皓月庵

乙女ゲーム中心の趣味に走ったアナログ二次創作ブログ。マンガと小説のごちゃまぜ^^;

薄桜鬼SSL text「贈る言葉」

漫画にしようとメモしていた、ネタのようなSSです。
藤田麻衣子の「写真」という歌を聞いてて、思いついた話。


卒業シーズンに合わせて描こうと思ってたんだけど、内容が内容だけにどうしようかな~と、うだうだ考え続けて挫折しました^^;
なのでもう今回は、時期だけははずさない内に、文章だけでもUPしとこうかな、と。
年末のあのファイル消失のような恐怖は味わいたくないしw



と、いうワケで、久しぶりに文章です。
『原田さんが千鶴以外の人と結婚してるなんて嫌』という方はスルーして下さい。

『気にしなく』て、私の『いつもの話』でも大丈夫な方w 続きからどうぞ。
読んで下さると嬉しいです^^




贈る言葉



 いつもは鍵が掛かっているはずの、屋上へ出る鉄扉の取っ手に手を掛けると、それは軽く押しただけで小さく音を立てて外側へ開いた。

 ―――あの人がいる

 初春の暖かい陽が差す屋上のコンクリの上へ、一歩踏み出した千鶴の前方には、フェンスに背を預けこちらに顔を向けている人影があった。

 白いシャツを腕まくりし、いつもの臙脂のネクタイを無造作に緩め、3月の春風に少し長めの赤みがかった髪をなぶられてそこに立っていたのは―――
「―――原田先生…」



「―――来てくれないかと思ってました」
 千鶴がほっとしながら、原田の前に歩み寄ると、いつもの磊落な笑みが向けられた。
「ばぁか。大切な教え子が『どうしても話したい事があるから聞いてほしい』と真面目な顔でお願いしてきたんだ。ならばっくれるわきゃねぇだろ」
「そうですね…それに今日が最後、ですし」
「そうだな」

 千鶴は簡単にそれを首肯する原田から目線を外し、その隣りへと並ぶと、フェンスから校庭を見下ろした。
 そこには同じ制服の胸に花をつけた男女が、泣いたり笑ったりさんざめきながら、ほぼ全員同じ方向へ流れていく様子が見てとれる。
「いいのか? 皆と次の会場へ行かなくて」
「先生こそ」
「俺は少し遅れると言いおいてきた」
「…そうですか」
『少し遅れる』―――“大切な教え子”との二人だけの多分最後の時間は、そんな程度のものなのだと、千鶴は改めて思い知らされた気分だった。

「―――原田先生」
 千鶴は隣りに立つ大柄な男を、万感の思いで見上げた。

 ―――こうして二人だけで話すのは最後
 ―――こんなに傍にいられるのも最後
 ―――左之助さん

「雪村?」

 自分を見上げたまま語を継がない千鶴を不審に思ったのか、原田が声を掛けた。
 その艶のある声が『千鶴』と呼んでくれたことは一度もない。
 当たり前だ。今は教師と生徒以外の何物でもないのだから―――

「―――先生」
 千鶴は大きく息を吸って、最後の言葉を吐き出した。「私が作ったお話をきいてほしいんです」
「お話?」
 突然の申し出に驚いたのか、原田の目が見開かれた。
 その目の前で千鶴は小さく頷いた。
「もうずっと…それこそ物心つく頃から、ずっと、心の中で暖めてきた物語です。あまりに大事にし過ぎて、誰にも話したことなどない夢物語―――それを先生に聞いてほしいんです…最後に」
「最後に?」
「はい」
 千鶴は小さく微笑んで首肯した。「子供の頃から夢想し続けたお話―――高校卒業にあたって、このお話からももう卒業しようと思い、記念に担任であった先生に聞いておいて欲しいな、って」
「意外だな、雪村が創作をするなんて。お前、そんな趣味があったのか」
「意外、ですか。聞いてもらえませんか?」
「いや」
 原田は寸時物思いするように言葉を切ると頷いた。「お前が今日この日にどうしても話しておきたいというなら、その話は特別なんだろ。なら聞かないという選択はないな」
「…ありがとうございます」

 ―――変わらず優しい人…

 千鶴はその懐かしい笑みを胸に深く沈めながら、口を開いた。


「―――時は幕末、その少女は京へ行ったまま帰らない父を捜す為、男装して上洛しました。そして、着いたその夜、彼女は見てはいけないものを見てしまったのです。それは―――」

 千鶴が語り出した物語に、原田は黙って耳を傾けた。





 入学して、出会って一目で“彼”だとわかった。
 ずっと記憶にあった微笑み、大きな手、艶のある声―――自分に記憶があるのだから、今は知らん顔をしている彼 もすぐに思い出して、あの瞳を輝かせて「千鶴」と呼んでくれるはずだと思った。
 けれど―――一週間、二週間…一ヶ月、二ヶ月…

「え…原田先生って結婚してるの?」
 前世と同じく、女性にひどく人気のある彼のプロフィールは、簡単に耳にできた。
 曰く、かつてどちらが原田先生に気に入られているかで女生徒同士で掴み合いの喧嘩が起きた。
 曰く、3年の女子が突撃したけれど、まるで相手にされなかった。
 曰く、実は奥さんと子供を何より大事にしている愛妻家でマイフォームパパ。

 それでも、思い出してくれさえすれば、自分を選んでくれると思ってた。
 だから、彼の目に『千鶴』を認識する光が点るのを期待して、『先生』の近くに纏わりついた。

 でも―――

「先生、手帳が落ちましたよ」
「お、サンキュ、悪りぃな」
 そこから落ちた写真―――
「これ―――」
「あー、見られちまったか、嫁さんと娘だ」

 顔のない単語のみの“妻子”なら、考えずにすんだ。
 昔の原田だって島原へ行っては朝帰り、ということもあったし、女の人の影がいくらでもある人だったから…。 最終的に千鶴を選んでくれればそれでいいと思っていた。
 だけど、写真の中、千鶴の記憶にある愛しいものへの微笑みを浮かべて、見知らぬ女性と3歳くらいの幼女と並ぶ原田を見てしまっては―――



「―――新選組の原田左之助は全てを捨てて、彼女を選んでくれました。彼女も彼の手を取って、見知らぬ土地へ―――」
「―――けれど、女鬼が少ないのは、子を産むと極端に弱るせいだったのです。息子を産んで数年、彼女は二人を置いて―――」

 離れたくない、もっとこの人と共に……多分最期に思ったのはその言葉。
 もっともっと一緒に生きるはずだった。何もかも捨て、自分を選んでくれたこの人と―――
 けれど、幸せな時はあっという間に終わってしまった。
 一緒に暮らせたのはたった数年―――まさかそんなに早く別れがくるとは思わなかった。

 多分、それが心残りだったのだろう。
 その想いを抱えて、今生に生まれてきてしまった。そして、彼を求めた。
 だけど彼は、既にもう全く新しい人生を生きていた。
 千鶴など必要としない人生を―――


「―――彼女は愛する者たちを置いていく事がひどく心残りでしたが―――自分の人生に満足して逝くことができました」
 本当は満足なんかしていない。
 だけど最後に―――せめて、伝えられずに終わってしまったこの言葉を、今、贈りたい。
「私を選んでくれてありがとうございました、左之助さん。私は幸せでした」




「―――お前、そっち方面の才能あるんじゃねぇか?」
 予想していた通りの、裏切らない言葉が返ってきた。「最後まで聞き入っちまったぜ」
 賭けともいえない最後の賭けは、みごとに散って終わった。
 千鶴は精一杯の笑顔で、その原田の賞賛の言葉を受けた。
「同姓同名の先生には聞いておいてほしくて…すみませんでした。我儘を言って」
「いいってことよ。教え子の卒業記念だ。これぐらいなんてこたねぇよ」
 原田はそう言って笑うと、その大きな手を千鶴の頭へ乗せた―――かつてのように。「お前の大事な『物語』、俺は絶対忘れないから。聞かせてくれて、ありがとよ」


「―――先生…私…」
 喉元までこみ上げた熱いものを、千鶴はぐっと飲み込んだ。
 それが逆流して目頭が熱くなる。
「ほれ、お前もこの後予定があんだろ? いつまでもこんな所で時間潰してないで、もう行け」

「はい。先生、3年間お世話になりました。お元気で」
「ああ、お前も、元気でな」
 
 千鶴は最後にその懐かしい男の笑みを、潤む目に焼き付けると、振り切るように一礼し踵を返す。
 そして、もう二度と振り返ることなく、少し肌寒い風が吹いてきた屋上を後にしたのだった。 





「卒業おめでとう……幸せになんな、千鶴」

 ―――恩師の贈る言葉は、誰の耳にも届くことなくその風に乗ってさらわれていった。




了(1012.2.6.)
  1. 2012/03/12(月) 18:00:27|
  2. 小説
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