間は一見何事もなさげな表情で薪をくべていた。しかし長年従事してきた天霧ならば解る風間の心の内は、千鶴の悲しみを目にして、明らかに動揺していると見て取れた。

「……何故この俺が、あの小娘にそのような配慮をせねばならん。気になるならば貴様がすれば良いだろう?」

顔を動かさず、視線だけ天霧のほうへ向けて、さも面白くなさげに呟く。

この戦の最中、あくまで鬼の同胞が江戸への道中で命を落とす事になると後味が悪い故同行を許した迄のこと。
風間はそう自分を思いこませるように心の中で呟いた。

「貴方は己の感情から目を背けてらっしゃる……気になっているのでしょう?あの雪村君の事を……」
「貴様……何が言いたい……」
「雪村君が先ほど泣いていたのをご存じでしょう?雪村君本人は気づいていないでしょうが、台所で夕餉の支度をしている彼女をずっと見ていたのでしょう……心配げな視線を感じましたよ。」
「…………」

彼女の小さい肩震えるのを見ていられなかった。あの幼い娘は、養父である綱道の行方知は知れず、身を置いていた新選組からははぐれてしまったのだ。どんなに心細いだろうか。

風間はそんな事を思う自身に驚きも覚えていた。

信じる者は己一つで良い。肩入れするモノなどあれば、いずれそれが自分の枷となる。そう思い今まで生きてきた。
しかしこの千鶴という娘は、この俺の矜持をいとも簡単に壊し乱していく。
初めはただ、貴重な本家筋の女鬼が、むざむざ人にくれてやるのが惜しいと思っただけなのだが、いざ道中を共にしてみれば、非力な女鬼の身ながら、必死に新選組の奴らを追う姿が健気に思えてくる。
そして風間自身も、森を歩む道中、彼女が傷付かないよう行く手を塞ぐ枝を折り、極力千鶴が歩きやすいだろう道を選んで進んでいた。
もちろん女鬼の彼女からしたら、それでも険しい道のりであることに違いはなく、体力の限界を越え、張りつめた気がプツンと切れ意識を手放す千鶴を、気が付けば抱き抱えていた。
もはや建前ではない。自分にとって、この娘はただの女鬼という存在ではないのかもしれない。


暫くしてカラリと土間の勝手口が開く音がすると、濡れた手ぬぐいを手に千鶴が戻ってきた。

「天霧さん、お任せしてしまってすみませんでした。」

千鶴は窯の前で火加減調節をしていた天霧に頭を下げた。

「いえ、大丈夫ですよ………丁度米も煮えた頃ですから、夕餉にしましょう。」
「はい………」

天霧は、鍋ごと囲炉裏に持っていき五徳に載せた。囲炉裏の火で暖められた部屋には、出来立ての粥から白い湯気た立ち上ぼり食欲をそそる。
捕り立ての猪肉は臭みもなく、思いのほか柔らかく食べやすい。
千鶴は自分で粥をよそい食しつつ、風間や天霧の粥を取り分けながら3人で食べた粥は、いつぞや屯所で鴨鍋を皆でつついて食べた時を彷彿とさせた。

夕餉が終わると、天霧は外を見回ってくるといって、また外へ行ってしまった。

千鶴は、格子窓から覗く月をぼんやりと見上げる。
このような森の中から見た三日月は、あまりに美しく儚げだった。
同じように風間は、三日月を眺めながら、千鶴の傍らで酒を煽っていた。そんな彼の手元にある空になったばかりのお猪口に、千鶴は瓢箪から酒注ぎ酌をした。

「……お前と同じように、奴らもこの月を見ているやもしれんな………」
「………え?」

酒の入ったお猪口を、手首をクルリと回して酒を揺らしながら風間は低い声で呟いた。
三日月を眺めながら、あえて口に出さずとも同じ事を思っていた千鶴は、風間の言葉に瞠目した。

「……千鶴、お前が奴らを追い、焦る気持ちが分からんでもない………だが、人間にしては奴らは強い。薩長軍が優勢だとしても、そう簡単にやられる程柔ではなかろう。」
「……………もしかして、励ましてくださってます?………」
「……………」

図星だったのか、口を閉ざして手元の酒を煽った風間。気恥ずかしいのかプイッと横を向いてしまったその姿が、普段の彼らしくなく、千鶴は風間の本来の姿に一歩近づけた気がする。
普段口少なく、笑顔すら見たことが無い風間の以外な一面を覗き見、ふふっと笑みを零した千鶴の腕を掴み、グイッと引き寄せた。

「っ!!」

一瞬何が起きたか分からなかった。
腕を捕まれた力強さと、目の前を覆う白い布地。そして頬から伝わる風間の熱と鼓動の音。

腕を掴んだ手がそのまま背へと伸ばされ、力が入れられる。
風間の胸に閉じこめられたように抱き締められる格好に、頬を染めて戸惑いを覚えながら、先ほど意識を失う前に感じたあの心地よさがふと蘇る。
風間は深呼吸をするような吐息の後、ゆっくりと口を開いた。

「……これから辛いことが多々あるだろう………お前が無事綱道に会えたとしても、鬼の道を違えた奴を、場合によっては鬼の頭領の責務として俺は切らねばならんかもしれぬ……。そして、これから先無事に新選組の奴らに会えたとしても、薩長が錦の御旗を掲げた時点で勝敗はもう決している……」
「…………………」
「………ただ、これだけは覚えておけ………。この先、お前が養父綱道を喪おうと、新選組が再びお前を置いて先に逝こうと………俺は必ずお前を我が里に連れ帰る。以前から言っているが、お前を嫁に迎える事はこの先も変わることはない。」
「…………っ」

千鶴に対する風間の真剣な言葉に、千鶴は何故か微笑みと同時に涙が零れる。

「…………風間さん、変わらないですね………屯所に、襲撃に来たときも、二条城でも角屋で会った時も……いつも、風間さんは連れて行く、ばかりで……」
「………あぁ、そうだな……俺は変わらない。だから、安心して奴らを追いかけるといい…………」

風間の胸に大人しく抱かれる温もりを感じながら、千鶴は涙に濡れた瞳で微笑みながら眠りに落ちていった。



冬芽


「おはようございます、風間、雪村君。」

天霧の声に、ゆっくりと眠りから意識が浮上する。
真冬の道中、たとえ宿を取って休んでいても、大抵寒さで熟睡できずにいたのだが、今日に限っては温かく、久々に熟睡できた。

千鶴は朝日の眩しさを感じながら、ゆっくりと瞼を開けた。

「……………」
「……………」
「………………っ!!か、風間さんっ!?」

風間は随分前から起きていたのか、千鶴の目の前で平然とした顔で片膝をつきながら、片手は千鶴の腰を抱いている。
どうやら昨日、千鶴は風間に抱きしめられたまま眠ってしまったらしい。
場所こそ火のそばへ移っているが、あぐらをかいた風間の膝に、千鶴はしっかり抱かれていた。
千鶴は驚き、風間の膝から飛び退くと、肩を冷やさぬよう掛けられた風間の羽織りがパサリと床に落ちた。

「あ!!」

千鶴は落ちた黒い羽織りを後ろ手に持って風間に差し出す。

「す、すみません……私昨夜あのまま寝てしまったみたいで……」

風間の腕の中でそのまま寝入ってしまった事が恥ずかしく、真っ赤に染まった顔を見られるのがさらに恥ずかしくて、風間の顔を見ることが出来ない。
やはり風間は無表情で羽織りを受け取る。

「………行くぞ。さっさと用意しろ……」

肩から羽織りをひっかけて外へ出て行ってしまった風間に呆気に取られながら、いつの間にかほどけた髪を結い上げる。

「……昨夜風間と何かありましたか?」

先程小屋を出て行った風間のほうへ視線を向けながら天霧が問うてきた。
千鶴は昨日風間に抱きしめられ告げられた言葉や、先程まで彼の胸で寝ていた事全てが「何か」に思えて言葉を詰まらせる。

「えっ!?ど、どうしてですか?」
「いえ………気のせいかもしれませんが、風間の頬が僅かに赤かったように思えましたので……」
「そう……でしたか?」
「ええ……相変わらずの無表情ですが、よく見ると顔に出るのですよ、風間は。」
「…………」

それだけ言い残すと、天霧は身支度のじゃまになるだろうと小屋を出て行ってしまった。
昨夜の事を思い出し、照れているのは自分だけだと思っていたが、天霧の話が本当だとすると少し嬉しい気がする。
千鶴が身支度を整え小屋を出ると、すでに出立を待ってる風間と天霧の姿がある。

空は晴れ渡り、深呼吸すると、凜とした澄んだ空気が肺に送り込まれて心地良い。
今日の一歩が確実に新選組の皆へと近づいている。
これからまだまだ江戸道中は長いが、その辛く長い道のりも、彼らと共にあれば歩んで行ける。
千鶴は全身に朝日の光を浴びながら、彼らと共にまた江戸へと歩みを進め始めた………。


  1. 2012/10/01(月) 00:42:02|
  2. 頂きもの
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