皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

「霍乱」

先日の暑中見舞いのイラストに、「朱夏」のみゃう様からまた素敵な『呟き』を頂いてしまいました♪
(いや、『呟き』じゃなくちゃんとした短編ですよね、これは^^)


幹部の誰かが夏に倒れるなんて、ちょっと考えられない事なんですが―――
単に屯所時代のちーちゃんが誰かを看病している図を描きたかっただけ、という後先を考えなかったイラストに、ちゃんとした物語をつけて下さったみゃうさんには脱帽です。
この時代に釣忍があったかどうかも考えなかったのにw ちゃんとこれも生かしてくれて――流石です!



ではでは、いつものごとく、蛇足のおまけもつけて―――
この夏の暑さも忘れる、ある意味倒れたのにカッコイイ原田さんwを続きからどうぞ♪





霍乱





妙齢の。
あるいは言葉は悪いが、いっその事、とうが立った相手なら。
ある程度は行動も予測出来るし、好みも大方外さない自信はある。
だが子供とは明らかに違う、かといって大人とも言えない微妙な年頃の。
しかも男所帯に紛れる為に、男装を強いられている少女相手では、さすがの原田も戸惑うばかりだ。
千鶴は不自由な生活を愚痴ることも無く、働く事も厭わず。日々ただ黙々と屯所内の雑務を手伝っている。
常に変わりのない健気な様が気がかりで、原田も何くれなく気遣っていはいたが、どうにも勝手が違い過ぎる。

その日も何か目新しい物か気の利いた物は無いかと探してみたが、結局無難という理由で菓子を選んで屯所に戻った。
「お暑い中、お疲れさまでした。いつもお気遣いありがとうございます。
こちらのお菓子、前に平助君から貰ったんですけど、とても美味しかったですよ。原田さんもご一緒にいかがですか」
千鶴は原田から手渡された包みを大事に受け取ると「今、お茶をお持ちしますね」と勝手場に向った。
庭先の縁台に腰を下ろした原田は、千鶴を待つ間、ぼんやりと空を見上げる。
澄んだ空に入道雲。いかにも夏らしい。
大概、芸ぇが無えな。しかも平助と一緒かよ…。
それでも夕立が来る前で良かったなと思う。

千鶴の入れた茶は美味い。熱くとも、清涼感を不思議と感じる。
「ようやく人心地がついたぜ。ったく…これだけ暑いとどっかへ持ってかれそうだ」
原田は全ての疲れを吐き出す様に、ほぅと大きく息をつき緊張を緩めた。
「良かった…。今日も本当に暑かったですね。いつになったら涼しくなるのでしょうね。
お洗濯物がすぐ乾くのは嬉しいのですが、それを取り込んだり畳んだりがとても熱くて」
こんな感じですと、千鶴がフルフルと掌を振ってみせた。
時折みせる気兼ねのない仕草が微笑ましくて、原田も穏やかな気持ちになる。
「そういやぁ。軒先に苔玉と風鈴を一緒に吊るしてあったのを見たな。ありゃぁ涼しそうだった」
「釣忍でしょうか。形は違いますが江戸の実家でも吊るしていました」
「言われてみりゃ…確かにあれも釣忍か。で、お前んちのはどんな形だったんだ?」
えぇと…
千鶴は縁台から、とすんと降りると植木の茂みから小枝を拾い、地面にたどたどしい線を引く。
「確か筏…だったと思います。こう細長い物で…あとシダや苔を使ってありました」
「あぁこれなら判る。俺もこういう細工物が釣忍だと思ってたんだ」
懐かしいですね…とても。未だ見つからぬ父親を偲んでか、それとも離れて久しい江戸を恋うものか。
遠く投げかけるような眼差しで、千鶴は静かに笑った。

翌日も朝からよく晴れていた。
三方を山に囲まれた盆地だからだろうか。江戸とはまた異なった蒸し暑さがある。
朝のうちに巡察に出た十番隊だったが、些細な揉め事に巻き込まれ、屯所に戻ってこられたのは、昼もとうに過ぎた時刻になっていた。
会釈で隊士達を出迎えた千鶴が、いささか渋い面持ちの原田にそっと近づく。
「お疲れさまでした。土方さんは自室でお待ちです。そのあとすぐ昼餉をご用意しますね」
「ありがとよ。でも報告が済み次第、また直ぐ出かけるから飯はいらねぇ」
折角なのに、悪ぃな。
一、二度。千鶴の頭に乗せた手をぽんぽん弾ませた後に。わしゃわしゃ撫でると、そそくさと立ち去ってしまった。

あんなに慌ててどちらへ出かけられたのだろう…。
いつもの千鶴なら余計な詮索はしない。だが今日は違う。
隊務を終えた原田はその疲れも払わぬまま、食事も摂らずに直ぐに出かけた。
これから夕刻までの数時間が、一日で最も暑くなる。日差しは既に布越しでも痛く感じるほど厳しい。
原田さん…本当に大丈夫なのかしら。
心あらずのまま、千鶴は門の周辺の掃除やら打ち水やらを何度も繰り返している。

ここにも無ぇか…。
寺社仏閣が多い京では、連日、どこかしらで縁日が立っている。
それを廻れば直ぐに見つかるだろうと、原田は気楽に構えていたのだが。
千鶴や自分が思っていたような、筏型の細工を施した釣忍が見つからない。
その土地土地に、年ごとに。釣忍にも流行りの形があるのだと屋台の植木屋は言う。
宛が外れた原田は、思い付くまま数カ所を探し廻った。
途中で幾度か暑さや疲労を感じたが、思いの外、時間が掛かっている事が気がかりで休む間も惜しい。
早く帰らねぇとまた心配かけちまうからな…。
原田の脳裏に、見送ってくれた千鶴の、不安そうな顔がちらりと浮ぶ。

苦労の甲斐あって、ようやく探していた釣忍を見付け出した。
やれやれとホッとした所で、自身の異変に、原田はようやく気付いた。                                                                                                                                                                                       
しっかりと歩いているようで、どこか足がおぼつかない。
もつれている訳ではないのに、地面がぐらついているように感じる。
口の中がカラカラで。飲込む唾液すらなく。
涼を求めて開く呼吸は、熱い空気に掻き乱されている。
拙いな…、でもここで倒れる訳にゃぁいかねぇし。焦る気持ちが更に、原田の足を速める。

ようやく戻ってこられた屯所の、門をくぐったところで。原田はひとまず一度、呼吸を整えた。
頭を強く振って、ぼんやりとした重い眠気を払う。
これでまだ歩ける。きっと大丈夫だと思った途端。身体の芯が崩れるようにずるりともつれる。
「原田さんっ」
いつ帰って来るかと気がかりで。門から玄関周辺に気を配っていた千鶴が駆け寄った。
遠目からも赤い顔をしているのは判った。酔っているのかと思ったが、原田からは酒の匂いはしない。
既に汗すら蒸発し切ったのだろう。乾いた陽の匂いに、ざらついた埃の匂いが混じっている。
触れた腕の、肉が熱い。火照って熱が籠っているのが判った。
「原田さん」
もう一度強く呼ぶと、ようやく、あぁ…と返事があった。
「すっかり遅くなっちまって悪かったな。これ、お前にやろうと思ってさ」 
ー この為に。わざわざこの炎天下を歩いてくれたと言うの?。
昨日話していた、江戸の実家にあった釣忍。原田からの贈り物はそれによく似た形をしていた。
「ありがとうございます。嬉しい…」
ふらついて。気を抜くと直ぐに崩れてしまいそうな原田を支えると、千鶴は一緒に歩き出した。 



目覚めた時、原田は屯所の奥、客間に寝かされていた。
明るい…?。
原田の記憶にあるのは昨日の夕刻まで。ということは一晩、それ以上経っていると言う事か。
目をしばたたかせていると、傍らから自分の顔を覗き込んでいた千鶴と視線がぶつかった。
「気が付いた…。良かっ…た…」
震えた声。詰まらせた言葉に心からの安堵を感じる。
皆に知らせてきますと立ち上がりかけた千鶴を、待てよと原田は掠れた声で引き止めた。
「頼むから…先に教えてくれ。俺、昨日、どうなった?」
「熱射にやられて倒れられたとか。でも実は…私も詳しくは判らないんです」



霍乱

嫌ぁぁぁ…
昨日の夕刻。足取りのおぼつかない原田を支え、何とか玄関まで辿り着いた千鶴は。
そこで完全に意識が途切れ、ぴくりとも動かなくなった原田に思わず悲鳴を上げた。
ただならぬ叫び声に幹部達が駆けつけると、千鶴が錯乱状態で原田にしがみついている。
人目に触れては面倒だと、すぐさま無理矢理原田と千鶴を引き離し、自室に下げて待機を命じた。
その後は、大事かと集まって来た隊士達の収拾に追われたり、
山崎の指示で原田を風呂場へ担ぎ込み、身体を冷やす為に必死で水を掛けたりと、屯所内は大混乱だったらしい。
一連の騒動が収まった後。
土方に呼ばれ、事の発端と詳細を聴かれた千鶴は、原田が屯所を出た時と戻ってきた時の様子だけを伝えた。
炎天下、釣忍を探して歩いていたことは伏せておいた方がいいと思ったのだ。
「ここんとこの暑さで病人が多くてな。奴はその分も働いていたし…今日の巡察もかなり荒れたと報告もあった。たまたま悪条件が重なっちまったか」
それ以上、土方から詮索されることも咎められる事も無く。
「熱は下がったそうだが、目は覚ましてねぇ。絶対安静と山崎が五月蝿ぇから、客間に寝かしてある。後は頼めるな?」
「はい…」
それから一晩、千鶴は原田に付き添い。
ようやく先程、原田が目を覚ますに至ったということらしい。

幸い、土方を含め皆、過労による暑気中りと思っているようだが。
結局、屯所中を巻き込んで、大きな騒ぎを起こしたことに変わりはない。
格好つけて、この様、かよ…。情けなくて、自分にうんざりする。
報告に行く為に立ち上がった筈の千鶴だったが、廊下に通じる引き戸を大きく開いて、まだ幾分涼やかな朝の風を呼び込んだ。
「ご覧になれますか。頂いた釣忍です。江戸の自宅にあったものにとてもよく似ているんですよ…嬉しかったです」
「報告に行かなくて、いいのか?」
もう一度、傍らに座り直し。ゆっくりと団扇で仰ぎ出した千鶴に尋ねる。
「目を覚まされたとお伝えしたら、皆さん、きっとお見舞にいらっしゃるでしょう?でも今しばらくは静かに過された方が良いと思います」
釣忍で慰めるつもりだった千鶴から、こうして大人な気遣いで逆に慰められるとは、原田は思ってもいなかった。
これからは大人の扱いでいいということか…。
「もう一度ゆっくりお休み下さいね。次に目を覚まされたら、今度こそ報告に参りますから」
千鶴に勧められるままに。
原田はゆっくりと目を閉じた。

いつもの喧噪が、遠くから聞こえてきた。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
「腹をかっ捌いたって死なねぇのにな」
あぁ。あの少し拗ねたような不貞腐れた声は平助か…。
…(かっ捌くって…、俺はうなぎか)。
うつら、うつらと半分は夢の中で、原田は彼らの話を聞き、応えている。
「今まで袖にしてきた女の祟りだろ、ざまぁみろ。だから言わんこっちゃねぇ」
…(「だから」って何だ、阿呆)。
「千鶴ちゃんの気を引きたいなら、もっとマシな手があるだろうにね」
……(手前ぇじゃあるまいし)。
きちんとやり返したつもりの言葉は、何故か頭の中でぐにゃりと溶けて廻った。
「天変地異の前触れでなければ良いが」
………(……)。
「でもよぉ、あの左之でも倒れたんで…土方さんが暑気払いを考えてくれてるらしいぜ?」
「やったね。じゃ。無駄死にじゃなかったんだ」

「…死んでねぇよ。たぁこ」
「えっ…あれっ?。原田さん、起きていらっしゃるんですか?」
眠っている筈の原田の声を聴いた気がして千鶴は聞き返したが、それに応えは無かった。



カット145


  1. 2012/08/14(火) 16:54:35|
  2. 頂きもの
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  1. 2012/08/18(土) 19:36:47 |
  2. |
  3. #
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みゃう様♪

お帰りなさーい!
お帰りになって早々、こちらに来て下さってありがとうございます^^
身も心もリフレッシュしたお休みであったことと思っております。
いらっしゃらない間に、余計なカットと共にUPさせてもらいましたが、早速のお受け取り、ありがとうございます♪
ほんとに、あの文章で拙宅の千鶴ちゃんが何割増しかで可愛くなったんではないかと自負しておりますw
いつもこちらこそ、みゃうさんにはばらまいてるタネを拾ってもらってるようで、恐縮ではありますが、大変幸せを感じています。
今後も(厚かましいお願いですが;)みゃうさんが拾いがいがありそうだなあ…と思ったら、どんどん拾っちゃってやって下さい(^-^ゞ
どうぞこれからもよろしくお願いします。
さて、夏も後半戦。
養った英気で乗り切っていきましょうね^^
  1. 2012/08/19(日) 09:12:18 |
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  3. ちょこ #-
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