皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「不香の花」

先日の「鞘」に引き続き、「桜夢記」のロカ様から頂きました♪
ありがとうございます^^

どうせなら全員の看病話を読んでみたい―――と言ったら書いてみて下さいました。
今回は一君♪
一君相手だとやっぱり『される側』になっちゃうみたいですね^^

今回のこのシリーズは男側からの話もあります。
それは本家に行って読んでみて下さいね。そちらも素敵なお話です。

では今回もちょっとしたおまけ絵をつけて。
続きより、どうぞ♪


  

不香の花


油小路の変の後、藤堂平助は羅刹となった。

新選組の幹部のうち、二人がこうして人としては死を迎えた。

人として死に、羅刹として生きる。

その道を選択したものでなければ、心中は計り知れないだろうと斎藤は思った。

 それでは、己は……。





 役目とはいえ、御稜衛士として伊藤一派の元に身を寄せていた斎藤は、屯所から離れて天満屋に身を寄せていた。土方直々の命で間者として伊藤派に付いていたと云っても隊士たちの中には納得のいかぬものも多いだろうからだ。

「すまねぇ、ほんのしばらく辛抱しちゃくんねぇか」

 そう言って土方は斎藤に深く頭を垂れた。

「……副長が頭を下げられるようなことでは、ありません」

 斎藤は言葉少なく、土方の謝罪を遮る。

 こうして誠実を絵にかいたようなこの男に酷な役目を与えたのは新選組の副長である自分だと云うのに、恨みごと一つ、斎藤の口から洩れることはない。そんな男に間諜と云う汚名を着せてしまった。

 新選組を束ねる副長の立場で斎藤に負わせた責務は正しい。だが、土方歳三という男の中に潜む何かがそれは間違いだと己を糾弾し責める。

 だが、斎藤一という人物はそんな土方の心中を慮って黙して何も語らぬだろう。

「俺の存在は、今の新選組にとって障りとなる。それは俺の望むところではありません。副長の仰るように一時でも別の場所に身を潜めるのは正しい判断だと……」

 藤堂のように、山南のように、皆が誠の旗の元に信念を貫いているのだ。間諜と嘲られようと、それがどれほどのものだと云うのだろう。

 斎藤の言葉に、今一度、土方は深く頭を垂れた。







 千鶴の心中は複雑であった。

 御稜衛士であった斎藤と藤堂は再び新撰組へと戻ってきてくれた。だが、藤堂は油小路の変で重傷を負い、生き延びるために変若水を口にすることを選びとった。千鶴の父が作ったあの薬を……。

「ごめん、なさい……」

 呟いた謝罪の言葉が寒く凍える京の空にまぎれる。浮かんだ涙を見せぬように必死に今にも雪が降り出しそうな曇り空をじっと見つめる。それでも涙は止まらない。千鶴の意思に反して溢れ、頬を流れていく。

 どうすればよかったのだろう……。

 時を巻き戻すことはできない。自分はどこで道を違えてしまったのだろう。

 あの日から、何度も、何度も考えた。でも答えが見つからない。

「わたしは、どうすれば良かったんだろう。父がしたことを、どう償えば……」

 凍える寒さの中に独り立ち続けて、どれほど時間がたったろうか。千鶴の身体はいつの間にか氷のように冷え切っていた。気がつけば辺りは暗くなり始めている。夕餉の支度に行かなくてはと、反射的に思う。急がなくてはと思う気持ちに身体がいつも通りに動いてくれない。

 そしてなんだか頭が痛いような気がした。そう言えば、このところあまり眠ることができなかった。寝不足がたたっているのだろうか、気をつけなければと千鶴は思った。これ以上誰にも心配をかけたくはなかった。それでなくても自分の存在が彼らの負担になっているのは事実なのだ。

「寒い……」

 そう己が呟く声が遠くに響いていた。そのままふぁわりと意識が遠くなる。その向こうで誰かが千鶴の名前を呼んでいた。







 気がつくと千鶴は己の部屋にいた。火鉢には炭がくべられ、その上に鉄瓶が乗せられているのだろう。シュンシュンと湯の沸く音が静かに響いていた。額には冷たい手ぬぐいが乗せられている。

「気がついたか……」

 その声に千鶴の意識は一気に現実に戻った。起き上がろうとして、くらりと眩暈を起こして、再び布団の上に横になる。そんな千鶴の様子を天満屋にいるはずの斎藤が傍らで、労わるような優しい眼差しで己を見つめていた。

「山﨑の話では過労からくる風邪のようだ。いまは、ゆっくりと休め……」

 淡々と語られる言葉が切なかった。こんなはずではなかったのに、また自分は……。

「申し訳、あり……」

 謝罪の言葉は続かなかった。

 咽喉の奥に塊のように詰まっていた何かかが斎藤の優しい言葉で溶けて、それが嗚咽となって千鶴は幼子に戻ったかのように泣きだした。それでも声を押し殺して泣く姿に斎藤は静かに呟いた。

「今度のことは……、あんたのせいじゃない」

「で、も……」

 それでも千鶴は自分を責めずにはいられない。

 父が変若水などと云うのを研究していなければ、自分が鬼などでなければ、自分が羅刹に襲われたりしなければ……。

 藤堂は羅刹にはならず、斎藤も苦しい立場に追いやられることはなかったはずなのに。

 答えが見つからないことがこんなにも苦しい。

 責められず、優しくされることがこんなにも哀しい。

 何より、斎藤が再び遠くに行ってしまうことの原因を自分が作りだしたことが切ない。

「あんたは悪くない」

 額の濡れ手ぬぐいを取り替えると、いつになく強い口調で斎藤は言いきった。

「いや、雪が降りそうなほど寒いなか、風邪をひくまで表に立っていたのはあんたが悪いな」

 そう言うと斎藤は僅かに微笑んだ。その笑みに救われるようで、千鶴の大きな瞳から再び涙があふれてきた。

「ご、めん、……さい」

「謝罪はいらぬと、言ったであろう」

 別に用意していたのだろう。乾いた手ぬぐいでそっと千鶴の涙を拭う。

「ここには俺しかいない。誰も部屋に近づかぬよう、副長が配慮してくれた。今夜だけは思いきり泣いて大丈夫だ」

 その言葉にクシャリと千鶴の表情が歪んだ。咽喉の奥に詰まっていた塊を全て押し出すように大声で千鶴は斎藤の手を握りしめてしゃくりあげて泣きだした。

 そうして……。

不香の花


 千鶴は泣き疲れて眠ってしまうまで斎藤の手をしっかりと握りしめて離さなかった。

 その千鶴の小さな手に斎藤は思う。この小さい手の中に何もかも仕舞い込んで耐える日々はどれだけ辛いことだったろう。

 平助の件も、己の件も、我が事のように細く華奢なその身に受け止めて……。

「千鶴は、優しすぎる……」

 これだから眼を離せぬのだ。土方に呼び出され、顔見るだけと思い千鶴を捜して本当に良かったと斎藤は思った。

 無理をして、倒れた千鶴を見つけることが出来たのだから……。

「大事がなくて、本当に良かった……」

 もしそんなことがあれば、今度は斎藤自身が自分を許すことができなかったろう。

「はやく、元気になれ」

 祈るように呟いた言葉は千鶴に届いただろうか、寝顔が僅かに微笑んだように思えた。それに斎藤は安堵を覚えた。

 外ではいつの間にか静かに雪が降り始めていた。

「不香の花がまた咲く」

 斎藤は誰に聞かせるわけでもなく、小さく呟いた。

 目覚めた時、千鶴の枕元に雪うさぎを作って置いてやれるほど積もるだろうか……。積もったのならば二羽のうさぎを千鶴に作ってやろう。きっと輝く様な笑顔を見せてくれるに違いない。

 その笑顔を胸にしまってもう一度この場所に返る日を待つのは悪くない。斎藤がこの場所へ返ってくる日、千鶴はきっと満面の笑みで己を出迎えてくれるに違いない。

 そう思うと、この凍えるような寒さも悪くないと斎藤はそう思った。

 不香の花とは雪のことをいう。
―了―
  1. 2012/09/15(土) 15:38:11|
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